今回ご紹介するのは「かけら」(著:青山七恵)です。
-----内容-----
家族全員で出かけるはずだった日帰りのさくらんぼ狩りツアーに、ふとしたことから父と二人で行くことになった桐子。
口数が少なく、「ただのお父さん」と思っていた父の、意外な顔を目にする(表題作)。
結婚を前に、元彼女との思い出にとらわれる男を描く「欅の部屋」、新婚家庭に泊まりに来た高校生のいとこに翻弄される女性の生活を俯瞰した「山猫」。
川端賞受賞の表題作を含む短編集。
-----感想-----
久しぶりに読む青山七恵さんの作品でした。
青山七恵さんは私より1学年上の83年世代で、この世代の女性作家といえば黄金世代です。
綿矢りささん、金原ひとみさん、島本理生さん、そして青山七恵さんと、強豪の名前が並びます。
2009年にこの作品に収録されている短篇「かけら」で、第35回川端康成文学賞を歴代最年少で受賞とのことでした。
その「かけら」ですが、ゆったり、静か、淡々といった言葉がピッタリの物語でした。
これは芥川賞受賞作である「ひとり日和」でもそうでしたし、青山さんの作風なのだと思います。
派手なことは何もないですし、これといって事件も起きません。
伊坂幸太郎さんのような物語の妙もないですし、森見登美彦さんのような面白い言い回しもありません。
それでもスムーズに読めるのが青山七恵さんの作品です。
それはなぜかと言うと、”上手い”からです。
派手さはなくても、人の心の機敏を丁寧に掬い取っていて、何気ない会話や心境の描写を見てハッとしたりします。
地味ながらも読ませてくれる、これぞ王道純文学だと思います
「かけら」は主人公の遠藤桐子(20歳)が父と長野県のさくらんぼ狩りツアーに行くという話でした
本当は家族5人で行くはずだったのが母と兄と兄の娘の3人がキャンセルになり、しぶしぶ父と2人で行くことに。
父との会話はあまり続かずすぐ終わってしまうことが多くて、その距離感にリアリティがありました。
帰りのバスでは最初父が寝ていて、起き出したら桐子は気まずかったのか寝たふりをしていて、それが「寝たふりかよ…」という感じで印象に残りました
この父と娘のぎこちない感じはどの家庭でもわりとよくあるのではないかと思います。
ただこのさくらんぼ狩りツアーを通して父の家では見せない意外な一面を見ることが出来て、桐子としてはお父さん株が少し上がったのではないかと思います。
直接の描写はなくても、そのように見えました。
「欅の部屋」では、以下のやり取りが印象的でした。
「ほんとに結婚するのかな」
「誰が」
「あたしたち」
「するよ。今、少しずつしてるよ」
「今?」
「そう。まさに今、結婚しつつあるんだよ」
次の年の春に入籍して結婚式をするにあたって、実感の湧かない彼女さんとのやり取り。
結婚しつつあるという表現が印象的でした。
まだ入籍も結婚式もしていない中でも、新居の準備や結婚式の準備をしている今は結婚しつつある状態ということです。
良い表現だと思います
そして、「かけら」を凌ぐ作品ではないかと思ったのが、「山猫」です。
主人公は小暮杏子、29歳。
旦那の秋人は大学時代の同窓生。
ある日、沖縄県西表島に住む松枝叔母さんから従妹の栞を杏子達の住むマンションに泊めてくれないかと頼まれます。
栞は高校二年生で、東京の大学に行きたいので何校か見て回りたいとのことでした。
そして栞が来るのですが、何だか気難しい感じで、何か聞いても一言しか答えてくれないことが多く、杏子はどう接したものかと苦心していました。
その苦心ぶりがいたたまれなく、表面上の文章は何気ない会話なのに、妙な緊張感が漂っていました。
何とか会話をしたい、心を開いてほしいと思う時って、ああいう雰囲気になると思います。
タイトルと、表紙の綺麗さが目に留まって手に取ってみた一冊。
読んでみて良かったです。
いつの間にか何冊も本を出されていますし、他の作品も読んでみたいなと思います
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-----内容-----
家族全員で出かけるはずだった日帰りのさくらんぼ狩りツアーに、ふとしたことから父と二人で行くことになった桐子。
口数が少なく、「ただのお父さん」と思っていた父の、意外な顔を目にする(表題作)。
結婚を前に、元彼女との思い出にとらわれる男を描く「欅の部屋」、新婚家庭に泊まりに来た高校生のいとこに翻弄される女性の生活を俯瞰した「山猫」。
川端賞受賞の表題作を含む短編集。
-----感想-----
久しぶりに読む青山七恵さんの作品でした。
青山七恵さんは私より1学年上の83年世代で、この世代の女性作家といえば黄金世代です。
綿矢りささん、金原ひとみさん、島本理生さん、そして青山七恵さんと、強豪の名前が並びます。
2009年にこの作品に収録されている短篇「かけら」で、第35回川端康成文学賞を歴代最年少で受賞とのことでした。
その「かけら」ですが、ゆったり、静か、淡々といった言葉がピッタリの物語でした。
これは芥川賞受賞作である「ひとり日和」でもそうでしたし、青山さんの作風なのだと思います。
派手なことは何もないですし、これといって事件も起きません。
伊坂幸太郎さんのような物語の妙もないですし、森見登美彦さんのような面白い言い回しもありません。
それでもスムーズに読めるのが青山七恵さんの作品です。
それはなぜかと言うと、”上手い”からです。
派手さはなくても、人の心の機敏を丁寧に掬い取っていて、何気ない会話や心境の描写を見てハッとしたりします。
地味ながらも読ませてくれる、これぞ王道純文学だと思います
「かけら」は主人公の遠藤桐子(20歳)が父と長野県のさくらんぼ狩りツアーに行くという話でした
本当は家族5人で行くはずだったのが母と兄と兄の娘の3人がキャンセルになり、しぶしぶ父と2人で行くことに。
父との会話はあまり続かずすぐ終わってしまうことが多くて、その距離感にリアリティがありました。
帰りのバスでは最初父が寝ていて、起き出したら桐子は気まずかったのか寝たふりをしていて、それが「寝たふりかよ…」という感じで印象に残りました
この父と娘のぎこちない感じはどの家庭でもわりとよくあるのではないかと思います。
ただこのさくらんぼ狩りツアーを通して父の家では見せない意外な一面を見ることが出来て、桐子としてはお父さん株が少し上がったのではないかと思います。
直接の描写はなくても、そのように見えました。
「欅の部屋」では、以下のやり取りが印象的でした。
「ほんとに結婚するのかな」
「誰が」
「あたしたち」
「するよ。今、少しずつしてるよ」
「今?」
「そう。まさに今、結婚しつつあるんだよ」
次の年の春に入籍して結婚式をするにあたって、実感の湧かない彼女さんとのやり取り。
結婚しつつあるという表現が印象的でした。
まだ入籍も結婚式もしていない中でも、新居の準備や結婚式の準備をしている今は結婚しつつある状態ということです。
良い表現だと思います
そして、「かけら」を凌ぐ作品ではないかと思ったのが、「山猫」です。
主人公は小暮杏子、29歳。
旦那の秋人は大学時代の同窓生。
ある日、沖縄県西表島に住む松枝叔母さんから従妹の栞を杏子達の住むマンションに泊めてくれないかと頼まれます。
栞は高校二年生で、東京の大学に行きたいので何校か見て回りたいとのことでした。
そして栞が来るのですが、何だか気難しい感じで、何か聞いても一言しか答えてくれないことが多く、杏子はどう接したものかと苦心していました。
その苦心ぶりがいたたまれなく、表面上の文章は何気ない会話なのに、妙な緊張感が漂っていました。
何とか会話をしたい、心を開いてほしいと思う時って、ああいう雰囲気になると思います。
タイトルと、表紙の綺麗さが目に留まって手に取ってみた一冊。
読んでみて良かったです。
いつの間にか何冊も本を出されていますし、他の作品も読んでみたいなと思います
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