~“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。
ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。
ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。「BOOK」データベースより)
とても評価の高いベストセラー小説です。『ディストピア小説』の代名詞のような作品で、「ディストピア」で調べると以下のような記述があります。
~よくSFなどで題材とされ、「表面的には秩序だって管理の行き届いた世界に見えるが、その内実は極端なまでの管理社会であり言論の自由などがない」社会として描かれることが多い。ジョージ・オーウェルの小説「1984年」などがとくに有名かと思われる。
また、自由な上層階級社会の下に人間扱いされない下層階級が描かれることも多く、ディストピア小説のはしりとされるH・G・ウェルズの「タイムマシン」においては、抑圧された労働者階級が地下に潜り無知な天使と化した旧上層階級を捕食する様子が描かれる。
尚、人類が伝染病や核戦争で滅亡していなくなってしまった世界をディストピアと呼ぶことがよくあるが、これらの世界観はポストアポカリプス「終末の後」と呼ばれる全くの別物であり、誤用である。
とのことです。
まさに、この物語は、「表面的には秩序だって管理の行き届いた世界に見えるが、その内実は極端なまでの管理社会であり言論の自由などがない社会」が描かれています。
世界は3つの大きな国(「オセアニア:南北アメリカとイギリス,及びオーストラリア・ニュージーランドと南アフリカを加えた,今でいう英語圏」、「ユーラシア:ロシアを中心としたポルトガルからベーリング海峡までの現在のヨーロッパ大陸」、「イースタシア:中国を中心とした日本を含む東アジア地域」に分かれていて、常に戦争状態にあるという近未来予測小説的な不思議な世界観です。
主人公のウィンストンは、党が支配するオセアニアの末端党員として日々の業務の淡々とこなしながら、監視社会に疑問と不満を心の中に浮かべつつも、行動を起こすことが出来ないでいます。
そんな中で無意識的に日記を付け始めたことから、少しずつ考え方や行動が変わってきます。
そして恋人ジュリアを得て、ウィンストンの行動は更に大胆になる一方で、「そう遠くない未来に自分は拘束され、拷問され、そして蒸発させられる」ということを確信していきます。
「このまま二人でうまく逃れられたらいいのになあ~」と思いましたが、そんな簡単にいく訳もなく・・・。
物語は後半から一気に進行し、党による拘束、拷問、洗脳、再人間化教育ともいえる施術を施し、ウィンストンの人格を破壊し、再生していきます。まぁ、これがなかなか見事なものでして、「こうして党独裁の社会とは築かれていくんかなぁ~」と思わされてしまいます。
歴史の中の独裁者、独裁国家の実例を挙げながら、まさに物語中のオセアニアが実在しているかのような錯覚さえ覚えます。
現代の日本のように、当たり前のことを当たり前だといえる世の中、自由に行き来が出来て、どんな人とも自由に会ったり、話が出来たり、そういう日常を貴重に思わなければなりません。
マイナンバーカードが導入されるときに「監視社会の始まりだ!」と声高に叫んだ人たちがいますが、近い将来に、自宅での会話が傍受され、街角での行動などがカメラに映り、何を買い、何を食べ、誰と会って、どんな話をしたかなどが国家の監視下におかれていくことも考えられないことはありません。そういう、うすら寒くなるような小説でした。
巻末の付録と解説もあわせて読むことをお勧めします。
★★★3.5です。
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