興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学博士、黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

認知の歪み (cognitive distortion) がもたらす鬱、不安とその改善法 その3

2014-02-24 | プチ臨床心理学

 ひとの認知は、もともと、過去の経験やいままでに集めた情報をもとに、状況を分析して一般化する傾向にあり、それは将来の予想や計画を立てたりするのに通常は有益な機能だけれど、これが過剰になると、うつや不安、無力感などの好ましくない精神状態に陥ります。これが、Overgeneralization-「過度な一般化」です。

 これは、あなたが経験したあるひとつのネガティブなできごとを、まるでそれがあなたがこれから経験することすべてに当てはまるように、必要以上に一般化してしまう傾向です。それはまるであたかも、永遠に続く敗北のような錯覚でもあります。あなたが何かを考えたり話したりしているときに、「いつも」(Always)とか、「絶対ない」(Never)などの言葉を使っていたら、要注意です。

 たとえば、接客業に従事している責任感の強い舞さんは、ある日ミスをして、顧客を怒らせてしまいました。そのとき舞さんは、「どうしてあんなこと言っちゃったんだろう。やっぱり私は気が利かないんだ。接客業なんて絶対だめなんだ。この仕事もう辞めたほうがいいのかな」、と思って鬱になってしまいました。「顧客に何か不適切なことを言ってしまった怒らせてしまった」、というひとつのネガティブなできごとが、舞さんの自己評価全体に一般化され、やがては、仕事そのものをやめてしまうことを考え始めていますが、舞さんは長い間今の仕事についていて、顧客を怒らせるようなことは、滅多になかったのです。それで、この認知のゆがみから脱出できれば、舞さんはきっと、「気が利かない自分」に矛盾するような、今までのいろいろな「証拠」を思い起こせたり、顧客側にもあったかもしれない、今回の人間関係の問題の要素についても考えられるかもしれません。「黒か白かの思考パターン」と同様に、過度な一般化は、あなたの視野を狭めて悪いものに意識が集中するようにしてしまう問題があります。

 また、高校野球のバッターの通さんは、このところどうも不調続きで、先週の試合も、今日の試合も無安打でした。そこで通さんはすっかり落ち込んでしまいました。「先週も駄目だったし、今日も駄目だった。今度の試合もきっとだめだ。やっぱり自分には才能がないんだ。自分のような人間は野球部やめたほうがいいかもしれない」、と思ったのです。

 また、大学一年生の直美さんは、3カ月ほど付き合っていたボーイフレンドに振られて、ものすごい落ち込みを経験しています。「もう誰とも付き合えない。付き合ったって、今回みたいに3カ月で駄目になっちゃうんだ。私は恋愛なんて向かないんだ」、と感じています。あるネガティブなできごとが、まるであたかも永遠に続く敗北のように感じてしまう例です。

 さて、この「過度な一般化」からの脱出方法だけれど、まずは、あなたが何かすごい落ち込みや不安、怒りなど、ネガティブな感情を経験したときに、どうしてそう感じているのか、立ち止まって、上記のような文章にしてみましょう。それで、そこに極端な一般化が含まれていないか、検討してみましょう。たとえば直美さんの例において、人間関係というのは、ふたりの人間が互いに作り上げているもので、どちらか一方が100%悪い、ということはそうそうありません。失恋においても、問題は、通常両方にありますし、今回の恋愛がうまくいかなかったから、次も駄目であるとは限りません。また、直美さんの恋は、2週間でも1か月でも2カ月でもなく、3カ月続いていたわけで、完全な失敗ではなかったわけで、恋愛なんて向かない、という結論に達するのは無理があります。

 仕事で失敗をしたら、それきちんと受け止め、パターンを分析しつつも、そこに存在する、今回独特の要素、ユニークな点を見つけます。今回の失敗に、過去のものと共通する何らかの傾向は存在するかもしれませんが、それがあなたの仕事のすべてに当てはまるわけではなく、失敗がずっと続くわけでもありません。このように、立ち止まって、その一般化に対する「例外」を見つけていくことも、この思考パターンからの脱却の糸口となります。



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