生命の危険がある暑さは、容赦なく北信濃のこの地にも襲い掛かる。
7月に入って、ケールの収穫作業を頼まれてしまい、朝の5時から午前中の仕事が続いた。
中旬からは水道メーターの検針作業。
猛暑の中一日三万歩以上歩いた。
骨休みで、唐松岳へ出かけた。
八十歳になる義姉もこのところ山へ連れて行ってあげてないので、誘って、かみさんと三人で出かけた。
リフトを下りると白馬三山。
ニッコウキスゲの群落。
涼しげな池塘。
五竜岳と鹿島槍。
振り返れば薄墨色のわが故郷の山。
八方池に映った不帰岳。
物陰にひっそりと咲くマツムシソウ。
平日ではあったが、それなりの数の登山者。
池のほとりで一時間ほどのんびり過ごした。
かみさんと義姉は、シラネアオイを見たいというので、丸山の辺りまで行くから、一人で唐松岳まで行っても良いという。
それでは、と一人山頂を目指す。
残雪がいとおしい。
唐松岳の山頂がやけにすっきりと見える。
高山植物は頑張って登ってきたご褒美。
後には立山と剣岳。
五竜から鹿島槍へと辿る登山道が誘っている。
直下の唐松山荘。
今夜はここで泊まる人もたくさんいるのだろう。
不帰岳から白馬三山。
夏場なら何ということもない八方尾根も、冬場は厳しいコースになる。
もう四十年近い前になるが、一月に八方池に雪洞を掘って泊まっていた。翌朝背丈を超える積雪があり、吹き溜まりでは足が地面に着かなかった。強い季節風の中、福岡から来たという三人組が下りて来た。登ろうか停滞しようか迷っていた僕は、余りに尋常ではない吹雪に一緒に下山することにした。
地図とコンパスを頼りに地吹雪の中、三人は下って行く。あとから行く僕は、変だなと思う。八方尾根は牛の背のように、幅広い尾根で、見通しが利かないときは迷いやすい。確かにルートは左に曲がる。だが、明らかに傾斜が登って来た時とは違う。急すぎるのだ。大声で三人を止めた。『ルートが違う!こんなところを下れば雪崩が起きるぞ!』『地図だとこれでいいはずだ』
その時、一瞬地吹雪が弱まり、尾根の左上に赤い旗が見えた。早く左に曲がりすぎたのだ。何とか八方池山荘までたどり着き、聞いたところによると、スキー場のリフトも強風のため運航停止になっているという。僕らはそこに泊まることにした。
それから一週間ほど後のことだ。八方池でテントを張っていた厨子開成高校の10名ほどが行方不明だという。
あの雪の中で、見通しが利かなければ、間違った沢へ下ってしまっても不思議はない。現地を体験してきただけにその状況が生々しく感じられた。雪が融けるのを待って発見されたという生徒と先生たちの冥福を祈りつつ山を下りた。
今またケールの仕事を頼まれて、過酷な日々を過ごしている。
早く涼しくならないかな。
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