興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

恋愛関係・夫婦関係の温度差に注意しましょう。

2016-04-11 | カップル・夫婦・恋愛心理学

 カップルセラピスト・サイコセラピストとしていろいろなカップルや個人とお会いしていて意識していることのひとつに、その2人それぞれの、その関係性に対する温度というものがあります。この2つの温度は、ほぼ同じであったり、微妙に異なっていたり、だいぶ異なっていたりします。この温度差が少なければ少ないほど、良くも悪くもこの2人の心的な結びつきは強いですし、また、大きければ大きいほど、2人のこころには大きな隔たりがあります。たとえば、付き合って間もない、「恋に落ちた」ハネムーン期の2人は30℃を超えるものがずっと続いている、熱帯雨林気候のようなものを共有しているかもしれませんし、また、20年一緒にいる仲良し夫婦は、20℃~25℃ぐらいの穏やかな温度を共有しているかもしれません。

 このように、カップルはそれぞれが関係性に温度を持っているのですが、もうひとつ私がしばしば感じるのは、問題のある関係性のカップルの2人の大きな温度差であり、また、2人がいかにその温度差に気づきにくいか、ということです。

 それでは温度差とは何でしょう。これにはいろいろな要素が関係しています。たとえばこれは、ふたりの人間関係におけるベクトルの方向性とも密接に関係しています。これは、星の王子様で有名なサン・テグジュペリ(Antoine de Saint-Exupery)の、"Loving is not just looking at each other, it’s looking in the same direction." (「愛とは、ふたりがただ互いに見つめあうことではない。それは、ふたりが同じ方向を見ているということである」)という名言が良く表しているところです。

 どちらかの浮気が問題でカップルセラピーにやってくるカップルについても、同じことがいえます。浮気が問題となってカップルセラピーに来るカップルには、大きく分けて、3種類あります。

 便宜上、架空のカップルを想定します。悟さんと結衣さんは結婚3年目のカップルで、今回、最近発覚した悟さんの浮気が問題となり、ふたりは私のところにやってきました。

 さて、1つ目のケースは、結衣さんが激怒し、悟さんは猛省し、なんとか結衣さんの傷を癒して、許してもらって、関係を続けていきたい、というところです。結衣さんとしては、もう憤懣やるかたないのですが、悟さんのことはそれでも愛しているし、どうしていいかわからない、という状態です。

 2つ目のケースは、悟さんは猛省し、なんとか結衣さんの傷を癒して許してもらって関係を続けていきたい、というところまでは1つ目のケースと同じですが、結衣さんは今回の件で悟さんにすっかり嫌気がさしてしまい、もう彼と一緒にやっていける気もしなくなり、離婚を真剣に考えている、という状態です。

 3つ目は、浮気をした悟さんが逆切れしてその浮気を合理化し、浮気の原因は結衣さんのほうにあったのだと主張するようなもので、結衣さんとしても、悟さんの裏切り行為に深く傷つき、憤りを感じているものの、離婚だとか悟さんなしの人生など到底考えられず、どうしていいかわからない、というケースです(脚注1)

 このなかで、関係性の修復という意味で、セッションの進展が最もスムーズなのは、どのカップルでしょう?それは、1つ目のケースです。1つ目のケースは、ふたりともかなり精神を乱されていて、強い苦痛のなかにいますが、少なくとも、ふたりは「関係を修復して、結婚生活を続けていきたい」と望んでいます。悟さんは反省し、結衣さんの痛みを感じ、償いたいと思い、修復を望んでいますし、結衣さんも、悟さんの裏切り行為で深く傷つけられて怒りが収まらないものの、なんとか怒りを鎮めて、悟さんを許し、関係を取り戻し、結婚生活を続けていきたいと望んでいます。こういう意味で、ふたりの未来へのベクトルは同じ方向を向いていますし、ふたりの「温度」もあまり変わりません。

 残りの2つのケースは、どちらかがその関係性にまだ熱を持っているものの、もう一方は、冷め切っています。ひとりは結婚生活の存続を望んでいるけれど、もう一方は、離別を望んでいます。未来に向かうベクトルが正反対です。こうしたカップルの場合、余程のことがない限り、修復は難しいです。セラピーの流れとしては、はじめにありとあらゆる修復の可能性を模索しますが、どうしても一方が離別を望む場合、カップルセラピーの内容は、ある時点で、離婚カウンセリング(divorce counseling)へとシフトしていくことがあります(脚注2)。

 いずれにしても、浮気は結婚の終わりの始まりといわれるほどに2人の関係性において有害で破壊的なものであり、1つ目のケースでも、当事者のふたりだけではなかなかうまく解決できずにこじれてしまい、被害者のほうが徐々に冷めていって離婚に至るケースも多いですし、3つのいずれのケースも好ましくない状況です。浮気は相手のあらゆる意味での信頼を失うことにつながります。相手はあなたという人間が信頼できなくなるかもしれませんし、ふたりの関係性に対する信頼を失うかもしれません。そして、ひとたび浮気が明るみにでると、その修復には相当な努力と時間と労力が伴います。それでも修復できないケースもあります。

 つまり、あらゆるカップルにとって大切なことは、浮気を未然に防ぐ努力や工夫です。 と、ここまで浮気という一番目に見える問題を取り上げましたが、浮気やDV、借金やどちらかの配偶者の依存症など、あからさまな問題がなくてもふたりの温度差が大きくなり破局に至ることは少なくありません。

 そういうわけで、あやゆるカップルが常に気を配るべきものは、相手の自分や関係性に対する温度であり、また、自分の相手や関係性に対する温度です。

 ほとんどのカップルは、その付き合い始めは同じような温度を持っています。しかし、なかにはそうでないカップルもいます。一方が、相手のことをものすごく好きなのであけれど、もう一方はそれほどでもなかったり。こうしたケースで、さほど相手のことが好きでもなかった人が、ゆっくりと温度を高めていくケースもありますが、こうした初めから温度差のあるカップルは、注意が必要です。それでどちらかが強烈に好きで、積極的で、その勢いにもう一方が押される形で結婚、というのは避けたいところです。こうした場合、まずはしっかりとお付き合いして、ふたりの温度が同じようになってくるか様子をみる必要があります。温度が同じようになってくるようなら、縁がありそうです。

 さて、ふたりが無事に結婚して、新婚当初、多くの場合、ふたりは同様な温度です。問題は、これから自然に起こる様々な人生のイベントです。それは、それぞれの人生に起きるイベント(仕事、環境への順応、健康の問題、実家の親などのこと)もあれば、ふたりで共有しているイベント(子供ができる、家を買う、引っ越し、どちらかの親の世話を共有する、など)の場合もあります。お気づきの方もいると思いますが、「子供ができる」というイベントは、ふたりが「共有」しているところと、それぞれの人生でのイベントと、二面性があります。女性の妊娠から出産までの期間は、キャリアの面でも変化があり、また、「母親になること」(maternity)という、その個人の人生において非常に大きなプロセスを伴います。男性としても、父親になること(paternity)は非常に重要なプロセスであり、仕事を含む、様々な調整が必要です。

 ここで、男性のほうが、父親になることを自覚し、母親になる妻と、そのプロセスを共有し、ふたりで手を取り合って、女性の妊娠から出産までともに歩み、いろいろ工夫と努力を重ねてふたりで協力して子育てをしていく場合、ふたりは同様な温度を保ったまま結婚生活を過ごしていくことになり、好ましいケースです。逆に、妊娠し、いろいろ大変な思いをしている妻の母親になるプロセスに男性が寄り添うことができず、自分が父親になることに対する自覚も足りず、仕事に没頭し続け、何も変わらずに生活し続ける場合、ふたりの温度差が徐々に開いていく可能性は高くなります。実際、子供ができて、気づいたら、ふたりの間に大きな溝ができていたり、ロマンチックなムードが全くなくなってしまっていたりして、たとえばどちらか一方はセックスがしたいけれど、もう一方は到底そんな気分にはなれず、セックスレスが慢性化し、関係性が複雑化していくカップルは非常に多いです。

 このようにして見ていきますと、やはり大事なのは、それぞれのライフイベントや、ふたりが共有するライフイベントに対してふたりが常に敏感であり、興味を持ち、助け合ってやっていくことが、ふたりの温度を同様に保ち続ける秘訣といえます。有名人のカップル達についても、この辺りは如実にみられます。結婚したものの、とても短期間でふたりの間の温度差が致命的になり、非常に早く離婚に踏み出すカップルはよくいますし、このところ次々に報道される不倫問題などもこの温度差に該当します(脚注3)。逆に、山口智子さんと唐沢寿明さんを筆頭とする、長年連れ添っている仲良し夫婦は、こうした温度調整を、あまり意識することもなく、自然にしているのではないかと思います。この記事を読んで気になられた方は、あなたが今、パートナーと同じページの上にいて、同じ方向を見ているか、ゆっくり考えてみると良いかもしれません。また、パートナーと、こうしたことについて定期的に話し合いの場を持つと、「温度調整」がしやすく、室温を保ちやすくなるでしょう。

 

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(脚注1)4番目のケースとして、浮気をされた結衣さんは憤り、離婚を決意し、高額の慰謝料を考えていて、悟さんは逆上し、売り言葉に買い言葉で離婚を決意し、慰謝料はびた一文払わないと決意し、裁判が始まるようなものがあります。こうしたカップルは通常カップルセラピーには来ません。どちらも離婚を決意していて、さらに二人は関係の修復など念頭にありません。ある意味同じ温度では?などと思う方もいるかもしれませんが、この2人は、両者とも離婚を希望しているものの、実際にはふたりのベクトルはだいぶ異なった方向を向いていて、また、たとえば、結衣さんは憤りを感じながらも、氷点下にいるかもしれませんし、悟さんは激昂して50度ぐらいになっているかもしれませんし、ふたりが同じ温度であることはまずありません。非常に破壊的で醜悪な離婚にもつれ込む可能性も高く、こうしたふたりが離婚カウンセリングを利用するとだいぶ有益なのですが、ふたりはひとつの部屋に長い間同席することすら耐えられません。ただ、こうした人たちが、個人としてサイコセラピーにやってくることは良くあります。

(脚注2)こうしたカップルの多くには、育児中の子供がいますし、ふたりが離別を選んだところで、「親」として、子供のために、ふたりはパートナーシップを続けていく必要があります。離婚した両親が互いに憎しみ合って状態は、子供の精神発達において、非常に有害なので、ふたりは少なくともその子の親として、協力できるところは協力していかなければなりません。残念ながら我が国では、どちらか一方が100%親権を取り、もう一方の親には一切子供を会せない、というケースが依然として多いです。これにはもちろん、それぞれのカップルの独特な事情があるわけですが、こうした場合が多いことのひとつに、離婚するとき、ふたりの関係性があまりにも破壊的で醜悪であるので、そのようなパートナーシップなど到底考えられない、ということがあります。たとえ彼らに、子供にとっては両方に会えるほうが望ましいと思える場合でも、もう相手の顔を見るのも声を聞くのも嫌な関係性では、そうすることは非常に困難です。この状態は、子供にとって良くないだけでなく、ふたりにとっても良くないものです。なぜなら、誰かに憎しみを感じながら生きていくということは、その人のこころを蝕み続けるからです。このふたりにも、かつては良い時代もあり、良い思い出、良いできごともあったのですが、そうしたものをすべて否定して生きていくことは、自分の人生の連続性に断絶が生じるものであり、アイデンティティにも問題がでてきます。離別についてこころの整理がつき、自分の責任を取ったり、相手を許すことで、その結婚の良かったことは良かったとこととして認識でき、その結婚の良かったこと、悪かったこと、どちらもありのままに受け入れられるようになることで、離婚という経験がその人のアイデンティティに統合され、より成熟した人格へと成長します。離婚カウンセリングは、個人セッションとカップルセッションを組み合わせる場合が多いですが、このようにして、相手と向き合い、自分自身と向き合い、離婚と向き合って理解を深めることで、次の結婚や恋愛関係で同じような過ちを繰り返すことを防げますし、新しい、良い関係を築いていくことも可能になります。

(脚注3)もっとも、こうしたカップルは、配偶者のセックス依存症、病的に強い偽りの自己(false self)など、より深刻な問題を伴う場合が多く、実際は非常に複雑です。

 

 

 

 

 

 

 

 


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