Sofia and Freya @goo

イギリス映画&ドラマ、英語と異文化(国際結婚の家族の話)、昔いたファッション業界のことなど雑多なほぼ日記

騎士道

2012-10-27 09:16:00 | パレーズ・エンド
Parade's Endネタバレ注意報を出させていただきます。


To The Ends Of Earthから騎士道精神に溢れる若者

上の写真にもかかわらず、まだParade's Endの感想を引きずっております。
2つ前の「ネタバレ感想」にコメントをお寄せくださったHedgehogさんが教えてくださった、新装版ペーパーバック(原作)に寄せられたジュリアン・バーンズによる序文をネットで読んだり、BBCでドラマの前に放送された原作者のフォード・マドックス・フォードのドキュメンタリー(下に動画はりました)を見返して、ちょっと鬱屈した気分になっておりました。

ものすごく乱暴に簡単にすると、序文を読む限り、原作4巻のうち最終巻はドラマに盛り込まれておらず、ドラマのエンディング、手をとりあって踊るクリストファーとヴァレンタインの幸せはあの時が絶好調だったこと。実はその後もあること。作家のドキュメンタリーを見る限り、クリストファーにはかなり自己投影していて、彼自身の戦争体験や女性遍歴がストーリーにとっても反映されていること。その両方があまり幸せな人生ではないみたいでねぇ。。。


アメイジング・グレイスからウィリアム・ピット/首相という地位は女王の騎士なのかな?いや違うな

折しも、最近会ったイギリス人から、初対面によくある話題=日英文化の話になった時「日本は色々な意味でイギリスに似ていると思うけど、騎士道精神はないよね。武士道があるけど、女性の扱いが違う」という言われました。
うにゃ? Parade's End=クリストファーを語るのに欠かせない概念『騎士道』が今でもイギリス文化を語る時に出て来る?!私の日常と英国時代劇がシンクロ~~

私の好きな鏡のシーン。↓

「Damn, his chivarly. Christopher...(まったく彼の騎士道ときたら)」


騎士道とは「貴婦人への献身」と「倫理規範」このふたつはまったくクリストファーですが、騎士たるもの武人ですから、実は戦闘能力が必須!それだ、クリストファーに欠けていたもの!戦争行ってもラテン語好きの詩人と仲良くなったり、戦場にヴァレンタインちゃんの幻見たり、「レディをお待たせするのは良くない」と言われて「まさかミス・ワノップが?!」とふーふー言いながら駆けつけたらシルヴィアだったり、戦場でのかっこいいシーンはひとつもなし。でも塹壕で砲撃の合間にサンドイッチとコーヒーを部下に給させるシーンはエレガントだったけど。

それと彼の規範を示すいい文が、脚本序文にありました。ええーーっと、長い序文なんだよな、あった、これだ、、
Christopher is a mixture of chivalry and masochism (if it hurts, I must be doing the right thing)クリストファーとは騎士道とマゾヒズムの混合体(それがつらいなら、自分は正しいことをしているに違いない)
こんな規範で生きてたら、そりゃ苦しいでしょうが。。。

そう、クリストファーの苦悩はその理想主義の騎士道からこぼれる人間性から発してますよね。
だって、そもそもストーリーの発端は汽車での情事ですよ!貴婦人のお誘いをお断りしては失礼、というのが騎士としての理屈かもしれないけど、コンパートメントに同席した美女が「My name is Sylvia.」と言った時、「I know...」と言ってた。あれはすでに彼女が新聞などに掲載されてる社交界ではちょっと名が知られてる存在ってことで?そしてその魅力に思わずあの事態?その後の彼の人間性をドラマを追って知るにつけ、あれはすごい気の迷いだったんだなあとしか言いようがありませんが、そういう規範では律しきれないところが人間の魅力です。

妻の入浴姿も直視できずに彼女をまた怒らせた男が、戦時中に押しかけて来た妻のホテルの部屋で、彼女が椅子にかけておいたガウンの匂いを嗅ぐシーンがやけにセクシーでした。。。



ドラマではこのような美しいシーンに昇華されてる、ヴィクトリア~エドワード時代のイギリスの禁欲主義は、原作者のフォードを悩ませたんじゃないでしょうか。フォード自身は作家として芸術活動しながら、フランスやアメリカに長く住みました。きっと本国の社交界や文壇が、ドラマに出て来るみたいに、ゴシップと批難に溢れて苦痛だったんではないかと察します。ドラマでもシルヴィアがポッティとフランスに行ってしまった時、ポッティがつれないシルヴィアに拳銃をつきつけて「フランス人ならこの行動をわかってくれるぞ!」と言ってました。作者は愛至上主義のフランスに憧れていたんだと思います。憧れるけど、イギリスのしがらみから逃げられない男、それがフォード。

ドラマにならなかった原作最終巻(シルヴィアの魔の手は収まらず生活に疲れるクリストファーとヴァレンタイン)にはフォードの人生がかなり投影されている気がします。
そしてそこは脚本化しなかったストッパードさんはさすがだなあ。。。

細かい台詞のことは長くなるのでまた後日に改めますが、
ドラマの冒頭、シルヴィアと元恋人のジェラルドの会話に、個人的にふいてしまったんですよね。シルヴィアが結婚する相手がクリストファーだということに彼が「よりにもよってあんなOXと!」と言う。原作では他のありとあらゆる動物に例えてクリストファーが重々しくて融通きかない奴だと形容するようですが、私ベネディクト・カンバーバッチの声をシャーロックで初めて聞いた時の感想は、「牛のような声だな」だったので。

フォードのドキュメンタリー・フィルム



追記
さっきこの文章書いて夫と朝ごはん食べてたら「自転車乗りのマゾヒズム」について語りだした。。。マゾヒズムなんて言葉は滅多に使わない、まったく文学的でない夫婦なのに、なんで言葉というのはこうシンクロするんだろう。。。

10/30追記
お詫び:序文を紹介してくださったHedgehogさんからコメントにて「序文は脚本ではなく原作本についてる方」とのご指摘をいただきました。訂正欄を別にすると混乱を招きやすいので、本文を訂正してあります。訂正前に読んでくだたった方には申し訳ありませんでした。