近未来風刺小説。摂氏六十度を軽く超えるオーストラリアの砂漠にある鉱山で強制労働をさせられているという反社会的とレッテルを張られた博士の妻から救出の依頼を受けた落ちこぼれフリーライターの寿美佳はそこから逃げだして来たという「自称経験者」に簡単な取材をしただけで現地にむかいます。妻からの成功報酬と自らのジャーナリストとして一山あてようとのランクアップが目的です。卵一つが200円の近未来の日本、地球温暖化が進みほぼすべての動植物が絶滅してしまい人工的な食品でしか栄養補給ができなくなるうえに、貧富の差はますます広がり、日本人は海外に出稼ぎにいって家族に細々と仕送りをしなくてはならない世界です。異国の砂漠の地で掴んだ、自分しかできない仕事、そして、人間のほんとうの幸せとは。ここはオーストラリアでも「デッドエンド」と呼ばれる地帯。この先の鉱山で、元引きこもりの日本人労働者や、海外の政治犯が強制労働に従事させられているという疑惑を聞きつけて、寿美佳のスポンサーとなったのは、夫の研究者・クセナキス博士がここに閉じ込められていると訴える博士の夫人だった。博士を救い出すという任務も帯びながら、命からがら苛酷な砂漠を越え現地にたどり着いた寿美佳だったが、そこで出会った博士をはじめとする3人の労働者が語ったのは、全く思いもよらない背景だった。ここは見捨てられた場所、そして、途方もなく自由な土地――「他の場所では生きられなくても」、今、自分の身体が、能力が、拡張していく。人生の本質や、生と死の尊厳を、外から判断できるのか。ほんとうの幸せとは何かに迫る。ミイラと取りがミイラになった話か・・・。
2024年9月角川書店刊