スクリャービンの「ピアノ・ソナタ第5番」を半年がかりで暗譜した。静大の1~2年次、火曜の午後は大抵籠っていた大学の資料室でホロヴィッツのレコードを聴いて以来、いつか弾きたい憧れの曲だった。ソナタは普通3つか4つの楽章から成るが、これは複数楽章に匹敵する大きさのソナタ形式による単一楽章の曲。
まず出だしに卒倒。短9度のトレモロがぼこぼこ煮えたぎるマグマとなって一気に噴き出す、狂気のパッセージ!
極度に激しい、しかし一瞬で終わる冒頭の直後、対照的に優しく甘い属九の転回形がこだまする。
それは半音階で「トリスタン」の和音と化し、さらに拍子も調性も曖昧になり、トリップするように提示部へ捻じれ込んでいく。
以上の序の中に、これから展開される主題の全要素が萌芽として仕組まれている。
第1主題は「属九のこだま」が、調性の枠を超越する完全5度を積み重ねたアルペジオに伴奏される。バスに頻出するエネルギッシュな5度は、序の「マグマ」の音程。
提示部後半は半音階で貫かれた「トリスタン」が反復されつつ限界まで膨張するや、突如メフィスト・ワルツのスキップとなる。
クライマックスが近付くと密かに低音に短9度が現れ、序が再現する環境を整える。
果たして冒頭の全音上で序が再現され、展開部の開始。当然、提示部の様々な主題が組み合わせや調を変え、火花を散らしたり瞑想に耽ったりするが、長大な展開部の真ん中で、やはり序の「マグマ」がこの時ばかりは爽快なバブルとなって弾ける。
やがて壮大なクライマックス。「展開部の終わりはドミナントを強調する」という定石を破る、7のゼクエンツで化け物の如く巨大化する反復音型。その一つ一つが咆哮となって感情を揺さぶる。
これを見れば、メシアンは真似たな、とメシアンの価値さえ薄らいでしまう。
その後、拍子抜けするほど控え目な形で提示部がかいつまんで再現され、むしろその後のコーダの大団円に備える。
最後の2ページ以上バスはずっとEs を打ち鳴らし、和音の洪水の中、大伽藍が築かれる。
そして予期してはいたものの、現実になれば何という大胆不敵な終わり方だろう。猪口才な分析など意味があるのかと、筆の勢いに打ちのめされる。
そのホロヴィッツの録音がYouTubeにありました。
「すっげーなあ!」
http://www.youtube.com/watch?v=l66vHFxU0pc
http://www.youtube.com/watch?v=51PMgeEfTqs&NR=1