穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

百年前のロサンジェルスの大雨

2018-01-09 06:52:52 | チャンドラー

 チャンドラーの「大いなる眠り」は1939年に発表されたが、雨、それも土砂降りの大雨の描写が印象的である。たしか二回以上大雨の描写がある。舞台はロサンジェルス、ハリウッドである。現在では少雨乾燥地帯となっている。山火事の頻発地帯である。まったく雨が降らないというわけでもなく、一月ころには月間10ミリか20ミリの降雨があるようだ。

  前からこの大雨が気になっていたんだがね、非常に印象的、効果的に書かれていることもあり。確かめていたわけではないが、そのころルーズベルト大統領がニューディール政策でカリフォルニアの後背地に盛んにダムを建設していたが、それで気候が一変したのだろうか。

  大いなる眠りはチャンドラーの長編では処女作だが、その後の彼の長編では雨のカリフォルニアは描かれていないようだ。もっとも「大いなる眠り」はその前に書いた短編、たしか「雨の殺人者」のアマルガメイションだった。この作品の書かれた年代は記憶にないが、このころはまだニューディール実施前だった可能性が高い。

  それとも、この大雨の描写は全くのチャンドラーの創作だったのか。現在の東京の冬を屋久島の夏のような高温多雨の気候と設定した趣向だったのか。