「多崎つくる」読了。小説としての構成ではいままで読んだ彼の作品の中で一番きっちりとまとまっている。一体感がある。
時間のある時にちょいと一幕見ると村上作品にはいいところがある。前にもいった様に彼は日本の小説家の平均より文章がうまいからです。しかし始めから終わりまで通して読むと興を覚えるという作品はない。手を替え品を替え、多種のオカルト調味料をふりかけたチカチカドンドンのカレー料理の連続で、わたしがバラエティというわけですが、いささかしらける。
「たざきつくる」はそういうところがない。そういう意味では彼の作品のなかでは一番かも知れない。オカルト調味料も一種類だけしか使っていないし、それを手品師のようにショウアップしていない。
なにがオカルトだって? 前回述べた脱魂憑依現象です。もっとも彼はそんなことをかいていない。かれの叙述に従えば
クロ; 悪霊
つくる; 地下水脈でつながっている(村上のユング、河合かぶれ)
ただし、結末の数ページはよくない。息切れがしたのかな。めでたし、めでたしという結末は村上美学に反するかも、そして結末を明示するのも村上の趣向に反するからかも知れない。「つくると沙羅は末永く幸せに暮らしましたとさ」ではしまらないと思ったのだろうが。