読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

6月の青空

2014-06-13 23:14:17 | ウェブ日記
今日は久しぶりに晴れました
先週の木曜日からほとんど雨の日ばかりで、朝から晴れたのは8日ぶりになると思います。
会社帰りにも綺麗な青空を見ることが出来ました。

私は6月の青空が好きです。
なぜ好きなのか、それは希少価値が高いからだと思います。
6月は梅雨に入ってしまい雨や曇りの日が多くなるため、なかなかすっきりとした青空は見られません。
なのでひとたび晴れてくれるとすごく晴れ晴れとした気持ちになります

特に好きなのが18時~18時半頃の、夕方の青空。
6月は夏至を迎える、一年で最も日の長い月です。
18時~18時半頃になってもまだまだ空は明るいです。
太陽の光は弱まってきていて、とても穏やかな雰囲気の青空が見られます。
この穏やかな青空が、私を清々しい気持ちにさせてくれます。
まだ太平洋高気圧の影響を受けていないからなのか、7月の青空と6月の青空は明確に違うなと思います。
6月は穏やかさと柔らかさ、7月は豪快さといった感じです。

そして今日は帰宅後にふと思い立ち、19時半頃から散歩を兼ねて図書館に出掛けてきました。
19時半でもまだ空に明るさがあるのが夏至を直前に控えたこの時期の素晴らしいところです。
ほのかに明るさを残しつつ、段々と夜になっていく空を眺めながら歩きました。
19時40分でもまだ明るさがあり、19時50分くらいにようやく夜になったように思います
この時期に晴れてくれると「何時くらいに夜になるのか」を確かめてみたくなります^^
さらにはとんでもなく大きな満月が昇り始めていて、6月の満月はこんなに大きいのかと感嘆としました
週末の土曜、日曜も晴れてくれるようなので、夏至を直前に控えたこの時期、昼間の長さを実感しながら夕方の空を眺めてみるのも乙なものだと思います。

「家守綺譚」梨木香歩

2014-06-11 23:20:56 | 小説
今回ご紹介するのは「家守綺譚」(著:梨木香歩)です。

-----内容-----
それはついこの間、ほんの百年前の物語。
サルスベリの木に惚れられたり、飼い犬は河童と懇意になったり、庭のはずれにマリア様がお出ましになったり、散りぎわの桜が暇乞いに来たり。
と、いった次第のこれは、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねている新米知識人の「私」と天地自然の「気」たちとの、のびやかな交歓の記録――。

-----感想-----
左は、学士綿貫征四郎の著述せしもの。

この一文から、物語は始まっていきます。
百年ほど前の、綿貫征四郎が書いた手記という形をとっています。
とても不思議な物語でした。

綿貫征四郎は学生時代に亡くなった親友・高堂の実家の家守(いえもり)をしています。
高堂の父親が年老いたので嫁に行った娘の近くに隠居することになり、綿貫征四郎に「この家の守をしてくれないか」と頼んできました。
家主の代わりに家に住み、毎日窓の開け閉めをしたりして普通に生活をして家を使える状態に保つことが、家守の仕事です。
以来、綿貫征四郎は高堂の実家に住み、家守をしながら物書きの仕事をして暮らしています。
物書きで得られる収入は少なく、生活は大変なようです。

綿貫征四郎が洋燈(ランプ)と蝋燭を重用し、電気をあまり信用していない様子を見ると、100年前の物語だというのを実感します。
まだ電気が普及しだして間もない頃でしょうし。

家守をしながら遭遇する、数々の不思議なこと。
まず驚いたのが、庭にあるサルスベリの木が綿貫征四郎に懸想(恋い慕うこと)していること。
木が意思を持って動いているのです。
さらに驚いたのが、床の間の掛け軸から今は亡き親友・高堂が出てきたこと。
高堂は何度も出てきて綿貫征四郎と会話します。
この世ならざることが平然と起きるのがこの作品の特徴です。
そしてそれが特に大掛かりな文章を使うでもなく、ごく自然に淡々と描かれています。
読んでいて「なるほど、この雰囲気ならそういうことがあっても不思議ではないな」と納得してしまうほど、淡々とした文体が良い感じでした
会話の部分が「会話内容」ではなく―会話内容という表記の仕方をしていたのもこの物語の雰囲気に凄く合っていました。

家の池に河童が迷い込んだりもしました
ある時は山でタヌキに化かされたりもしました
また、何か変わったことが起きると隣の家のおかみさんがあれこれ助言してくれます。
おかみさんもこの世ならざることについて「ああ、それはあれだよ」と当然のように納得していて、驚きとともに描くのではなく、当然のこととして描かれていました。
そして、最も綿貫征四郎の助けになってくれているのが犬のゴロー
まずい展開になりそうな時、何度もゴローによってピンチを脱出することがありました。

最後はやはり、親友の高堂がなぜ死んだのかの真相に迫る物語になっていました。
高堂は湖でボートを漕いでいる最中に行方不明になってしまっていたのです。
恐ろしい展開というより、夢見心地でいるうちに気がついたら死んでいたというような展開で、これはこれでちょっと怖いなと思いました。

そして読み終わってからこの「家守綺譚」には「冬虫夏草」という続編があることが分かりました。
独特の和の雰囲気を持つとても面白い物語でしたし、続編もぜひ読んでみたいと思います


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「凍りのくじら」辻村深月

2014-06-09 23:52:30 | 小説
今回ご紹介するのは「凍りのくじら」(著:辻村深月)です。

-----内容-----
藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。
高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。
戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。
そして同じ頃に始まった不思議な警告。
皆が愛する素敵な”道具”が私たちを照らすとき―。

-----感想-----
芦沢光、25歳。
自然を撮ることを中心に活動する新進気鋭のフォトグラファー。

芦沢理帆子が紹介される時、よくこのような紹介文になります。
著名な写真家であった芦沢光は理帆子の父で、理帆子はその名前を継いで二代目・芹沢光となりました。

ここから物語は理帆子が高校二年生だった頃の回想に入ります。
この手法は以前読んだ「ナラタージュ」(著:島本理生)が思い出されました。
冒頭に少しだけ現在の話があって、そこから過去にあった話へと遡っていく手法です。
「凍りのくじら」における過去の話ではそれぞれ章のタイトルがドラえもんの道具の名前になっています。
第1章 どこでもドア
第2章 カワイソメダル
第3章 もしもボックス
といった感じです。
どの章でもその道具にまつわる話が会話の中で出てきたり、理帆子の心の中で語られたりします。

高校二年生の理帆子は、周りを冷めた目で見ていて、どこか馬鹿にしています。
友達たちと話していても、理帆子は心の中で
彼らの横に腰を下ろしながら、私はこの中で自分一人だけが「違う」ことを思い出していた。
と冷めた目で友達たちを見ています。
また友達たちと付き合うに当たって、不文律を心の中に持っていました。
不文律その②では
自分が一人「違う」ことはこの場所では絶対に伏せる。彼らにわからない言葉や熟語は使わないし、必要以上に自分の意見も言わない。意見や感想っていうのは、それを受け止めることができる頭を持ってる人間相手じゃなければ、上滑りして不快なだけだ。
と語っていました。
随分上から目線で周りを馬鹿にしているなと思います
ただその後に出てきた
今日を楽しく生き抜くために。不文律、その③。とりあえず、笑っとけ。
は印象的な表現でした。
これは意外とそのとおりな部分もあると思いました。

理帆子は藤子・F・不二雄先生を尊敬しています。
そして藤子・F・不二雄先生が遺した言葉に以下のようなものがあります。

『ぼくにとっての「SF」は、サイエンス・フィクションではなくて、「少し不思議な物語」のSF(すこし・ふしぎ)なのです』

理帆子はこの言葉の影響で、その対象人物にスコシ・ナントカと心の中で名前を付けています。
例えば
Sukoshi・Fungai(少し・憤慨)
Sukoshi・Fuan(少し・不安)
などです。
その人物の特徴に合ったスコシ・ナントカになっています。
理帆子は自分自身にもスコシ・ナントカを付けていて、それは
Sukoshi・Fuzai(少し・不在)
です。
『どこでもドア』を持つ私は、屈託なくどこのグループの輪にも溶け込めるが、場の当事者になることが絶対になく、どこにいてもそこを自分の居場所だと思えない。それは、とても息苦しい私の性質。
常に冷めていて、なかなか厄介な性格をしているようです。。。

そんな理帆子に影響を与えたのが、三年D組の別所あきら。
別所あきらは新聞部で写真を撮っていて、理帆子に写真のモデルになってほしいと頼んできます。
とてもニュートラルで、人に取り込まれない別所あきらに理帆子が付けたのは、
Sukoshi・Flat(少し・フラット)です。
SF(少し・不思議)にちなんで、全て「少し・フの付く言葉」にしていますが、これだけフの付く言葉を揃えるのは凄いなと思いました。
別所あきらが相手だと理帆子の話し方は一気に変わります。
普段友達と話している時のようにバカなふりなどしないし、無理して会話をおちゃらけた感じにもしないし、頭の良さをフルに出して思いのままに喋っている印象を受けました。
これが妙な鎧を脱ぎ捨てた理帆子の本来の姿なのだと思います。

理帆子の母は癌で、理帆子が中学三年生の時から入院しています。
医者に二年持てば良いほうと言われ、もうすぐ二年が経とうとしています。
父親の光も癌で、闘病していたものの死期を悟ったのか5年前のある日突然、失踪してしまいました。
これは理帆子が不憫だなと思いました。
どこか冷めた性格に、少なからず影響を与えたのかも知れません。

冷めていて偏屈なところのある理帆子と対照的だったのが友達の美也(みや)。
自分自身をバカと言っていますが、その言葉には計算されたところがなく、凄くストレートで素直です。
「いやいや、困った時はお互いさまですよ。だってうちらトモダチじゃん」
「嘘って、ついたらいけないんだよ。リホちゃんはそればっかりだ。教えて欲しかったよ、うちら友達でしょう?頼ってくれなきゃ、ダメじゃん……」
二人の考えていた「友達」の重みの違いに、胸が痛みました。

そして、理帆子に忍び寄るストーカーの影。
理帆子の元彼氏の若尾大紀、この人物が次第に暴走していきます。
自分で理帆子のことを振っておきながら再び近付いてきて、何かと理帆子と連絡を取りたがります。
すごく傲慢で思い上がりが激しく、自分以外の周りを馬鹿にしたような男でした。
こんな男からの連絡など無視すれば良いのに…理帆子はついつい、送られてきたメールに返信したり、掛かってきた電話に出てしまいます。
自分と似た性質を持つ若尾に、興味が惹かれてしまうようです。
これが致命的な間違いでした。
理帆子は若尾の暴走ぶりをどこか見下して見てみて、どうせ若尾では一線は超えられない、大したことは出来ないと高を括っていましたが…それが甘かったです。
思い詰めたストーカーがどれほど危険なものか、理帆子は分かっていませんでした。
カオリという友達からの「電話も着信拒否にして、もう連絡を取るな」という忠告も無視して若尾とのつながりを断ち切らずにいたため、自業自得でこの展開を招いてしまいました。
物語の終盤は修羅場のような展開が待っています。

激動の高校二年生。
回想の始まりが6月で、回想の終わりが10月。
この4ヶ月ほどの間に理帆子は良くも悪くも中身の濃い、色々な経験をしました。
生涯忘れることはないと思います。
そして二代目・芦沢光を名乗ることを決意するきっかけになったであろうエピソードもありました。
理帆子を残して失踪してしまった父ですが、最後はその父が理帆子を守ってくれたことが嬉しかったです。


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張り切りすぎの梅雨

2014-06-08 23:12:21 | ウェブ日記
関東は6月5日に梅雨入りしました
前日まで続いていた晴れ渡った日々から一転、雨降りの日々に変わりました

6月5日の帰り道、駅から家まで帰る間に強烈な雨に見舞われ、スーツがびしょ濡れになってしまいました。
風も吹いていたため、傘を差していても吹き付けてくる雨にやられてしまいました。
6日も強い雨が降っていて、やはり帰宅時にスーツがびしょ濡れになってしまいました。
この二日でスーツが結構なダメージを受けたなと思います。

7日も強い雨が降っていて、さすがに降りすぎではないかと思いました。
今日はどんより曇っていて、その前の3日間のような強い雨はなかったですが、いかにも梅雨らしい空模様でした。
そして最新の週間予報によると、東京は月曜日~木曜日にかけて雨が降りやすいようです。
梅雨入り直後とはいえ、ちょっと張り切りすぎではないかと思います
空がどんよりしていると、段々気持ちもどんよりしてきますからね、あまり良くはないです。
そろそろ青空と太陽が見たいです

「わたしの彼氏」青山七恵

2014-06-07 11:41:06 | 小説
今回ご紹介するのは「わたしの彼氏」(著:青山七恵)です。

-----内容-----
大学2年の繊細美男子、鮎太朗。
美人で怖い姉3人。
女たちはみな彼に恋をする。
けれどいつも鮎太朗が振られてしまう。
何もしていないのに包丁で刺されたり、貢がされたりする。
彼を慕い続ける可愛い同級生には、どうしても心が惹かれない―。
恋は理不尽。恋は不条理。
だけど、ひなたを走りたくなるくらいあったかい気持ちになるのは、何故なのだ?

-----感想-----
大学2年の中里鮎太朗には三人の姉がいます。
長女の藤子、次女のゆり子、三女の桃子。
長女と次女は結婚しています。
このうち、鮎太朗が悲しい時にお茶をしに行くのが次女のゆり子の家。
鮎太朗は冒頭からリリーという女性に振られてしまいました。

この物語は鮎太朗の女難の物語です。
すごくモテるのに、変な女性ばかり寄ってきて、最後には皆鮎太朗の元を去っていってしまいます。

リリーに振られた後、鮎太朗は児鳥(こどり)美津子さんと付き合い始めます。
公民館に勤める人で、鮎太朗の姉のゆり子が自伝を書こうとして、相談を受けた鮎太朗が自伝執筆補助のアルバイト募集をかけた結果やってきたのが児鳥美津子さんでした。
この児鳥美津子さんと付き合うことになったものの…最後は散々な結末になりました
包丁で刺されるというのは衝撃的だったなと思います。
そして包丁で刺されて入院する羽目になったというのに「彼女は悪くない」と言いまた彼女に会いに行きたいと思っている鮎太朗を見ていたら呆れてしまいました。

次に鮎太朗が付き合うことになったのが、サッちゃんという女子高生。
三女の桃子がインストラクターをするスポーツジムに通っている子です。
このサッちゃん(栗田聡子)、最初は良い感じの子かなと思ったのですが、「今すぐ来てくれないと死ぬ」と鮎太朗に電話をかけてきたり、鮎太朗に色々なものを買わせて貢がせたりと、最悪な女でした。
30万4000円もする高価なネックレスをねだってもいました。
鮎太朗はその高価なネックレスを買ってプレゼントするために弁当屋と歯科医院でアルバイトを二つ掛け持ちして働いていました。
大学の講義も休んでいます。
サッちゃんが最悪なのは当然として、私は鮎太朗にも相当呆れてしまいました。
なぜこんな最悪女のためにそこまでするのか?と思いました。
包丁で刺された時も思いましたが、鮎太朗は自分がどんな酷い目に遭っても相手をかばってばかりでちょっとおかしいと思います。
「恋は盲目」という言葉がありますが、鮎太朗の場合は生来の性格が相手をかばってしまうのかなとも思いました。
そしてモテる分、こういった女難に遭いやすいようです。

そんな鮎太朗を常に付けまわしている子がいます。
大学の同級生で、「テンテン」と呼ばれる新野さんです。
私はテンテンと聞くと、中学生の頃に「週間少年ジャンプ」で連載していた「花さか天使テンテンくん」が思い浮かんできます。
なぜ新野さんの愛称が「テンテン」なのか、作中では明らかになりませんでしたがとても気になるところです。
新野さんは鮎太朗にものすごく好意を持っています。
しかし肝心の鮎太朗が振り向いてくれません。
どう見ても包丁で刺した人や色々貢がせた人より断然良いと思うのですが、鮎太朗的にはテンテンはあくまで友達で、恋人としては見られないようです。
恋愛の難しいところだと思います。

鮎太朗の女難のほかに、テンテンの叶わぬ恋もこの物語の重要な要素になっているなと思いました。
どちらもハッピーエンドにはならず、テンテン以外の女性と付き合う鮎太朗と、鮎太朗だけに目が行くテンテンの、どうしても通わない両者の心がよく表れた物語となっていました。


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「本日は大安なり」辻村深月

2014-06-04 23:59:12 | 小説
今回ご紹介するのは「本日は大安なり」(著:辻村深月)です。

-----内容-----
一世一代のたくらみを胸に秘める美人双子姉妹、クレーマー新婦に振り回されっぱなしのウェディングプランナー、大好きな叔母の結婚にフクザツな心境の男子小学生、誰にも言えない重大な秘密を抱えたまま当日を迎えてしまった新郎。
憧れの高級結婚式場で、同日に行われる4つの結婚式。
それぞれの思惑と事情が臨界点に達した、そのとき―。
世界一幸せな一日を舞台にした、パニック・エンターテインメント長編の大傑作。

-----感想-----
11月22日の日曜日、大安吉日。
ホテル・アールマティで4組のカップルが結婚式を行います

11:30 相馬家・加賀山家 1F パールルーム
12:30 十倉家・大崎家  2F エメラルドルーム
13:30 東家・白須家   1F ロイヤルルーム
17:30 鈴木家・三田家  2F ゴールドルーム

物語は4組の結婚式それぞれの関係者によって交代で語られていきます。

加賀山妃美佳と加賀山鞠香は双子の姉妹。
一卵性双生児のためとてもよく似ています。
結婚するのは妹の妃美佳です。
この双子姉妹、せっかくの晴れの日に恐ろしいことを企んでいました。
何と妃美佳と鞠香が入れ替わり、鞠香のほうがウェディングドレスを着ているのです
新郎の相馬映一がウェディングドレスを着ているのが妃美佳ではなく鞠香だというのを見抜けるかどうかを、妃美佳は試そうとしていたのでした。
姉の鞠香も妃美佳が持ちかけたこの企みに乗り、二人してばれたら大騒ぎになるようなとんでもないことをしています。

十倉家・大崎家の結婚式を担当するのは、山井多香子というウェディングプランナー。
32歳で、ホテル・アールマティのサロンに勤務して5年が経ちます。
ウェディングプランナーとは、式や披露宴の段取りを提案し、打ち合わせを重ねながら当日までのお手伝いをする職業です。
山井多香子は新婦の大崎玲奈からの度重なる無理難題、クレームに辟易していました。
この案件から降りたいというくらい、うんざりしていたようです。
そして懸念していた通り、結婚式当日のこの日もトラブルが発生し…

東家・白須家の結婚式では、小学二年生の子ども、白須真空(まそら)が語り手。
新婦は真空の母親の妹で、小さい頃から仲良しの「りえちゃん」。
33歳で、駅前にある大きな薬局で薬剤師として働いています。
今日はりえちゃんの晴れの日なのですが、真空はこの結婚式を何としても阻止したいと考えています。
それというのも真空はある日、新郎の東(あずま)の「秘密の現場」を見てしまったのです。
東から「りえには内緒にするように」と口止めされたのですが、それ以来真空はこの結婚に危機感を抱くように。
さらに東は真空の母や祖母からも評判が悪く、家では東の悪口ばかり聞こえていました。
真空は子ども心に結婚式を阻止するような手を試してみますが、どれも失敗し…
大好きなりえちゃんを東から守るため、真空が色々悩みながら奮闘します。

鈴木家・三田家の結婚式の話は、色々な意味でかなりやばかったです。
語り手は新郎の鈴木陸雄。
17:30からの「イブニング・ウェディング」というプランで三田あすかとの挙式、披露宴を控えています。
しかしこの鈴木陸雄はなんと、「貴和子」という女性と結婚している既婚者
貴和子と結婚しているにも関わらず三田あすかと結婚しようという、最悪男だったのです
結婚式当日を迎えたものの鈴木陸男は三田あすかと結婚する気はなく、どうにかして結婚式を中止にしようと企てていました。
三田あすかとの不倫で貴和子を裏切り、結婚する気はないということで今日の結婚を信じている三田あすかをも裏切るという最悪ぶりです。
こちらは真空の子ども心と違って結婚式を中止にするために本当に犯罪を企んでいてやばかったです。

というわけで、この4つの物語が交代で進行していきます。
それぞれの視点で物語が進行していくこの構成は伊坂幸太郎さんを思わせるものがありました。
それにしても小説のタイトルは「本日は大安なり」なのに、物語的には全然「大安」ではないなと思いました(笑)
4つの物語のどれもトラブルを抱えていて順風満帆な結婚式ではなかったです。
しかしどの物語も意外な展開が待ち受けていてとても面白かったです

読み進めていくと明らかになる、山井多香子と大崎玲奈の衝撃の因縁。
大崎玲奈のほうは覚えていないようでしたが、山井多香子のほうはしっかりと覚えていました。
山井多香子は美容室の和木オーナーにかけられた言葉を思い出します。

すっごく気に食わない相手が来たらどうするの?この人の幸せなんて死んでも祈りたくないっていう相手。それでもやっぱり魔法かけてきれいにつつがなく仕上げてあげるの?

山井多香子にとって大崎玲奈はまさしく「この人の幸せなんて死んでも祈りたくない」という相手。
それでもプロとして、お客様の幸せのためには最善を尽くすべきと考える山井多香子の心の葛藤、興味深かったです。

ウェディングプランナーは挙式と披露宴には立ち会わないことが多いというのは意外でした。
その時には別の結婚式希望者との打ち合わせをしていたりします。
当日その場に居ることが出来ないというのはちょっと寂しいなと思いました。
ただクレーマーの大崎玲奈に辟易していた山井多香子には結婚式の当日に驚きの展開があって、これは読んでいて嬉しかったです

加賀山妃美佳と鞠香の双子姉妹の物語は、読んで行けば読んで行くほど、引き込まれていきました。
妃美佳は姉の鞠香に対して苦々しい思いを持っています。
一方の鞠香は妃美佳をとても大事に思っています。
しかし読み進めていくとどうやらそうでもないようで…
鞠香は妃美佳の心の内にある程度気付いているようでした。
そして妃美佳に負けず劣らず、心の内が怖いです
さらには妃美佳と鞠香が入れ替わった状態で挙式、披露宴が進んでいき、周りは当然妃美佳を鞠香と呼び、鞠香を妃美佳と呼び、本人たちもお互いになりきって演技しているので、読んでいてこんがらがらないようにするのが大変でした(笑)
この双子姉妹に試されている新郎の相馬映一が果たして入れ替わりを見抜けるのかどうかは非常に興味深かったです。
鞠香が相馬映一に対して心の中で「あなたに勝ち目はありません」と勝利宣言していた場面が印象的でした。

ここまでトラブルを抱えた4組の結婚式の物語、果たしてどうなるのかと思いましたが、意外にもなかなか良い終わり方をしてくれて良かったです。
正直壊滅的な最後になるのではないかと心配していました。
読後感も良く、この作品を読んで良かったと思いました
最後に、作中において最も印象的だった山井多香子さんの言葉をご紹介します。

大安は、六輝の中で何事においても全て良く、成功しないことはないとされる。だけど、大安はただそれだけでは実現しない。それを可能にするのは、私たちだ。それが、ウェディングプランナー。大安を作り、支える職業。

いくら大安吉日とはいえ、当人たちだけでは結婚式は行えません。
素晴らしい結婚式になるように準備し、大安を真の”大安”にするというウェディングプランナーとしての誇り高さが垣間見えた、良い言葉だと思いました。


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「新釈 走れメロス 他四篇」森見登美彦

2014-06-02 23:52:59 | 小説
今回ご紹介するのは「新釈 走れメロス 他四篇」(著:森見登美彦)です。

-----内容-----
あの名作が京都の街によみがえる!?
「真の友情」を示すため、古都を全力で”逃走する”21世紀の大学生(「走れメロス」)。
恋人の助言で書いた小説で一躍人気作家となった男の悲哀(「桜の森の満開の下」)。
馬鹿馬鹿しくも美しい、青春の求道者たちの行き着く末は?
誰もが一度は読んでいる名篇を、新世代を代表する大人気著者が、敬意を込めて全く新しく生まれかわらせた、日本一愉快な短編集。

-----感想-----
森見登美彦さんが過去の文豪の作品をタイトルはそのままに、中身は現代にアレンジして書いた短編集です。
以下の五編によって構成されています。

山月記(中島敦)
藪の中(芥川龍之介)
走れメロス(太宰治)
桜の森の満開の下(坂口安吾)
百物語(森鷗外)

山月記は唐代の伝奇「人虎伝」に材を採り、「詩」に心奪われた李徴(りちょう)の悲劇的な運命を描いた短編。
藪の中は「古今物語集」に材を採り、一つの事実を多視点で語ることで心理の絶対性への懐疑を突きつける、芥川の中でも最も多用な<読み>が試みられている作品。
走れメロスは人間の信頼と友情の美しさ、大切さを力強く描いた太宰治の中期を代表する短編。
桜の森の満開の下は絢爛たる美の奥に潜む恐ろしさを幻想的に描いた作品。
百物語は日本の伝統的な怪談会スタイルの一つである百物語の集いを描いた、森鷗外円熟期の一篇。

これらを森見登美彦さんが書くとどうなるのか。。。
山月記は相当奇想天外な感じになりました。
まず最初の出だしから、

京都吉田界隈にて、一部関係者のみに勇名を馳せる孤高の学生がいた。
その名を斎藤秀太郎(しゅうたろう)という。


とあります。
またとんでもなくへんてこな大学生なんだろうなと思いました
しかもこの学生、留年と休学を巧みに使いこなし、11年も大学に居るというのです
ろくに単位も取らず、日々誰も読み手のいない小説を書いていました。
周りからは「器が大きいのか、底抜けの阿呆なのか。それは彼らには分からなかった。実際のところ、この両者を見分けるのは容易ではない」などと評されていました。

それから1年後、大文字山では前年の夏頃から風変わりな事件が相次いでいました
その風変わりな事件では森見さんの小説によく出てくる「詭弁論部」の部員も被害に遭っていました。
警察が大文字山に捜査に行ってみると衝撃の事実が明らかになり…といった物語です。
小説を書くことに心を奪われた斎藤秀太郎の悲劇的な運命だったなと思います。
まぎれもなく、「山月記」をモチーフにぶっ飛んだアレンジをした作品になっていました。

斎藤秀太郎は残りの四つの作品にも登場します。
五作品は全く違う短編のように見えて、実はつながっているのです。
それぞれの作品の登場人物が「一乗寺杯争奪戦」なる麻雀の勝負をしに一乗寺にある某家に集ったりもしています。

森見さんの普段の作風からはかなり異質な感じだったのが「桜の森の満開の下」。
かなりしっとりとした物語で、森見さんがこんなしとやかでもの悲しい文章を書くとは意外でした。
何度も登場する「哲学の道」、私も歩いてみたくなりました

「百物語」では「夜は短し歩けよ乙女」とのリンクがありました。
「偏屈王」というゲリラ演劇が学園祭を騒がせていましたが、それを指揮していた人が登場するのです。
その正体は何とも怪談チックでした。

そして五作品の中で圧倒的に面白かったのが「走れメロス」。
もうこれは爆笑ものでした(笑)
芽野史郎は激怒した。
という一文から物語は始まります。
「メロスは激怒した」のパロディというわけです。
芽野史郎には芹名雄一という親友がいます。
二人はともに「詭弁論部」に所属し、たがいに一目置いていました。
詭弁論部とは「世間から忌み嫌われることを意に介さずにのらりくらりと詭弁を弄し続ける」というすごい活動をする部活です
その詭弁論部の部室が突然「自転車にこやか整理軍」と名乗る屈強な男たちに襲撃され、こちらが詭弁を弄するスキも与えずに部室を封鎖されるという事件がありました。
しかも「自転車にこやか整理軍」を指揮しているのは、かの「図書館警察」の長官。
森見さんの他の作品で何度か名前の出てきた組織で、読んでいて「おおっ、あの組織がここで出てくるのか」と思いました。

図書館警察とは、そもそも付属図書館の図書を借り出したまま返却しない連中に制裁を加えて図書を回収すべく設置された学生組織である。
しかし近年、特異な情報網を大学内外に張り巡らせることで全学生の個人情報を一手に握り、あらゆる方面に隠然たる勢力を及ぼし始めた。
その頂点に立つ図書館警察長官はいわば陰の最高権力者であり、私設軍隊「自転車にこやか整理軍」を指揮して気に食わぬものを片づけ、酒池肉林も思いのままであるという噂であった。


とのことです。
ちなみに森見登美彦さんの小説に出てくる大学は「京都大学」なのですが、森見作品を読んでいると京都大学はとんでもなくへんてこな学生ばかりで、部活もへんてこなのがあり、さらにはへんてこな組織が好き放題暗躍しているとんでもない大学というあらぬ誤解をしてしまいそうです(笑)

芽野は詭弁論部を救うため、図書館警察長官に直談判。
すると図書館警察長官はある条件を突きつけてきます。
そこで芽野は
「一日だけ猶予をくれないか。じつはこれから郷里に戻って、姉の結婚式に出なければならないのだ。明日の日暮れまでには必ず戻ってくる」
と言います。
そして親友の芹名を人質として長官のもとに置くことになります。
ここまでは「走れメロス」のパロディなのですが…
校舎から外へ駆け出した芽野は、なんとそのまま逃走
しかも姉なんかおらず、全くの嘘でした。
親友を人質に出しておきながら、長官との約束など守る気はなく、バックレる気満々なのです。
芹名も落ちついたもので、
「俺の親友が、そう簡単に約束を守ると思うなよ」
と悠然と言い放ちます。
激怒した長官は何としても芽野に約束を守らせようと、配下の者たちを刺客として逃走した芽野のもとに送り込みます。
こうして芹名と並ぶ詭弁論部屈指のひねくれ者、芽野と図書館警察長官の、京都の街全域を舞台にしたかつてない激闘の火蓋が切って落とされたのでした。
何という馬鹿馬鹿しい話なのだと、読んでいてかなりウケました。
長官の情報網は尋常ではなく広く、ちょうど通りかかって芽野の逃走を助けてくれたかに見えた人力車が実は長官の息のかかった者で、芽野を乗せて京都大学に連れて行こうとしたりしていました。
行く先々で長官の意向を受けた人が芽野を捕まえようとします。
「五十万の懸賞首よ!」
「おのれ長官、そこまでするか!」
この図書館警察長官と芽野の対決は面白すぎて笑いが止まらなかったです(笑)
森見登美彦さんバージョンの「走れメロス」、大爆笑物語として楽しませてもらいました


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真夏のような週末

2014-06-01 21:20:06 | ウェブ日記
この週末、全国的にすごく暑くなりました
東京では昨日の最高気温が31度で、今日は33.1度まで上がったとのことです。
完全に真夏の陽気ですね
日本ダービーが行われた東京競馬場も気温の暑さと場内の熱気が合わさり、相当暑くなっているようでした。

今日から6月に入りました。
夏至を迎える6月は、一年で最も日の長い月です。
ここ何日か晴れの日が続いているので、昼間の時間の長さを実感しています。
気付けば19時になってもまだ空が明るく、19時半頃になってもわずかに明るさが残るようになりました。
私はこの時期の19時~19時半頃の夜が近付く空が好きです
眺めていると随分日が長くなったなとしみじみとしてきます。

この暑さはまだ明日も続くようです。
梅雨に入ってしまうとすっきりしない天気の日が多くなるので、今の快晴を楽しんでおこうと思います