HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

自分を作り替える。

2021-12-08 06:57:35 | Weblog
 今年も残すところ1ヶ月を切った。ウィズコロナの中で、何とか無事に乗り切ることができそうだ。秋以降、徐々に感染者が減ったこともあり、少しずつ外出、移動ができるようになった。ただ、以前にように何でも自由に行うまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 自宅と事務所の往復がルーチンで、ウィンドウショッピングを含め店舗で買い物する機会はほとんどなかった。生活に最低限必要な食糧や日用品、水はまとめて購入すれば、週1回の買い物で済む。逆に店舗にない生活必需品はネット通販を利用することが増え、店頭で確かめて購入することは皆無だった。

 アパレルについてはもともと素材や色合いが購入の条件だったこともあり、店舗に行く機会がない中で買うことは全くなかった。泊まりがけの出張もなく、アンダーウエアすら一枚も買うことなく1年が過ぎようとしている。業界にはさんざんお世話になってきたので、全く申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 一方、リモートワークで空いた時間を有効に使って、リメイクやリフォームに費やした1年でもあった。素材や色が気に入って購入したアイテムはそればかり着てしまうので、劣化やトレンド変化による手直しが必要になる。手間やコストはかかるが、自分仕様でオリジナリティも出せるので、また長く着ようという気持ちになる。



 先日、10数年前の海外出張で購入し、リメイクに出していたレザージャケットが工場から上がってきた。スエード革を使ったMA-1タイプで、先に購入したのは黒だったが、次の出張時に追加で買った「ペールブラウン」のやつだ。どちらも3〜4年は着続けただろうか。その後、暖冬になって着る機会がなく、ブラッシングだけしてパッキンに蔵っておいた。

 数年前に改めて確認すると革の劣化はなかったが、どちらもヘビロテで袖のリブに毛羽や毛玉が目立ち、袖口が擦れていた。リブを交換することもできるが、袖を身頃とは違う「」に切り替え、「ジップ仕様」にしようと思った。3年前に黒をリメイクすると、すごくスタイリッシュに仕上がったので、また着るようになった。そこで、今年はペールブラウンも同じように作り替えることにした。

 問題は革の色である。もともと本体は海外で購入したものだから、日本のブランドにはない微妙な色合いだった。まず、メンズのレザーウエアで茶系のペールカラーは、国内ではなかなかお目にかかれない。そこで、身頃より濃い目にするか、逆に薄くするか。ダメもとで、これまで何度もお世話になった博多の革専門店に当たってみた。

 いつもなら革選びは「ああでもない」「こうでもない」と考えながら、じっくり時間をかけるのだが、ウィズコロナの今はそうも行かない。接客してもらうのも気が引けたので、春くらいにジャケットだけ渡して在庫で適当なものがなければ、探してもらうようお願いした。すると、2〜3日後に店主から連絡が来た。

 店主:「元の色が微妙なので、探しても気にいるものが見つかるかどうか」
 店主:「今、うちに在庫しているものでは、これしかないですね」
 筆者:「では、端切れでいいので、見本を送ってもらえますか」



 
 そして、送ってきたのが写真の革だ。袖を切り替えにするから、同じ色にする必要はないのだが、できればトーンは合わせたい。濃い目にしても、薄目にしても、身頃のペールブラウンとうまく調和すれば、許容範囲である。ところが、これが袖はもちろん、襟や裾のリブとほぼ同じ色。襟や裾はそのまま残すから、袖を付け掛けても色目の違和感は全くない。個人的な好みもあるだろうが、筆者のセンスにドンピシャ。即決した。



 革が決まったので、リフォームの細かな仕様をまとめた図面の作成に取り掛かった。一応、革は余分を持った用尺を購入したが、縫い直しがきかないことも前提だ。黒のジャケットとはアームホールのサイズも微妙に違うだろう。筆者は平均的な日本人よりも腕が長いので、日本規格ではどうしても袖が短く感じる。フランスやイタリアのものがジャストで着られるのだが、元のスエードジャケットはリブ仕様で、意外に袖丈が短かく感じていた。

 それも袖を切り替える理由だった。そこで、切り替える袖丈は元のものより長めにしてもらうようにした。また、フロントを「ダブルジップ」に変更すること、両袖のジップのステッチや袖先の始末なども、「出来上がった後にこうじゃなかった」とならないように、確認する意味で図面に詳細を記した。リメイクでも仕上がりを重視すれば、綿密なコミュニケーションは欠かせない。工場には作業過程で疑問が生じれば、連絡してもらうようにお願いした。


YKKのジップはコストパフォーマンス最高 

 次はジップだ。こちらも何度かお世話になったYKKの代理店さんに注文した。担当者に打診したのは、福岡に緊急事態宣下が発令される前の8月初旬。サイズなど詳細な詰めが必要なので、短時間でも直の打ち合わせは不可欠だ。そこでファスナー製造やリメイク期間を逆算して、9月頭に短時間の打ち合わせを行った。担当者からは後任の若手スタッフを紹介された。

 黒の時は両袖をライダーズ風の仕様にしたので、発注したファスナーは長さ10cmほどのシングル2本。エレメント(務歯/ムシ)の色はシルバー、素材はニッケルだった。今回はジャケットの地色がペールブラウンで、ファスナーは光沢を落とした「アンティークシルバー」が用いられていた。ムシのサイズはフロント、ポケットとも8mmとやや大きめ。「フロントのファスナーをダブルジップに替えたいので」と、担当者に相談した。

 YKKは世界中のファッションブランドに対応するため、色・形はもちろん、素材、機能性、用途などに応じて様々なファスナーを揃えている。レザージャケットに付けられる「メタルファスナー」もエレメントカラーは7種類あり、ムシのサイズも3mmから10mmまで6種類と豊富だ。もちろん、全て色、エレメントではないが、「逆開仕様(ダブルジップ)」にも対応してもらえる。

 Webカタログを元に担当者と打ち合わせの結果、エレメントカラーは元のファスナーと同じくアンティークシルバーを選択し、フロントはこちらの意向通りのダブルの8mm、両袖はシングルの8mmとした。スライダーにつける引き手は、フロントがYKKのロゴが入ったオーソドックスなZF(ノンロック/自由)タイプ、両袖は黒の時と同じく別革の引き手も付けられるものにした。製造期間は1ヶ月とのこと。あとは若手スタッフに全てをお任せした。




 フロントのダブルジップ、両袖をシングルジップの計3本で1000円でお釣りが来るほど。いつもながら、YKKのコストパフォーマンスには感服する。片やカネにならない仕事なのに快く引き受けていただいた代理店さんにも、非常に恐縮している。工場にはファスナーが届き次第に作業にかかってもらうよう、こちらからはジャケットと革を発送した。

 売り物ではないので、別段納期を急ぐわけでない。工場の責任者は「12月上旬に仕上がります」と言っていたが、それより早い11月23日に届いた。作業過程では、袖山、袖幅やカーブ、袖丈は「黒に合わせますか、それとも元のジャケット通りにいきますか」との連絡があった。黒に合わせるのと元のサイズ感を踏襲する部分の折衷案でうまく折り合いをつけた。



 事前に革の色がドンピシャだったから、リメイクについても特段の不安はなかったが、やはり上がってみないと、完成度はわからない。そんな不安が打ち消されるように、黒とはまた違ってすごくいい趣に仕上がった。ダブルを含めジップ使いもいい塩梅で、スタイリッシュさを醸し出してくれている。

 それもこれも、革の専門店、YKKの代理店、そして革の縫製を知り尽くし、卓越した技を持つ工場スタッフが結集してくれたおかげ。感謝にたえない。まだまだタンスやパッキンに眠っているアイテムは多い。来年は別のリメイクにもとりかかろうかと思っている。そのために持てる創造力で、いろんなデザインを構想しているところ。特にSDGsを意識しているわけではないが、リフォーム、リメイクは眠った服を蘇らせるだけでなく、コロナ禍ですっかりルーチン化した自分自身を作り替えることができるような気もする。

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