人間関係のトラブルの元になることのひとつに、反応する(React)ということがあります。この「反応する」という行為は、しばしば、「対応する、応答する」(Respond)と区別して考えられます。
たとえば、アメリカ人が、"She is so reactive." というのと、"She is so responsive."というのでは、意味はまるで違います。前者は明らかにネガティブで批判的な意味であるのに対し、後者は、とてもポジティブで、賞賛的な意見です。
前者はどういうときに使われるかといえば、何かその人にとって好ましくない状況になったり、誰かに何か気に入らないことを言われたときに、反射的に、ネガティブで強い反応をする人がいたときですが、後者は、質問や、問題に対して、きちんと向き合って応答してくれる、(情緒)応答性が良い、というように、その人の安定した様子、責任感の強さ、高いソーシャルスキルなどを示唆した表現です。
日本語には、こうした二者を端的に言い分ける言葉はありませんが、何かに対して「過剰に反応する」人、「反応の良い人」、「無反応な人」などと、「反応」と言う言葉が、いろいろな形容詞と組み合わさって、その人の様子を表現されます。 いずれにしても、冒頭の二者の基本的な違いは、reactが、(考えなしに)反射的に「反応している」のに対し、respond は、(相手の言動に対して一息ついて、それについて考えて) 対応している、というところです (脚注1) 。
実際、レスポンス(response) する時には人間関係に何か建設的なことが起きる可能性が高いですが、リアクト(react) する時は、言い争いや破壊的なことが起こる可能性があります。
例を挙げましょう。美香さんと和夫さんに登場していただきます。2人は夫婦生活4年目です。 まずはリアクトから。
和夫: 「言いにくいんだけどさ、ボーナス、思ったよりずっと少なかったんだ」
美香: 「え?! なんで?いくらだったの?!」
和夫: 「20万…」
美香: 「ちょっと! それは低過ぎない!? カードの返済どーすんのよ!」
和夫: 「そんなこと言ったって仕方ないだろ!貰えただけマシだろ!」
美香: 「何それ?! あなたが『夏のボーナスは期待して良いよ』って言ったからプリウス買ったんじゃない! 無責任なこと言わないでよ!」
和夫: 「落ち着けよ!こっちだって必死で働いてんだよ!」 (以下省略)
なんだか心の痛むやりとりです。
では次に、レスポンスについて見てみましょう。
和夫: 「言いにくいんだけどさ、ボーナス、思ったよりずっと少なかったんだ」
美香: 「いくらだったの?」
和夫: 「20万」
美香: 「それは確かにちょっと少ないね。困ったね」
和夫: 「うん、困ったことになったね」
美香: 「どうしよう、カードの返済」
和夫: 「そうなんだよね。俺が楽観的過ぎた。ごめん。プリウス買うのはもう少し後にすべきだったね」
美香: 「うーん。買っちゃったものは仕方ないよ。プリウス私好きだし。2人で決めたんじゃん」
和夫: 「ごめんな。しばらく飲み会とか服とか余計な出費抑えて節約するよ」
美香:「そうだね。私もいろいろ気をつける。大丈夫だよ。頑張ろう」
和夫: 「うん」
なんだか先程のやりとりとは驚くほど違いますね。お互い思いやっています。
この2つのやりとりの何が根本的に異なるのかと言えば、やはり美香さんの心の余裕です。
前者では美香さんがあまりの動揺で、相手の気持ちを考えずに反射的に自分の不安を和夫さんに投げかけています。その結果、和夫さんも動揺して、リアクティブになり、リアクティブの連鎖が起きています。
一方、後者では、美香さんは、和夫さんからのアンウェルカムな情報に驚くものの、まずは自分の感情をコントロールして、冷静に応えています。それで和夫さんも少しほっとして、心を開いて話し始めます。その後の美香さんの対応も、自分の気持ちを表現しながら相手を思いやるもので、それぞれが思慮深い、リスポンシヴなやりとりに展開していきます。
このように、相手の言動に対して、こみ上げてくる衝動や情動を見据えながらとりあえず傍らに置いて、一息ついて相手の気持ちも考慮して応答することから、難しい案件も、建設的に話し合える可能性が出てきます。
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(脚注1)ところでreactiveは、proactiveとも対照的に使わてたりします。これは、reactiveが、何かが起きた時にそれに対して行動する、という消極的な態度を示唆するのに対し、proactiveは、その何かが起こる前に、積極的、能動的に行動する、という意味合いを含みます。そのひとのクリエイティビティも示唆しています。