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今年を振り返る第二弾は、「ガールズコレクション」。このイベントはもともとリアルクローズとエンターテインメントを組み合わせ、アパレルメーカーも加盟する商工会議所とテレビ局、イベント会社が一体で仕掛けた「神戸コレクション」が元祖。その後、モデル役の「タレント」をブッキングしやすい地の利がある「東京ガールズコレクション(TGC)」がフォーマット、知名度ともに確立し、海外や地方でも開催されるようになった。
当初、TGCはタレントが着用するアイテムを観客がイベントを見ながら購入できるシステムを採用した。雑誌に次ぐ、ファッションメディア、販売ツールを目指し、リアルタイムで商品の衝動買いを誘ったわけだ。しかし、観客の心理はタレントを見ることに集中したいから、商品を購入する・しないはどうしても後回しになる。提携サイト(ガールズウォーカーなど)を見てイベントをフラッシュバックしながら、検討すればいいからだ。
ファッションアイテムをアピールするアイコンは、あくまで「人」だ。一時、雑誌メディアから登場した「カリスマ販売員」や「読者モデル」が脚光を浴びたが、一般大衆が憧れるのは、ルックスやスタイルで優るタレントになる。それが目の前で見られるのだから、大衆が引寄せられるのは当然だろう。結果的にイベントは商品の販促策としては二の次に置かれるようになり、TGCはタレントによる「客寄せ興行」としての性格をより強くしていった。
そもそも、ガールズコレクションでタレントが着るアイテムは、デザイナーがシーズン毎に発表するクリエーションとは異なる。リアルクローズと言われるが、一般のショップで販売されている既成服に過ぎない。だから、イベント企画は手を変え品を変え、キャスティングも売れている旬のタレントを起用しないとマンネリ化する。観客がリピーターにならなければ、連続開催するにも集客力を欠いてしまう。ヒット曲を連発するミュージシャンのライブとは違うのだ。
そこで企画・制作にあたるイベント事業者は、「地方開催」に舵を切り始めた。地方は高齢化、若年人口の流出、加えて近年は豪雨や地震などの災害にも見舞われている。自治体には「地域活性」や「災害復興」を大義にした事業が欠かせない。イベント事業者はそこに目を付け、「地域創生プロジェクト」を名目にして、自治体へ営業攻勢を掛けたわけだ。
自治体=行政が動けば、地元商工会議所、組合員企業を巻き込みやすいし、地元スポンサーの確保も容易になる。地場企業はスポンサーになれば地域に貢献できて、知名度も上がる。メディアはイベントの前後からネタには困らず、広告の企画枠を連動できる。芸能事務所はタレントに地方営業をさせることで新たな稼ぎ口が増え、地元モデルクラブは所属モデルを全国メディアに売り込むきっかけにできる。利害関係者それぞれにメリットがあるのだ。
何よりイベント事業者にとっては、自治体のお墨付き=税金が拠出されるから、総経費のベース確保の目処がたつ。後は「チケット販売」と「スポンサー収入」で何とか収支を合わせ、利益が出るようにもっていけばいいのだ。TGCの地方開催では、こうしたそれぞれの思惑が達成できるので、「ビジネスモデル」として確立したと言える。
話をもとに戻すと、ガールズコレクションは一定の効果はあるが、タイムデザインである以上、一過性のもので終わる。しかも、若者の間でのファッションメディアは、雑誌から完全にスマートフォンに移行した。そこではSNSで情報を発信する「インフルエンサー」が消費でも様々な影響を及ぼし、写真のみで情報を伝達する「インスタグラマー」は、メディアの主役とも言われる存在になっている。
ファッションメディアは今や、インフルエンサーやインスタグラマーに取って替わられた。業界では「ガールズコレクションにブランドを出品しても、それほど売上げには繋がらない」という意見が大勢を占める。もはや「イベント効果」という名目を上げられるのは、地域活性や災害復興などを大義に掲げて実施する地方開催くらいだ。だが、それにしても、実効性という点では評価が極めて曖昧である。
北九州市は、2015年から「TGC北九州」を開催している。市では製鐵を中心にした基幹産業が衰退したにも関わらず、それに変わる産業を中々振興できない中、地方創生事業として若者の注目を集めるガールズコレクションに目を付けた。主導した北橋健治北九州市長には成長著しい福岡市への対抗意識もある。毎回、開催の記者発表で必ず小川洋福岡県知事を同席させる光景には、「県からも支援を取り付けた」という首長としてのメンツが透けて見える。
北九州市に触発されるように熊本市でも今年から「TGC熊本」を開催している。こちらには自治体が掲げる熊本地震からの「創造的復興」という大義や、地元でしか通じない「ファッションの街、復権」という自慰的スローガンもある。しかし、肝心な経済効果は、初回開催ということを割り引いても来場者の85%が県内からで、直接、間接を盛り込んでもわずか4億6500万円に止まった。これを成功と見るべきか、地域活性にはほど遠いとみるべきか。
北九州市も、熊本市もTGCを続けていくと言うから、イベント効果を出す明確な目標を定めなくてはならない。単なる地方創生や復興という大義だけでは、多額の税金を拠出する事業としては霞んでいくし、反発も受ける。しかし、果たしてそれができるのか。オール民間による事業化も考えられるが、両市のビジネス基盤やマーケット規模を考えると、これも難しい。
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結局、TGCの地方開催を継続し自治体による公金支援を受けるには、地元色を出した企画しかない。タレントが着用するアイテムに東京から持って来るNB(ナショナルブランド)だけでなく、地域のブランドや地元で活動しているデザイナーの作品も加えるという案だ。TGC北九州では、地元専門店「レディスハトヤ」が、自社開発のSPAブランド「ラトカーレ」の出品枠を持ち、地場の学校で学ぶ学生たちの作品やスタイリングも採用している。熊本も来年の開催では「地元アパレルブランドのショー」を企画に盛り込むと発表されている。
福岡市で2009年から開催されている同様の「福岡アジアコレクション/FACo」は、福岡商工会議所を中心に関係団体が参加して発足した「福岡アジアファッション拠点推進会議」が主催している。推進会議としてガールズコレクションを開催するのは、福岡の若手デザイナーを巻き込むことで起業を支援したり、新興アパレルを組合員として確保したい狙いもある。
そこで、当初から地元ブランドやデザイナーに対し募集、審査する形で、出展の門戸を開いて来た。因に2019年度は、Arnev(アルネブ/石田綾乃)、MAISON BY Dress coco/GV JAPAN)、marun..(マルン/丸家梢)、Pli par Pli (プリパルプリ/O'sps.Creative)、salire(サリア/レディスハトヤ)の5ブランドに決定した。レディスハトヤは、サリアとラトカーレで春のFACoと秋のTGC北九州の両方にルーチンで出展している。観客と同等のエージを狙うブランドが他にないのだからしかたないのだが。
2020年の開催でも、すでに出展ブランドの募集が開始されている。http://www.fa-fashion.jp/index.php?action_detail_index=true&doc_id=325 ただ、前出のようにガールズコレクションのイベント効果は確実に薄れている。それでも、地方のアパレルやデザイナーにとってブランドのアピールする機会が無償で得られるのはそうそうない。ただ、地域活性の先にある産業振興をガールズコレクション開催の大義にするなら、イベント出展で終わりでなく、営業面や販路拡大まで見据えた取り組みが不可欠になる。
やはり、アパレルやデザイナーにとっては、単独での展示会やインスタレーションを開催する方が重要なのだ。その仕組みを構築するのは、それぞれの事業者にかかっている。所詮、ガールズコレクションは一般の消費者を対象にした客寄せ興行で、観客はブランドや衣服そのものよりそれを着用したタレント見たさで訪れている。にも関わらず、来場者数はそのまま経済効果の指標になり、数字が多ければ活性化を達成できたと自治体は評価する。
もっとも、そもそも開催大義が回を重ねるほどに形骸化しており、イベント効果すら曖昧な状況。イベントを行っていちばん得するのは、イベント事業者や芸能界なのだ。タレントの道端ジェシカは出演予定だった前回のTGC北九州を夫の脅迫に加担した容疑(実際は不起訴)で、ドタキャンした。集客のためには人気タレントの起用が不可欠だが、それが不祥事を起こせば各方面に与える影響は計り知れない。タレントは諸刃の剣でもあるのだ。
目下、関係者は、違法薬物所持で逮捕された「沢尻エリカ」をブッキングしなくて良かったと、安堵しているかもしれない。まあ、ギャラの問題もあるから、簡単には実現しないだろうが。ただ、ガールズコレクションのイベント効果は無くなって来ているだから、地域創生どころか産業振興にはほど遠いと、地方自治体は気づくべきではないか。もちろん、「真の街づくり、人づくり、仕事づくり」なんて、できるはずもないのである。
当初、TGCはタレントが着用するアイテムを観客がイベントを見ながら購入できるシステムを採用した。雑誌に次ぐ、ファッションメディア、販売ツールを目指し、リアルタイムで商品の衝動買いを誘ったわけだ。しかし、観客の心理はタレントを見ることに集中したいから、商品を購入する・しないはどうしても後回しになる。提携サイト(ガールズウォーカーなど)を見てイベントをフラッシュバックしながら、検討すればいいからだ。
ファッションアイテムをアピールするアイコンは、あくまで「人」だ。一時、雑誌メディアから登場した「カリスマ販売員」や「読者モデル」が脚光を浴びたが、一般大衆が憧れるのは、ルックスやスタイルで優るタレントになる。それが目の前で見られるのだから、大衆が引寄せられるのは当然だろう。結果的にイベントは商品の販促策としては二の次に置かれるようになり、TGCはタレントによる「客寄せ興行」としての性格をより強くしていった。
そもそも、ガールズコレクションでタレントが着るアイテムは、デザイナーがシーズン毎に発表するクリエーションとは異なる。リアルクローズと言われるが、一般のショップで販売されている既成服に過ぎない。だから、イベント企画は手を変え品を変え、キャスティングも売れている旬のタレントを起用しないとマンネリ化する。観客がリピーターにならなければ、連続開催するにも集客力を欠いてしまう。ヒット曲を連発するミュージシャンのライブとは違うのだ。
そこで企画・制作にあたるイベント事業者は、「地方開催」に舵を切り始めた。地方は高齢化、若年人口の流出、加えて近年は豪雨や地震などの災害にも見舞われている。自治体には「地域活性」や「災害復興」を大義にした事業が欠かせない。イベント事業者はそこに目を付け、「地域創生プロジェクト」を名目にして、自治体へ営業攻勢を掛けたわけだ。
自治体=行政が動けば、地元商工会議所、組合員企業を巻き込みやすいし、地元スポンサーの確保も容易になる。地場企業はスポンサーになれば地域に貢献できて、知名度も上がる。メディアはイベントの前後からネタには困らず、広告の企画枠を連動できる。芸能事務所はタレントに地方営業をさせることで新たな稼ぎ口が増え、地元モデルクラブは所属モデルを全国メディアに売り込むきっかけにできる。利害関係者それぞれにメリットがあるのだ。
何よりイベント事業者にとっては、自治体のお墨付き=税金が拠出されるから、総経費のベース確保の目処がたつ。後は「チケット販売」と「スポンサー収入」で何とか収支を合わせ、利益が出るようにもっていけばいいのだ。TGCの地方開催では、こうしたそれぞれの思惑が達成できるので、「ビジネスモデル」として確立したと言える。
話をもとに戻すと、ガールズコレクションは一定の効果はあるが、タイムデザインである以上、一過性のもので終わる。しかも、若者の間でのファッションメディアは、雑誌から完全にスマートフォンに移行した。そこではSNSで情報を発信する「インフルエンサー」が消費でも様々な影響を及ぼし、写真のみで情報を伝達する「インスタグラマー」は、メディアの主役とも言われる存在になっている。
ファッションメディアは今や、インフルエンサーやインスタグラマーに取って替わられた。業界では「ガールズコレクションにブランドを出品しても、それほど売上げには繋がらない」という意見が大勢を占める。もはや「イベント効果」という名目を上げられるのは、地域活性や災害復興などを大義に掲げて実施する地方開催くらいだ。だが、それにしても、実効性という点では評価が極めて曖昧である。
北九州市は、2015年から「TGC北九州」を開催している。市では製鐵を中心にした基幹産業が衰退したにも関わらず、それに変わる産業を中々振興できない中、地方創生事業として若者の注目を集めるガールズコレクションに目を付けた。主導した北橋健治北九州市長には成長著しい福岡市への対抗意識もある。毎回、開催の記者発表で必ず小川洋福岡県知事を同席させる光景には、「県からも支援を取り付けた」という首長としてのメンツが透けて見える。
北九州市に触発されるように熊本市でも今年から「TGC熊本」を開催している。こちらには自治体が掲げる熊本地震からの「創造的復興」という大義や、地元でしか通じない「ファッションの街、復権」という自慰的スローガンもある。しかし、肝心な経済効果は、初回開催ということを割り引いても来場者の85%が県内からで、直接、間接を盛り込んでもわずか4億6500万円に止まった。これを成功と見るべきか、地域活性にはほど遠いとみるべきか。
北九州市も、熊本市もTGCを続けていくと言うから、イベント効果を出す明確な目標を定めなくてはならない。単なる地方創生や復興という大義だけでは、多額の税金を拠出する事業としては霞んでいくし、反発も受ける。しかし、果たしてそれができるのか。オール民間による事業化も考えられるが、両市のビジネス基盤やマーケット規模を考えると、これも難しい。
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結局、TGCの地方開催を継続し自治体による公金支援を受けるには、地元色を出した企画しかない。タレントが着用するアイテムに東京から持って来るNB(ナショナルブランド)だけでなく、地域のブランドや地元で活動しているデザイナーの作品も加えるという案だ。TGC北九州では、地元専門店「レディスハトヤ」が、自社開発のSPAブランド「ラトカーレ」の出品枠を持ち、地場の学校で学ぶ学生たちの作品やスタイリングも採用している。熊本も来年の開催では「地元アパレルブランドのショー」を企画に盛り込むと発表されている。
福岡市で2009年から開催されている同様の「福岡アジアコレクション/FACo」は、福岡商工会議所を中心に関係団体が参加して発足した「福岡アジアファッション拠点推進会議」が主催している。推進会議としてガールズコレクションを開催するのは、福岡の若手デザイナーを巻き込むことで起業を支援したり、新興アパレルを組合員として確保したい狙いもある。
そこで、当初から地元ブランドやデザイナーに対し募集、審査する形で、出展の門戸を開いて来た。因に2019年度は、Arnev(アルネブ/石田綾乃)、MAISON BY Dress coco/GV JAPAN)、marun..(マルン/丸家梢)、Pli par Pli (プリパルプリ/O'sps.Creative)、salire(サリア/レディスハトヤ)の5ブランドに決定した。レディスハトヤは、サリアとラトカーレで春のFACoと秋のTGC北九州の両方にルーチンで出展している。観客と同等のエージを狙うブランドが他にないのだからしかたないのだが。
2020年の開催でも、すでに出展ブランドの募集が開始されている。http://www.fa-fashion.jp/index.php?action_detail_index=true&doc_id=325 ただ、前出のようにガールズコレクションのイベント効果は確実に薄れている。それでも、地方のアパレルやデザイナーにとってブランドのアピールする機会が無償で得られるのはそうそうない。ただ、地域活性の先にある産業振興をガールズコレクション開催の大義にするなら、イベント出展で終わりでなく、営業面や販路拡大まで見据えた取り組みが不可欠になる。
やはり、アパレルやデザイナーにとっては、単独での展示会やインスタレーションを開催する方が重要なのだ。その仕組みを構築するのは、それぞれの事業者にかかっている。所詮、ガールズコレクションは一般の消費者を対象にした客寄せ興行で、観客はブランドや衣服そのものよりそれを着用したタレント見たさで訪れている。にも関わらず、来場者数はそのまま経済効果の指標になり、数字が多ければ活性化を達成できたと自治体は評価する。
もっとも、そもそも開催大義が回を重ねるほどに形骸化しており、イベント効果すら曖昧な状況。イベントを行っていちばん得するのは、イベント事業者や芸能界なのだ。タレントの道端ジェシカは出演予定だった前回のTGC北九州を夫の脅迫に加担した容疑(実際は不起訴)で、ドタキャンした。集客のためには人気タレントの起用が不可欠だが、それが不祥事を起こせば各方面に与える影響は計り知れない。タレントは諸刃の剣でもあるのだ。
目下、関係者は、違法薬物所持で逮捕された「沢尻エリカ」をブッキングしなくて良かったと、安堵しているかもしれない。まあ、ギャラの問題もあるから、簡単には実現しないだろうが。ただ、ガールズコレクションのイベント効果は無くなって来ているだから、地域創生どころか産業振興にはほど遠いと、地方自治体は気づくべきではないか。もちろん、「真の街づくり、人づくり、仕事づくり」なんて、できるはずもないのである。