12月6日(金)の当直の時に、7日午前2時過ぎに70歳代後半の女性が救急搬入された。トイレに行って戻る時に倒れたということだった。救急隊到着時に血圧が70/50mmHgと低下していた。
搬入中に血圧が170mmHgまで上がったというが、搬入時は107/87mmHgだった。酸素飽和度は92~94%(室内気)。意識は清明で普通に会話ができる。体温36.3℃。手足の冷感があって、寒いと訴えた。
この患者さんは内科医院に高血圧症・慢性腎臓病で通院していた。今年の1月に腎機能の悪化で当院の腎臓内科に紹介されている。多発性嚢胞腎polycystic kidneyがあった。家族(娘2人)の検査も行われていた(なかった)。血清クレアチニンは3mg/dL台でいずれ悪化した時は透析予定となっている。
胸痛や呼吸苦の訴えはなかった。心電図は洞調律で右脚ブロックだけで虚血性変化はなかった。(以前は右脚ブロックはなかった)血圧低下なので脳血管障害は否定的だが、念のため撮影して異常はなかった。胸腹部CTで心拡大はあるが、肺野に異常はなかった。
血液検査(試験紙使用の簡易検査)では白血球10300・CRP3.2と軽度の炎症反応上昇を認めた。肝機能は異常なかった。CTで以前から肝臓の左葉を中心に小嚢胞の多発があるが、前回と同様だった。(時間外は凝固検査はできない)
家族の話では腎盂腎炎を繰り返しているということだった。(入院はしていないので膀胱炎くらいなのか、発熱を伴ったのか詳しくはわからない。
尿路感染症疑いとして、入院で点滴・抗菌薬で経過をみることにした。入院すると、午前8時に病棟から血圧が80mmHg台と連絡がきた。呼吸苦は訴えないが酸素飽和度も90~92%だった。
酸素吸入2L/分を開始して、補液1000ml追加で血圧は100~110台になって、通常の持続点滴だけ(1500ml/日)で安定した。尿路感染症からの敗血症性ショックになった可能性を考えていた。
発熱が見られないのは感染症としての重症度が高いのかもしれない、尿路感染症を繰り返していて起炎菌は通常の菌種ではなく、難治の大腸菌ESBLなどかもしれない。抗菌薬をセフトリアキソンからメロペネムに変更した。
そのまま週末を過ごして、バイタルは同様だった。12月9日(月)に病棟に診に行った、血圧は100~110mmHgだが、元々高血圧症なので血圧が低下していることになる。手足の冷感はまだあった。
外来で診ている腎臓内科の若い先生と相談していたが、別の内科の若い先生が、CTで肺動脈内に血栓があるようだと指摘してくれた。見直すと右肺動脈と左肺動脈の分枝に血栓を示唆する高濃度物質を認める。血液検査で凝固検査も提出していたが、Dダイマーが18.7と上昇していた。(もっと高値でもいいくらいだが)
肺血栓塞栓症だった。心エコー検査を検査室に緊急で依頼すると、右房・右室の拡張を認めた。(当院の心エコーは他院の検査技師が月曜日だけ来て行っている)
多発性嚢胞腎による慢性腎臓病(今回は血清クレアチニン4.4mg/dL)もあり、そこに肺血栓塞栓症が発症している。全身管理になると思われて大学病院救急科に連絡した。
若い(声で判断)女性医師が出られて、それは循環器内科でしょうといわれた。親切に循環器内科の先生に回してくれた。病状を説明して、地域の基幹病院は受け入れ不可だったことを伝えると、受けてくれた。家族にも連絡して救急搬送となった。
改めて両下肢を確認したが、腫脹・疼痛はなかった。深部静脈血栓症があるはずだが、診察上はわからない。多発性嚢胞腎で下大静脈に影響が出るのか。
トイレに行って突然倒れたことから、その時に発症した可能性もある。ただその日の昼から体調が悪く、昼食摂取はわずかで、夕食は食べられなかったという。救急車内で急に血圧が上昇したということもある。肺動脈内の血栓が詰まりかけたり、外れたり(あるいは末梢に流れたり)と変化した可能性がある。週末急変しかったのは運が良かった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます