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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

怖い家

2023-08-10 18:08:02 | 趣味人的レビュー
今、家系が「来てる」のか?──といってもラーメン屋の話ではない。『黄色い家』だとか『変な家』だとか、家にまつわる本が次々に出ている出版業界の話である。そういう意味では、この沖田瑞穂の『怖い家』もまた、その中の1冊ということになるのかもしれない。

『怖い家』はそのタイトルから、家にまつわる怖い話を集めた短篇集のように見えるかもしれないが、実は古今東西の神話、民話、伝承から現代の小説、映画まで「家」という切り口で論じた、マジメな学術研究書である。

家というものには、建物としての家だけでなく一族、血族という意味の家──イエ──まで含まれる、と考えると、家は人という存在と不可分のものであり、あらゆる物語は家という切り口で読み解くことができる。そこでこの本は、まず序章でスタンダードな幽霊屋敷ネタから入り、異界としての家、閉鎖空間としての家、そして生殖に関わるイエ、…と「家」というテーマを拡張しつつ、人にとっての家──あるいは家の怖さ──について論じていく。それぞれ興味深いが、私的には第5章「『イエ』の継続と断絶」に実話だということで出てくる「呪いの家系」が、ちょっと三津田信三っぽくてよかった。

で、本書を一通り読んで私の頭に浮かんだのは、「それで?」という言葉だった。神話から小説まで、人が語ってきたあらゆる物語は「家」にまつわるいくつかの主題の変奏に過ぎない、というのはいい。だが肝心なのは、そこから何を導き出すのか、だ。

『千の顔をもつ英雄』などを著した神話学の世界的権威、ジョーゼフ・キャンベルは、地域や民族の違いを超えて世界中の神話に繰り返し現れるモチーフから、人間の本質に迫る研究を行った。例えばそうした視点で本書を読むと、神話や伝承は男と女には明確な違い──その役割の上で、更には、あり方の上でも──があることを明確に述べている(ように私には見える)。これは(あくまで私自身の理解だが)現代の、性とは男と女のようにディジタル的に区別されるものではなくグラデーションを描くように連続的なものであり、だから男女の間に明確な区別はなく、また区別してはならない、という性についてのムーヴメントと完全に対立するものだ。だとするとそれは、これまでの神話や伝承は人の本質と矛盾するものであり、我々はそれを捨て去り、新たな神話を語らなければならないのか、あるいは、今語られている性についての議論は長い人類史の中の一瞬の徒花に過ぎないのか?とか。

学術書である本書は、単なる物語の解釈論を超えて、そうしたことまでを射程に入れて読まれるべきだと思うのだ。
 
※「本が好き」に投稿したレビューを再録したもの。
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