※「作家別」カテゴリー内「ミヒャエル・エンデ」に追加します
エンデの物語には
ユーモアと同じくらい風刺と自らの哲学が詰められている
左右の国王と妃はのんびり暮らしていたのに
魔女を怒らせたせいで
まったくバカバカしいことで悩み、戦争ですべてを失ってしまう
これが絵本の中だけの出来事でないことは誰でも分かる
子どもたちが提案した
お互いの持つモノをシェアするという
とってもシンプルなアイデアにも
「国の取り引きが分からないのだ」と
もっとらしく諭して、傷つけてしまい
その後、子どもを失ったと知って
初めて本当に大切なことに気づく
この絵本を読むと
戦争や諍いがどんなにバカバカしいことか分かる
イラストは軽いタッチのマンガのようで
あまり好みではないが
エンデの巧みな文章を楽しめる1冊
【内容抜粋メモ】
右の王国
国王 カムッフェル
妃 カメーレ
姫 プラリーネ
左の王国
国王 パントッフェル
妃 パントーネ
王子 ザフィア
魔女 ゼルペンティーネ
昔ある高い山の右と左に2つの王国がありました
どちらが右か左か分かりませんが
どっちも同じことです
2人の王様が入れ替わったとしても
大した違いはなかったのです
間にある山は大変険しくて
登るものは誰もいなかったので
相手の国のことはよく知りませんでした
でも王様なんてそういうほうがうまくいくんですよ
どちらの国もとても小さかったので
たいして仕事がなく
右の王様は妃と夏はミニゴルフをして
冬は七並べをしていました
左の王様は妃と夏はバドミントン
冬はババ抜きをしていました
ちょうど同じ頃、2つの王国に子供が生まれました
左の国には王子が、右の国にはお姫様
王様や妃には大抵大勢のとてもこみいった親戚がいます
十三番目にあたる親戚で
ひいじいさんの大おばさんの孫のいとこが招かれませんでした
それは悪い魔女でした
魔女:両方とも私を忘れるなんて絶対に許さない
魔女は火の車号に飛び乗り吹っ飛ばしていきました
2つのお祝いパーティーに現れたので
王様も妃も大慌てで
「申し訳ないことをした 悪気じゃなかったんだよ」と言いました
魔女:
どうだかね
とにかくこの日と私のことをいつまでも忘れないように
素敵なプレゼントを持ってきたんだよ
右の王国には青色のスプーンの絵がついているスープ鉢を贈りました
魔女:
これと1組になっているスプーンでかき混ぜると
今まで飲んだことがないような
美味しくて栄養たっぷりのスープが溢れてくる
何人飲んでもスープはちっとも減らないんだよ
それはどこにあるの?
魔女:自分で見つけるんだね
左の国にはスプーン鉢の絵が付いているスプーンを贈りました
王様と妃はある限りのスプーン鉢を持って来させ
そのスプーンでかき混ぜてみましたが
スープはわいてきません
同じように贈られたスプーンで
鉢をかき混ぜてもスープはわいてきません
王様:一体どういうスープ鉢だろうな?
妃:もしかするとこのスプーンに描かれている鉢じゃないかしら
王様:
お前は天才だよ!
私はちっとも考えつかなかった
(毎回、どちらの王様も、その都度妃の言うことに大げさに感嘆するのが可笑しい
そこでどちらの国も使いを出して
世界中の国を巡らせましたが
なぜか隣の国だけは行きませんでした
スープ鉢かスプーンか分からなくなり
使いの者は国へ帰ることも出来ず
ただブラブラと旅を続けました
王様と妃は考えるという疲れることはとっくにやめていました
それぞれガラス戸棚に収めて忘れられていきました
何年かが過ぎ、王子も姫も賢い子供になりました
お城にいるのが退屈になったので
高い山を登って2人は初めて顔を合わせ
大変好きになり
いつも山のてっぺんで一緒に遊ぶようになりました
スープ鉢とスプーンは、本当はこの2人のものなのですよ
姫:うちにはスープ鉢がある
王子:うちにはスプーンがある
姫:
それじゃ話はとても簡単だわ
この2つを合わせればいいのよ
王子:家へ帰ってお父さんとお母さんにそう言おう
王様:
スプーンのことを言わなければよかったのに
どうやらお前は他の国との駆け引きができるほど利口じゃないようだな
心配だよ
王子:
この2つをただ合わせればいいんだよ
とても簡単でしょ
王様:
世の中に簡単な事などないんだぞ
よく覚えておくがいい
姫も同じように父と母に言われる
2人は悲しくなってうつむいてしまいました
両方の王様と后は2人で特別秘密会議を開きました
王様:間違いないのは2つ一緒でなければ役に立たないということだ
妃:スプーンが手に入ったら、みんなの食べ物の心配を全然しなくて済むのよ
結局どちらもいい考えが浮かばずに1年経ちました
妃:鉢が役に立たないなら、スプーンを買い取ればいいじゃないですか
王様:それは良い計画だ! お前は大したものだよ
大臣は1枚の上着を持っていて
国の外の仕事の時は、黒い縞の付いた赤いほうを着て
国の中の仕事の時は、赤い縞のついた黒いほうを着る
王様:
上着は脱いだほうがいいな
これは秘密の仕事なのだ
大臣は上着を脱ぎ、白いひげを張り付け
サングラスをかけて変装し
山の左側を通って右の国へ行く
変装した大臣:古いものは高く買い、新しいものは安く売るよ!
お城の人達も集まってくる
変装した大臣:
もっと良い取引をしませんか?
こちらの城にはスープ鉢があるでしょう
それだけでは何の役にも立ちません
鉢を売ってくれたらお金をたくさん払いますよ
妃:
あれは売らないわ
もっといい取引があるわよ
左の国からスプーンを持っておいで
そしたらお金をたくさん払ってあげるわ
変装した大臣:
駄目です
あちらの国でもどんなにお金を積んでも手放そうとしません
ですからこれから先も同じことですよ
大臣は見破られたことに気付いて
役目を果たせないまま国へ帰りました
妃:
あの物売りの言うことも間違っていないかもしれない
スプーンがなければスープ鉢は何の値打ちもないわね
スープ鉢をスプーンと取り替えたらどうかしら?
王様:
それは素晴らしい考えだ!
お前は本当に天才だよ!
右の王国にも同じように大臣が1人いました
上着の模様は左の大臣の逆w
大臣は国の正式な使いとして送り出されました
王様と妃は考えた挙句、取引を承知したと言い
スプーンとスープ鉢をそれぞれうやうやしく受け取りました
前より値打ちのあるものを手に入れたはずなのに
前と同じように使い物にならないと気づくと
騙されたと思って本気で怒り出す
王様:あの連中には良心というものがないんだ
妃:もうお付き合いはできないわ!
お互いに「これ以上の付き合いはごめんだ」という手紙を送り
その後、行き来は全くなくなりました
あまり腹を立てたりしたので
2人とも頭が痛くてたまりません
妃:
やっぱりスープ鉢を取り戻したほうがいいんじゃない?
黙って取り返すのよ
王様:それは良い計画だ!
右の王国には泥棒の名人がいて名前をラングと言います
右の王国の城からスープ鉢を盗んでくるよう王様が言いました
左の王様も同じことを考え
クラウスという泥棒の名人に
スプーンを取り返す仕事を言いつけました
ホっとした王様と妃はぐっすり眠っていたおかげで
ラングとクラウスは楽々とスープ鉢あるいはスプーンを盗んで持って帰りました
王国への手柄によって勲章をたくさんもらいました
全ては元通りになっただけということがまもなくわかりました
どちらの国も相手にものすごく腹を立てました
王様:あいつらはならず者だ
妃:盗人と同じだわ!
右の王国をやっつけろ!
左の王国をやっつけろ!
右の国の軍隊は兵隊が4人、隊長が5人、将軍が3人
左の国の軍隊は兵隊が3人、隊長が4人、船のない海軍大将が1人
右の軍隊は山の右側を通り
左の軍隊は山の左側を通ったので
途中で出会うことはありませんでした
敵の城に着き、妃はあっけなく捕虜にされてしまいました
相手の城に火をつけて、勝ち誇って自分の国に引き上げました
スープ鉢とスプーンは、幸い王子と姫が戦になる前に持ち出していました
2人はスプーンをスープ鉢に入れてかき混ぜると
すぐにスープ鉢いっぱいに美味しくて栄養たっぷりのスープが溢れてました
これ以上いらないというほど
2人はたらふく飲みました
こんなに簡単なことだったのですよ
軍隊が国に戻ると、スープ鉢やスプーンどころか何一つ残っていません
食べ物をしまっておく部屋も焼けてしまいました
これでは后を捕虜にしていても役に立たないので
夜にたった1人で国へと返されました
王子と姫の姿が見えないことに気がついたのは妃でした
妃:
もしこうなるとわかっていたら
スープ鉢なんか向こうにやってもよかったのに
同じような不幸のおかげで
国同士、心が通い合うことになりました
しかし城には何も食べるものがありません
一緒に会議を開いて相談しようということになりました
左右の真ん中、国境で会うことに決まりましたが
右の王様は山の右側を回ったところといい
左の王様は山の左側を回ったところといい
絶対譲ろうとしません
結局、高い山のてっぺんに集まって会議を開くことにしました
山のてっぺんに着くと、みんなは疲れ果てて休んでいました
そこに王子と姫が現れて
美味しくて栄養たっぷりのスープの入ったスープ鉢を運んできました
王子:
みんながここに集まってくれて本当に嬉しい
スープを少しいかがですか
姫:スープはみんなが飲んでも十分あるわ
右の妃:
はじめに私たちにスプーンをよこしていれば
とっくの昔にこのスープを飲めたんだわ
左の妃:
あなた方がスープ鉢を渡していれば
こんなことにはならなかったのよ
王様:
今すぐはっきりこのスープ鉢とスプーンが誰のものか決めなければならない
大事なのは規則じゃ
お腹がいっぱいになると
他の人の言うことにも耳を傾けやすくなります
この時を待っていた王子と姫が言いました
私たちは結婚できる歳になったら
すぐに結婚したいと思います
そしてスープ鉢とスプーンは
私たちの結婚の贈り物にもらいたいのです
前のお城はどちらも焼け落ちてしまったので
山のてっぺんに新しい城を建てました
王子と姫はけしてスープ鉢とスプーンが
どちらのものかで争ったりはしませんでした
王様と妃は王国を子供達に譲ることにしました
右の王様と妃は新しい城の右に住むと言い張り
左の王様と妃は新しい城の左に住むと言い張りました
とはいえお互いにしょっちゅう訪ね合い
王様達はオセロゲームをやり
妃達は噂話をしあったのです
誰もが満足に暮らしました
王子と姫の結婚式には魔女の姿もいました
今度はどちらも招待するのを忘れなかったのです
魔女:
この企みがうまくいくなんて思わなかった
そうじゃなきゃスープ鉢とスプーンを贈り物なんかにしなかったのに
うっかり良いことをしてしまうなんて忌々しい!
魔女はカンカンに怒ったまま
火の車号に飛び乗って行ってしまいました
それきり見かけたものはいません
スープ鉢にはいつでもスープが溢れ
いくら飲んでも空にはなりませんでした
お腹が空っぽなのに食べるものがないという人は
高い山のてっぺんにあるお城に行けば
いつでもお腹をいっぱいにすることができます
ただし、そのお城は自分で見つけなければなりません
エンデの物語には
ユーモアと同じくらい風刺と自らの哲学が詰められている
左右の国王と妃はのんびり暮らしていたのに
魔女を怒らせたせいで
まったくバカバカしいことで悩み、戦争ですべてを失ってしまう
これが絵本の中だけの出来事でないことは誰でも分かる
子どもたちが提案した
お互いの持つモノをシェアするという
とってもシンプルなアイデアにも
「国の取り引きが分からないのだ」と
もっとらしく諭して、傷つけてしまい
その後、子どもを失ったと知って
初めて本当に大切なことに気づく
この絵本を読むと
戦争や諍いがどんなにバカバカしいことか分かる
イラストは軽いタッチのマンガのようで
あまり好みではないが
エンデの巧みな文章を楽しめる1冊
【内容抜粋メモ】
右の王国
国王 カムッフェル
妃 カメーレ
姫 プラリーネ
左の王国
国王 パントッフェル
妃 パントーネ
王子 ザフィア
魔女 ゼルペンティーネ
昔ある高い山の右と左に2つの王国がありました
どちらが右か左か分かりませんが
どっちも同じことです
2人の王様が入れ替わったとしても
大した違いはなかったのです
間にある山は大変険しくて
登るものは誰もいなかったので
相手の国のことはよく知りませんでした
でも王様なんてそういうほうがうまくいくんですよ
どちらの国もとても小さかったので
たいして仕事がなく
右の王様は妃と夏はミニゴルフをして
冬は七並べをしていました
左の王様は妃と夏はバドミントン
冬はババ抜きをしていました
ちょうど同じ頃、2つの王国に子供が生まれました
左の国には王子が、右の国にはお姫様
王様や妃には大抵大勢のとてもこみいった親戚がいます
十三番目にあたる親戚で
ひいじいさんの大おばさんの孫のいとこが招かれませんでした
それは悪い魔女でした
魔女:両方とも私を忘れるなんて絶対に許さない
魔女は火の車号に飛び乗り吹っ飛ばしていきました
2つのお祝いパーティーに現れたので
王様も妃も大慌てで
「申し訳ないことをした 悪気じゃなかったんだよ」と言いました
魔女:
どうだかね
とにかくこの日と私のことをいつまでも忘れないように
素敵なプレゼントを持ってきたんだよ
右の王国には青色のスプーンの絵がついているスープ鉢を贈りました
魔女:
これと1組になっているスプーンでかき混ぜると
今まで飲んだことがないような
美味しくて栄養たっぷりのスープが溢れてくる
何人飲んでもスープはちっとも減らないんだよ
それはどこにあるの?
魔女:自分で見つけるんだね
左の国にはスプーン鉢の絵が付いているスプーンを贈りました
王様と妃はある限りのスプーン鉢を持って来させ
そのスプーンでかき混ぜてみましたが
スープはわいてきません
同じように贈られたスプーンで
鉢をかき混ぜてもスープはわいてきません
王様:一体どういうスープ鉢だろうな?
妃:もしかするとこのスプーンに描かれている鉢じゃないかしら
王様:
お前は天才だよ!
私はちっとも考えつかなかった
(毎回、どちらの王様も、その都度妃の言うことに大げさに感嘆するのが可笑しい
そこでどちらの国も使いを出して
世界中の国を巡らせましたが
なぜか隣の国だけは行きませんでした
スープ鉢かスプーンか分からなくなり
使いの者は国へ帰ることも出来ず
ただブラブラと旅を続けました
王様と妃は考えるという疲れることはとっくにやめていました
それぞれガラス戸棚に収めて忘れられていきました
何年かが過ぎ、王子も姫も賢い子供になりました
お城にいるのが退屈になったので
高い山を登って2人は初めて顔を合わせ
大変好きになり
いつも山のてっぺんで一緒に遊ぶようになりました
スープ鉢とスプーンは、本当はこの2人のものなのですよ
姫:うちにはスープ鉢がある
王子:うちにはスプーンがある
姫:
それじゃ話はとても簡単だわ
この2つを合わせればいいのよ
王子:家へ帰ってお父さんとお母さんにそう言おう
王様:
スプーンのことを言わなければよかったのに
どうやらお前は他の国との駆け引きができるほど利口じゃないようだな
心配だよ
王子:
この2つをただ合わせればいいんだよ
とても簡単でしょ
王様:
世の中に簡単な事などないんだぞ
よく覚えておくがいい
姫も同じように父と母に言われる
2人は悲しくなってうつむいてしまいました
両方の王様と后は2人で特別秘密会議を開きました
王様:間違いないのは2つ一緒でなければ役に立たないということだ
妃:スプーンが手に入ったら、みんなの食べ物の心配を全然しなくて済むのよ
結局どちらもいい考えが浮かばずに1年経ちました
妃:鉢が役に立たないなら、スプーンを買い取ればいいじゃないですか
王様:それは良い計画だ! お前は大したものだよ
大臣は1枚の上着を持っていて
国の外の仕事の時は、黒い縞の付いた赤いほうを着て
国の中の仕事の時は、赤い縞のついた黒いほうを着る
王様:
上着は脱いだほうがいいな
これは秘密の仕事なのだ
大臣は上着を脱ぎ、白いひげを張り付け
サングラスをかけて変装し
山の左側を通って右の国へ行く
変装した大臣:古いものは高く買い、新しいものは安く売るよ!
お城の人達も集まってくる
変装した大臣:
もっと良い取引をしませんか?
こちらの城にはスープ鉢があるでしょう
それだけでは何の役にも立ちません
鉢を売ってくれたらお金をたくさん払いますよ
妃:
あれは売らないわ
もっといい取引があるわよ
左の国からスプーンを持っておいで
そしたらお金をたくさん払ってあげるわ
変装した大臣:
駄目です
あちらの国でもどんなにお金を積んでも手放そうとしません
ですからこれから先も同じことですよ
大臣は見破られたことに気付いて
役目を果たせないまま国へ帰りました
妃:
あの物売りの言うことも間違っていないかもしれない
スプーンがなければスープ鉢は何の値打ちもないわね
スープ鉢をスプーンと取り替えたらどうかしら?
王様:
それは素晴らしい考えだ!
お前は本当に天才だよ!
右の王国にも同じように大臣が1人いました
上着の模様は左の大臣の逆w
大臣は国の正式な使いとして送り出されました
王様と妃は考えた挙句、取引を承知したと言い
スプーンとスープ鉢をそれぞれうやうやしく受け取りました
前より値打ちのあるものを手に入れたはずなのに
前と同じように使い物にならないと気づくと
騙されたと思って本気で怒り出す
王様:あの連中には良心というものがないんだ
妃:もうお付き合いはできないわ!
お互いに「これ以上の付き合いはごめんだ」という手紙を送り
その後、行き来は全くなくなりました
あまり腹を立てたりしたので
2人とも頭が痛くてたまりません
妃:
やっぱりスープ鉢を取り戻したほうがいいんじゃない?
黙って取り返すのよ
王様:それは良い計画だ!
右の王国には泥棒の名人がいて名前をラングと言います
右の王国の城からスープ鉢を盗んでくるよう王様が言いました
左の王様も同じことを考え
クラウスという泥棒の名人に
スプーンを取り返す仕事を言いつけました
ホっとした王様と妃はぐっすり眠っていたおかげで
ラングとクラウスは楽々とスープ鉢あるいはスプーンを盗んで持って帰りました
王国への手柄によって勲章をたくさんもらいました
全ては元通りになっただけということがまもなくわかりました
どちらの国も相手にものすごく腹を立てました
王様:あいつらはならず者だ
妃:盗人と同じだわ!
右の王国をやっつけろ!
左の王国をやっつけろ!
右の国の軍隊は兵隊が4人、隊長が5人、将軍が3人
左の国の軍隊は兵隊が3人、隊長が4人、船のない海軍大将が1人
右の軍隊は山の右側を通り
左の軍隊は山の左側を通ったので
途中で出会うことはありませんでした
敵の城に着き、妃はあっけなく捕虜にされてしまいました
相手の城に火をつけて、勝ち誇って自分の国に引き上げました
スープ鉢とスプーンは、幸い王子と姫が戦になる前に持ち出していました
2人はスプーンをスープ鉢に入れてかき混ぜると
すぐにスープ鉢いっぱいに美味しくて栄養たっぷりのスープが溢れてました
これ以上いらないというほど
2人はたらふく飲みました
こんなに簡単なことだったのですよ
軍隊が国に戻ると、スープ鉢やスプーンどころか何一つ残っていません
食べ物をしまっておく部屋も焼けてしまいました
これでは后を捕虜にしていても役に立たないので
夜にたった1人で国へと返されました
王子と姫の姿が見えないことに気がついたのは妃でした
妃:
もしこうなるとわかっていたら
スープ鉢なんか向こうにやってもよかったのに
同じような不幸のおかげで
国同士、心が通い合うことになりました
しかし城には何も食べるものがありません
一緒に会議を開いて相談しようということになりました
左右の真ん中、国境で会うことに決まりましたが
右の王様は山の右側を回ったところといい
左の王様は山の左側を回ったところといい
絶対譲ろうとしません
結局、高い山のてっぺんに集まって会議を開くことにしました
山のてっぺんに着くと、みんなは疲れ果てて休んでいました
そこに王子と姫が現れて
美味しくて栄養たっぷりのスープの入ったスープ鉢を運んできました
王子:
みんながここに集まってくれて本当に嬉しい
スープを少しいかがですか
姫:スープはみんなが飲んでも十分あるわ
右の妃:
はじめに私たちにスプーンをよこしていれば
とっくの昔にこのスープを飲めたんだわ
左の妃:
あなた方がスープ鉢を渡していれば
こんなことにはならなかったのよ
王様:
今すぐはっきりこのスープ鉢とスプーンが誰のものか決めなければならない
大事なのは規則じゃ
お腹がいっぱいになると
他の人の言うことにも耳を傾けやすくなります
この時を待っていた王子と姫が言いました
私たちは結婚できる歳になったら
すぐに結婚したいと思います
そしてスープ鉢とスプーンは
私たちの結婚の贈り物にもらいたいのです
前のお城はどちらも焼け落ちてしまったので
山のてっぺんに新しい城を建てました
王子と姫はけしてスープ鉢とスプーンが
どちらのものかで争ったりはしませんでした
王様と妃は王国を子供達に譲ることにしました
右の王様と妃は新しい城の右に住むと言い張り
左の王様と妃は新しい城の左に住むと言い張りました
とはいえお互いにしょっちゅう訪ね合い
王様達はオセロゲームをやり
妃達は噂話をしあったのです
誰もが満足に暮らしました
王子と姫の結婚式には魔女の姿もいました
今度はどちらも招待するのを忘れなかったのです
魔女:
この企みがうまくいくなんて思わなかった
そうじゃなきゃスープ鉢とスプーンを贈り物なんかにしなかったのに
うっかり良いことをしてしまうなんて忌々しい!
魔女はカンカンに怒ったまま
火の車号に飛び乗って行ってしまいました
それきり見かけたものはいません
スープ鉢にはいつでもスープが溢れ
いくら飲んでも空にはなりませんでした
お腹が空っぽなのに食べるものがないという人は
高い山のてっぺんにあるお城に行けば
いつでもお腹をいっぱいにすることができます
ただし、そのお城は自分で見つけなければなりません