メランコリア

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岩波少年文庫 2096 火の鳥と魔法のじゅうたん E.ネズビット/作 岩波書店

2024-06-02 11:46:11 | 
1983年初版 猪熊葉子/訳 G.R.ミラー/挿絵

「作家別」カテゴリー内に追加しました



『砂の妖精』で活躍した4人きょうだいが、またまたフシギな魔法に振り回される
1日3回までしか願い事ができないルールも同じ
しかも、『砂の妖精』に出てきたサミアッドが間接的に登場するのも面白い

不死鳥って日本だと手塚治虫のマンガを思い浮かべるけど
今作で描かれる不死鳥はもっと人間臭くて
フェニックスをシンボルにしている保険会社が自分を祀ってると勘違いしたりして
ネズビットの独得なユーモアが楽しい

そして本書もミラーの挿絵が楽しめる


【内容抜粋メモ】

登場人物
アンシア
ジェイン
シリル
ロバート




●たまご
ガイ・フォークスに使う花火を試そうとしてじゅうたんに燃えうつり
母が安価で買ってきたじゅうたんの中から変な卵が出てくる









父母が芝居で出かけた日、魔法ごっこをしてお香を焚き
卵が偶然、暖炉の火に入って、中から不死鳥が出て来る
不死鳥は火に入れてくれたロバートに感謝して特に親しみを感じる













不死鳥はたまごを産み、自らを焼き、ふたたび生まれてくるということを
何千年も繰り返してきた

そして、子ども部屋にあるじゅうたんが魔法でなんでも叶えてくれると教える










●天井のない塔
不死鳥:サミアッドは、わしの頃ですら貴重だった

アンシアは日本に行きたいと思うが、きょうだいの答えはまちまち
不死鳥:じゅうたんに決めさせるがいい

じゅうたんは外国へ連れて行き、塔の上で降ろしてもらうが
天井がなく、ドアも見当たらない
魔法は1日に3つの願いしか叶えられない








壁に穴を見つけて、金貨の入った袋を見つけるが最後のマッチが燃えつきる
不死鳥はサミアッドに頼み、子どもたちは無事に部屋に戻り
金貨を持ちかえらなかったことを悔やむ










●女王になった料理番
いちばん下の坊やが百日咳にかかる

料理番はじゅうたんに泥がついているのを怒り
これ以上子どもたちの世話をみるのはイヤだから辞めたいと言い出す

子どもたちもウンザリして、料理番を乗せて南国の海に連れて行く
黒い肌の原住民は、海から白い女王がやって来る伝説を信じていたため
料理番が女王だと信じて敬う











料理番も夢ならずっとここにいたいと望んだため、そこに置いてくる
坊やの咳は止まる



●二つのバザー
子どもたちは心からお母さんを愛して尊敬しているため
魔法のじゅうたんと料理番の話を打ち明けるが、夢物語と思って信じない

母が坊やを連れて出かけた先に遊びに行こうと言って
母には姿が見えない魔法をかけてもらうが
目の前にいるのに無視されるのはとても悲しいと分かる

母がバザー用にインドのものが欲しいという願いをじゅうたんに叶えてもらい
インドの女王さまからいろんなものをもらってくる







ビドル夫人はロバートの手を踏んだのを逆ギレて怒り
ピースマーシュさんとも口論になる







子どもたちはピースマーシュさんの店でインドの品を売り大盛況
魔法のじゅうたんがビドル夫人に買われてしまい
慌てて家を訪ねて返してと頼むが余計に怒らせてしまう

アンシア:ビドル夫人が天使みたいにやさしくなるといいのに

ビドル夫人は急に優しくなって、じゅうたんを返してくれる









●不死鳥保険会社
不死鳥は自分を祀る神殿に連れて行ってほしいと言う
不死鳥をシンボルにしている不死鳥保険会社に連れて行くと
優しい紳士が社員全員を集めて、重役室で儀式を催してくれる











社歌を合唱するシーンも面白い

♪もっとも有利な契約で 料金は安い 1年契約さらに有利~

不死鳥は丁寧に扱われて満足するが、歌は自分で書くことにする



●よいことをしよう
アンシア:クリスマスだから、親切な行いのできる所へ連れて行って









4人は地下通路にいて、また財宝を見つける
近くの家から婦人が出て来て、4人がイギリスから来たのを喜びもてなす

不死鳥がなぜ悲しんでいたのか尋ねると、弟の侯爵が金を使い果たしたため
城を売らなくてはならないと言う

4人は婦人を財宝のある所へ案内する










●ペルシャネコ騒動
4人で叔母の家に行ったが、行き違いで迎えが来ていない
仕方なく馬車で自宅に帰ると、召使いは親の許可なく家をあけている

小窓から中に入り、ごちそうを食べる
じゅうたんは生まれ故郷に行きたいと願い
子どもたちのために美しく、楽しいものを持ちかえるよう望みを書いてピンで留める









すると、たちまち部屋の中は199匹のペルシャ猫でいっぱいになる
お腹を空かせて鳴きわめき、近所から苦情が来る

猫用の食べ物を持ってくるよう願うと、398匹のネズミでごった返す
とうとう警官が来て、部屋の中を見せるよう命令する











●ネコと牛とどろぼう
不死鳥は「どろぼうだ!」と外で叫び、警官はそれを追う

ネズミは消して、ミルクを持ってくるようじゅうたんに願うと
1頭の雌牛を連れて来た

家にどろぼうが入り、たくさんの猫に驚いて警察を呼んでくれと頼む
ちょうどよかったとばかり、牛の乳を搾ってもらう









どろぼうはオレンジを売ったお金を乞食に盗まれて
仕方なく初めて盗みに入ったが、バチが当たったと反省する

同情した子どもたちは、ペルシャ猫を売ればいいと教えて
どろぼうは仲間と手押し車に猫を乗せて去る



●どろぼうのおよめさん
じゅうたんはすっかりボロボロになり、アンシアが繕う









どろぼうが猫を盗んだ疑いで警察に逮捕されたと聞いて
子どもたちはどろぼうを料理番のいる南国に連れて行く

どろぼう:オレは仕事なんてもともとしたくもねえのさ









すっかり若返った料理番が好きになり、すぐにプロポーズする
結婚するなら教会でと決めていた料理番のために牧師を連れて来る

じゅうたんに穴が開いていて、牧師は半身は書斎、半身は南国にいながら
2人を結婚させる



●じゅうたんの穴
アンシア:お母さんに何かステキなものをあげたいわ

じゅうたんに乗って出かけると、穴からロバートとジェインが落ちてしまう
シリルとアンシアは帰宅してじゅうたんの裏に油布で裏打ちする









ロバートとジェインは屋根から家に入り、住人と出くわし、首ねっこを捕まえられる
呼ばれて来たのは、結婚式を挙げてくれた牧師で2人を許してくれる









牧師:
これはとても役に立つ夢だ
たぶん、もう1つの人生みたいなものかもしれない
その中に入りこんでいると、すべて現実的なのだ

(この世の仕組みはそんな感じかもしれないね

心配した不死鳥により、2人は子ども部屋に連れ戻される



●おわりのはじまり

不死鳥:
時間は心臓の鼓動ではかられる
単なる便利な作りごとに過ぎんのだ
本当は時間などというものはない

わしは疲れた そろそろ卵を産まねばいかんのではないかと思うよ

親から芝居のボックス席のチケットをもらい、不死鳥も連れて行くと
これぞ真の神殿ではないかと大感激して叫んだため、スタッフに怒られる

興奮した不死鳥は劇場を飛び周り、火がついて「火事だ!」と大騒ぎになる
ドアに客が大勢押し寄せていたため、子どもたちはじゅうたんで部屋に戻る







父母は劇場の火事騒ぎを聞いて駆けつけたが
鳥が子どもは無事に家にいると告げたため
家で再会して泣いて喜ぶ



●おわりのおわり
母は頭痛で寝込む

坊やが1人でじゅうたんに乗って消えてしまい
子どもたちは魔法のじゅうたんなどなければいいのにと後悔する
不死鳥はまたサミアッドに頼んで坊やを元に戻してもらう

子どもたちは不死鳥に消えて欲しかったが言い出せずにいると
不死鳥から去らねばならないと言い出す

ロバート:何にでも終わりがあるんですね

新しく買ったココナツマットが届いて、古いじゅうたんはくず屋が持って行く前に
不死鳥が欲しいと願う

不死鳥:
時は来た わしはここを去る
だがまず火を盛大に燃やせ 香料を用意しなさい

子どもたちがビャクダンなどを炊くと、不死鳥は卵を産み
じゅうたんに願って2000年安全に守られる場所に持って行ってもらう









不死鳥:さらば、ロバート わが心の友 愛する者よ

不死鳥は火に入って消える

その後、子どもたちのもとに箱が届いて、あらゆる欲しいモノがどっさり入っている
不死鳥がサミアッドに頼んだのだった




訳者あとがき
本作は『砂の妖精』、『お守り物語』とともに三大傑作ファンタジーに数えられる
ネズビットは自分の幼年時代の記憶を再現する天分を発見して書いた

『竜の本』
『九つのありそうもない物語』

ネズビットのファンタジーの主役は子どもたち
魔法自体のフシギさよりも、子どもたちの内外を探るのがメイン

登場するのは、典型的なエドワード朝中産階級の子どもたち

読者である世紀の変わり目の子どもの多くが
まだ堅苦しい家庭生活に束縛されていたことを認識していた

ネズビットは、窮屈な学校に適応できず、よく逃げだしていた
幸い、母親は当時に珍しく、子どもの自由を尊重したため
のびのびと過ごせた

作品に出てくるサミアッド、不死鳥らはしばしば軌道修正する役割をする
かれらは大人で、母親で、社会主義者だったネズビットの代弁者だった


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