早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

「早春」昭和十七年六月 第三十三巻六号 近詠 俳句

2024-09-06 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
「早春」昭和十七年六月 第三十三巻六号 近詠 俳句


 近詠
雲の峰わかくて人をはげまする

進む國暢ぶ民松はみどりして

たつ夏の飛行編隊は南す

戦へるこころ兜を飾るなり

牡丹の岩よりいづか鏤む日

蛍の縁砂ざらざらで野面夏

茣蓙透かす土のつめたさ蜘蛛這ひ來

陸軍病院葉柳干衣風にあり

グライダー一機休めり夏の蝶

鍬傷の芭蕉のいもをいつくしむ

ばらの花垣目を川へ咲きむらがり

蔦の門玄關さらに磴の下

樹々深かに鵜匠の村の夏の暁け

沙羅咲いてうしろ山厓夕日染

梧桐双葉それより小さき青蛙

浜木綿の實生待ちゐる夏辰なる

いま揚げて窓から仰ぐ五月鯉

蟹の眼の草葉かはして高きかな

山若葉女の聲が谺する

蛍の夜近思の情に女あり

病みて愁ひを知らずとセルを着たりけり

萩若葉浅き茂りに光湧く

石竹の土に蝸牛の乾きかな

夏薊蔑み佇ちて馴染む哉

金魚二つを五つ六つに增さんか朝心

河内野の白日に來つ楠公忌

石佛に兎角の夏かげろう

薫風や鉢に咲きたる葱の花

夏の露ひとの垣内をなつかしむ

梅雨前や酸漿しげり豆たてゝ

 鐘霞む
さざなみの入江つたへば鐘かすむ

鐘かすみ谺はさらにかすみけり

鐘かすみ岨る人語のきこゑけり

よし切りのとまつて芦は芦に埋もれ

よしきりや池心の舟の何をする

行々子散歩汀に足りて佇つ

   早春社五月本句會  兼題「五月雲」 席上題「蝌蚪」
五月雲多賀の鳥居にあがりけり

魚顔をして藻にやすむ蝌蚪一つ

蝌蚪涼し筧の高きより落つる