高柳誠『フランチェスカのスカート』(17)(書肆山田、2021年06月05日発行)
「本」。この作品には、注釈をつけたくなることばがたくさんある。すべてのことばに注釈をつけたくなる。つまり「高柳語」がぎっしりとつまっている。
本を「物体」と呼んだ後、こう書いている。
印刷された文字を読み進めたとたん、一
挙に別の世界が広がる。そんなふしぎな世界を、どうやってこんな
小さな箱に閉じ込めていられるのだろう。
「物体」は「箱」と言いなおされている。そして、そう呼びなおすとき「閉じ込める」という動詞がつかわれている。この「閉じ込める」は重要なことばである。高柳は、ことばで「高柳ワールド」を「閉じ込める」。
そして、それは本を「開く」ときに広がるのだが、そこにはもうひとつ別の動きがある。
紙に囚われているはずのそうした文字たち
が、いつのまにか立ち上がって自由に動き、互いに連動しあって独
自の世界を織り上げていく。
「囚われている」は「閉じ込められている」である。閉じ込められている文字が、「自由に動き、互いに連動しあ」う。そして、新しい世界を「織り上げていく」。
「織り上げる」は、一つの運動のなかにことばを「閉じ込める」、ばらばらだったものをある形に構成するということかもしれない。
重要なのは、しかし、その織り上げられたものではなく、ことばが「自由に動く」ということである。自立するからこそ、それは「独自の世界」になりうる。
しかも、
本から生まれた世界は、ぼくたちが生活するこの世
界以上に広い。しかも、この世界とは違った原理のもとに存在して
いる。
「原理」ということばが出てくる。「独自の原理」をもっているから「独自の世界」になる。「原理」がなければ、それは「世界」ではなく、「でたらめ」になってしまう。
「原理」とは「法則」である。そして、このとき「法則」とは「運動」のことである。
たとえば、最初に引用した部分には「とたん」ということばがあった。引用は省略するが、別な部分には「ただちに」ということばがある。どちらも「運動」が接続していることをあらわす。「休憩」はない。休まない運動である。休まない、ということが高柳の動詞の「原理」である。「閉じ込める」「開く」という運動は矛盾しているが、矛盾しているからこそ、即座に「止揚」され、新しい運動へと転換していくのである。
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