詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(148)

2019-05-16 10:25:57 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
148 玄関の鏡

 裕福な家の、玄関での短い描写。

一人の美しい少年が(洋服屋の店員で、
日曜日にはアマチュア運動家)
包みを手にそこに立った。家のものが受けとり
預り証を取りに中へ入った。少年は
一人でそこで待ちながら
鏡のところへ行き、映った自分を見て
ネクタイをなおした。五分たって
預り証は手渡され、彼は帰っていった。

 この少年の姿を映して、古い鏡は「つかの間、完璧な美を映して/それを誇らしく思った。」という行が最終連に出てくる。鏡が「主役」になって独白する。
 池澤は、

数分間の出来事を扱うという点で映画的であり、視点を変えて鏡の側の思いを書くのもおもしろい。

 と書いている。
 少年が自分の姿を確認し、整える描写が簡潔で美しい。「五分たって」という時間の経過を具体的に書いているのも楽しい。ほんとうに五分か。違うかもしれないけれど(池澤の書いているように数分かもしれないけれど)、「五分」ときっちり区切っているのがおもしろい。それはちょうど鏡が少年の姿を鏡の「枠」のなかにきっちりとおさめる感じに似ている。あいまいではだめなのだ。
 このきっちりした「枠」というか、「枠」のきっちりした感じを「預り証」ということばが補足している。できごとはあいまいなようで、実は明確なのだ。明確なものを頼りに動いている。

日曜日にはアマチュア運動家

 このひとことも効果的だ。「政治運動家」ではなく、いわゆる「アスリート」なのだろう。何をしているか書いていない。しかし、余分な贅肉のついていない、しなやかな動きが服をとおしても感じられる。そこにも「かっちりした枠」がある。
 




 



カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
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