ポルトガルの空の下で

ポルトガルの町や生活を写真とともに綴ります。また、日本恋しさに、子ども恋しさに思い出もエッセイに綴っています。

あの頃、ビアハウス:トム・ウエイツの「ワルツリング・マチルダ」(2)

2018-03-15 11:45:18 | あの頃、ビアハウス
2018年3月15日

高校教師を退職した友人のマリアさんは日本語の生徒でもあるのだが、時折自分が手がけた劇の脚色の話をしてくることがある。先日も話の弾みでわたしたちは日本語授業そっちのけで、30分ほど演劇の話も盛り上がったのだが、

「それでね、その場面にTom Waitsの歌を使ったのよ。」との彼女の言に、
「ま、待てぃ!トム・ウエイツってあのトム・ウエイツ?」

トム・ウエイツにあのもこのもないのだが、わたしがこれまでトム・ウエイツというアメリカの歌手名を引きあいに出しても、一人として知っている人に出会った験しがなかったのである。そして彼の歌を紹介すると、決まって聞かされるのが、「なんだ、この声?」という感想である。若いときからトムの声は酒とタバコで潰れたシャガれ声で、近年は歌うというより、語りと言った方が適していよう。

しかし、1970年代も終わりに渡米して、たった半年ではあるがアリゾナにいたわたしにとって、トム・ウエイツはノスタルジックでたまらない。目を閉じれば、ツーソンNorth 2nd Avenue 927番地のドアの向こう、裏庭に面し、遅い午後の光を取り込んだ空間の一隅で、くわえタバコにアンダーウッドタイプライターでパチパチ原稿を打っているハウスメイト、ジョンのシルエットが浮かび上がってくるのである。

「ワルツィング・マチルダ(Tom Trauberts Blues)」と「ニューオリンズに帰りてぇな」(I wish I was in New Orleans)」は、トムのシャガれた声が却って胸にジンと染みていいのである。
(↓わたしが持つ1976年版Small Change LPジャケット裏のTom Waits)



トム・ウエイツの「ワルツィング・マチルダ」さわりの部分を。

Wasted and wounded, it ain't what the moon did
I got what I paid for now
See ya tomorrow hey Frank can I borrow
a couple of bucks from you
To go waltzing Matilda, waltzing Matilda,
You'll go waltzing Matilda with me

♪疲れちまってよ。
 月のせいじゃねぇんだ、身からでたサビってことよ。
 また明日な。
 おい、フランク、2、3ドルばかり貸してくんないか?
 To go waltzing Matilda, waltzing Matilda,
 You´ll go a waltzing Matilda with me. 
 (spacesis訳)

今日は英語で書かれてあるWaltzing Matildaの解釈についてなのです。

このワルツィング・マチルダがどうも意味がつながらなくて、長い間気になってきた。「2、3ドルばかり貸してくんないか?マチルダとワルツを踊りにいくのによ」と、考えてみたのだが、それだとMatildaの前に前置詞withが入らなければならないではないか?

マリアさんと話すことで、久しく忘れていたこの疑問を思い出したのである。

トム・ウエイツが編曲して引用しているワルツィング・マチルダは、今はどうか知らないが、わたしが若い頃はよく耳にした歌で、オーストラリアの第二の国歌とも言われる。前回も書いたが、渡米の資金調達のために、大阪梅新のアサヒ・ビアハウスで倍と歌姫をしていた時に、オーストラリア人のマーチンさんによくリクエストされ、時にはステージに彼やアメリカ人の友人ブルースを呼び出して一緒に歌ったりもした。
♪Once a jolly swagman camped by a billabong  
  昔、陽気な放浪者が池の側にキャンプをはった
 Under the shade of a Coolibah tree       
  ユーカリの木の下で、
 And he sang as he watched and waited till his billy boiled
  ブリキ缶の湯沸しが煮え立つのを待ちながら歌ったとさ
 You'll come a waltzing Matilda with me     
お前が俺と一緒にくるのさ、ワルツィング・マチルダよ

そして早速ネット検索をはじめたのだが、「a waltzing Matilda」とはswag(山の放浪者が携帯する今で言う寝袋?)を背負いながら放浪すること、と見つけたり!

Matildaは、紀元前300年頃からエルバ川北方に移住し始めた民族(主にドイツ人を指す)の逞しい女性の代名詞だと言う。同時に、移動するワンダーラー(Swagies)達に同行して夜は侘しい彼らを暖める女、妻替わりの意味もあることから、放浪者が携帯する毛布、寝袋等の荷物をMatildaと呼ぶに至ったらしい。

そう言えば、当時わたしが勤めていたオフィスの本社にいたアメリカ人ボブが、「この歌は英語を話す僕らもなんだか意味がよく分からない不思議な歌なんだ。」と言っていたのを思い出した。

オーストラリアの「Matilda」の意味は分かったが、それでもトム・ウエイツの「2、3ドルばかり貸してくんないか?To go waltzing Matilda=旅に出るのによ」なのだろうか。昔のこととは言え、2、3ドルでは旅には出られないんじゃない?トムが歌うにはまだ別の意味がある隠語なのだろうか。

ねぇ、トム。あんたの歌ってあんたの心の中のように、分からないのかね?と思わずトムの口調で呟いてしまうわたしであります。

ちなみにワルツィング・マチルダは、かつてわたしがチャット・ルームでお開きの合図として流してたものです。検索で知ったことですが、トムもこの曲をライブのトリに使っていたようです。

また、日本のテレビドラマ「不毛地帯」のエンディングに流されていたと聞きます。聴いてみてもいいかなと思われる方は、下でどぞ。
できれば、最後までお聴きいただけるといいのですが。




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