Sofia and Freya @goo

イギリス映画&ドラマ、英語と異文化(国際結婚の家族の話)、昔いたファッション業界のことなど雑多なほぼ日記

舞台 夜中に犬に起こった奇妙な事件

2015-09-18 11:22:00 | その他の映画・ドラマ・舞台


この物語の存在を知ったのは3年程前、舞台の記事を読んだのでした。まずはすぐに手に取れる原作本を読んでみました。原作は英語の図書館ではヤングアダルト小説に分類されているのですが、日本語版は児童書のようです。

<ストーリー>
主人公クリストファーは15歳。動物とは上手くつき合えるが人間の感情は理解できない。人に触れられるのは我慢できないが、彼はすばらしく論理的な頭脳に恵まれた自閉症の少年です。彼の母親は病気で亡くなっていて、今は父親との2人暮らし、学校では数学が得意で難しいAレベル試験を受けることになっています。
ある日、近所の家の前でその家の飼い犬が死んでいるのをクリストファーは発見します。警察は犯人を捕まえてくれません。彼が好きな犬でしたから、自分で犯人を調べ、彼の好きなシャーロック・ホームズのような、でも本当の現実の犯人探しの本を書くことにしました。事件の捜査によって判明したことは、犯人だけではなく、さらに深い事実が・・・・


<感想>

と、このように、私が興味をそそられる仕掛けが、これでもか!と散りばめられていました。イギリスの話ですので、少年の興味のある単語もシャーロックだけでなく、ドクター・フーのダーレクだとか、スター・ウォーズだとか出て来ます。舞台は、クリストファーの住むロンドンから電車で1時間ほどのスィンドンとロンドン。

それにも増してこの本にしかない魅力は、自閉症の少年の一人称の物語ですので、自閉症(と言っても高機能)の人に、世界がどう見え、彼がどういうふうに物事に対処し、どのように感じるかが書いてあることです。自閉症の人は、その他の人に比べて劣っているのではなく、思考回路や表現方法が違うのだとは私も知識として知っていますが、それではどう違うのか?

自閉症の人は、決まった習慣、場所、人に安心感を覚え、そこから出ることを好みません。そんな彼がある重大な発見をきっかけに、誰にも内緒でロンドンへ電車で一人旅をします。自分の町の自宅と学校しか知らないクリストファーが。ここで面白いのは、大都会ロンドンへ1人で初めて行って目的地を探すのは彼にとって大冒険ですが、私達日本人が初めてロンドンに行くのとちょっと近いものを私は感じました。町を見渡すと英語のサインや情報の海ですが、イギリスの何も知らない外国人にとっては、何が自分の欲しい情報なのか取捨選択することは困難ですよね?クリストファーにとっても、彼の脳はコンピューターのように情報を全て同じレベルで目から取り込むので、量が多いと大変なことになってしまうのです。

本では文によって彼の感じたことの説明や、数式、表、イラスト、ロンドンの町のサインなどでクリストファーの世界を表現していましたが、では舞台では、これをどうするのか・・・?


答えは、方眼用紙のような座標のような壁で囲まれている舞台セットと、その壁に映し出されるプロジェクター(?)でした。



クリストファーの頭脳はコンピューターのように多量の情報を順次処理していきますので、この壁と床の座標軸に囲まれた世界は私のような好みやカンに頼って情報処理するタイプの人間にとってわかりやすい視覚効果だと思います。

実際、このデジタルな舞台セットは、1906年オープンの優美なエドワーディアン劇場Gielgud Theatreに組まれていることでその対比が強調されていると思います。舞台から視線を上に向けるとこういう劇場ですから。



その世界に生きるクリストファーは、たったひとりだと寂しそうなんですけれども、そこに彼のお父さんや、学校の先生、近所のおばさんやその他の人々が現れます。動き回る人達は彼の世界の秩序を乱す雑音でもあるけど、同時に彼の好きな玩具などと一緒に彼の世界を作り上げる要素にもなって、コンピューターではない彼の世界が完成するのです。実際に、町を築くパソコンゲームのようなことを、彼はリアル玩具で夢中になってやるのが象徴的だと思いました。

人の感情をその人の表情や言い方などから読むことができない自閉症の人自身にも感情はあることがわかります。

私は、人の言葉から過剰に感情を受け取りがちで、言った本人が忘れていることも何年も覚えていて自分の行動の基準にしていたこともあります。それは別の言葉で言えばトラウマの小さいようなもので苦しかったので、クリストファーをちょっぴり羨ましくもあります。

とは言え、彼の場合は感情で情報操作しないので逆に過剰な情報に苦しめられるのですから、人の痛みはなかなか当人にしかわからないものですね。

クリストファーの思考回路は理論整然としていますし、現代劇だし、家庭と学校と近所という少年の世界なので舞台の英語は難易度低いです。(でもクリストファーが得意な数学の話になるとまったくついていけませんが・・・・)


日本でも来年のナショナルシアター・ライブで公開されることが決まって、より多くの人がこの世界を見られることになりました。今から楽しみですね!