詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高柳誠『フランチェスカのスカート』(6)

2021-06-10 18:07:36 | 高柳誠「フランチェスカのスカート」を読む

 

高柳誠『フランチェスカのスカート』(6)(書肆山田、2021年06月05日発行)

 「修道院」は「親方」を別の角度で描いている。もちろん親方は出てこないが。登場するのは院長先生と教育係のシスターだ。

  ぼくたちの教育係だったシスター・エリザベートは、院長先生とは
  正反対で、ある意味スキだらけのずいぶんな年寄りに見えた。

 私が棒線を引いたのは「正反対」ということば。「正反対」が登場することで、世界の幅が広がる。「親方」におかみさんがいるのと同じだ。
 この正反対は、まず、院長先生について書かれている。

         きびしさの中心にやさしさがあるのだ。

 きびしさとやさしさの同居。そのとき、高柳は「中心」という不思議なことばをつかっている。
 「正反対」のものがあるとき、その間には「中心」がある。それは対立するというよりも、ひとつの「円」なのである。「正反対」は「中心」があることで生まれる。
 だから、ほんとうのキーワードは、一回だけつかわれている「中心」ということばである。「正反対」は中心の存在を証明する「方便」なのである。
 そして、それが「方便」であるとすれば。
 ここから、もうひとつ、おもしろいことが見えてくる。
 「ぼく」(詩の主人公)がいたずらをすると、

  眼を見開いて「まあ、あなたって子は…」と言ったきり、絶句して
  しまう。そして、体中がぶるぶるふるえだすので、そのまま死んで
  しまうのではないかと心配になる。その深く刻まれたしわのなかの、
  悲しみに満ちた眼をみると、ぼくの心にはじめて後悔の念が襲って
  くるのだ。

 「ぼくの心」が「中心」を生み出している。「中心」を発見している。そしてそのとき、その「発見」は自分自身の発見でもある。
 「きびしさはやさしさである」と発見する。それに気づいた「ぼく」が院長先生の「本質」を発見するとき、「ぼく」は僕自身の「生き方」を発見する。
 「中心」は「ぼくの心」である。それは同時に「世界」を描写する高柳の「ことば」である。
 「中心」ということばのなかに「心」という文字があるのは象徴的である。

 

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
(郵便でも受け付けます。郵便の場合は、返信用の封筒を同封してください。)

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」2021年5月号を発売中です。
137ページ、1750円(税、送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

https://www.seichoku.com/item/DS2001411


オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「深きより」を読む』76ページ。1100円(送料別)
詩集の全編について批評しています。
https://www.seichoku.com/item/DS2000349

(4)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(5)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(6)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高柳誠『フランチェスカのス... | トップ | 山田亮太『誕生祭』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

高柳誠「フランチェスカのスカート」を読む」カテゴリの最新記事