高柳誠『フランチェスカのスカート』(15)(書肆山田、2021年06月05日発行)
「時の糸」。「時の流れ」は「意識の流れ」。これは高柳の詩に共通する性質のように思える。「意識」は「想像」でもあり「理想」でもある。想像と理想が同じものであることは、ふたつのことばがともに「想」という文字を抱え込んでいるところからもわかる。
理想的な時の糸を常に選択して
いけば、ひょっとして時の糸の方で勝手にこちらを選択してくれる
ことがないとも限らない。
「選択する」という動詞が「選択してくれる(選択される)」にかわる。人間(自分)が時を「選択する」と、時が人間(自分)を「選択してくれる」というのは、能動から受動への「文体」の変化だが、「文体」を能動にととのえなおすと、時が人間(自分)を「選択する」になる。
これは何を意味するか。
高柳は、実は、書かなくていいことを書く。「余剰」を書く。「余剰/書かなくていいこと」というのは言い過ぎだが、なんといえばいいのか、ひとつのことを裏と表、二重の視点から書くことで世界を「合わせ鏡」のように押し広げ、同時に閉ざすのである。
「文体」の変化が世界を「完結」させる。
これはもしかすると「悪い癖」かもしれない。「完結」せずにはいられない、という癖が、時里二郎と共通しているように思う。
この詩では「選択する/選択される」という「完結」を破壊し、解放するために(作品の中につかわれていることばで言えば「寸断する」ために)、「時の糸」に「矢」が放たれる。糸に矢があたり音が鳴り響く。それが音楽になると展開するが……。
長い糸から発せられる音楽は、あまり
にも周波数が低いため人の耳には聴き取れない。それでもその音楽
は、心の奥底にそれと知れずに忍び入って、ひそかにその人の運命
と共鳴する。
しかし、その「寸断」は「時=運命」ということばで、再び完結する。
「ことばの肉体」にしみついてしまった癖(思想)というのは、なかなか振り切ることがむずかしい。
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