穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

半ウイークデイ

2019-07-01 08:35:40 | 破片

 第九の生活は月曜日から金曜日までが活動日である。土日は一切外出しない。群衆とくに家族ずれの発散する波、脳波なのだろうが著しく第九を狂わせる。それに土日はキャリア・ウーマンである妻が家にいるから専業主夫である彼の仕事がウイークデイより多くなる。一日中家事や妻の世話に切れ目なく働かなくてはならない。

  今日は水曜日である。春分の日である。第九はいつもの週日のように午後から街にさまよい出る。リズムになっているから街をうろつかないと体調を崩すのである。妻も容認している。新宿南口の地下道は群衆で溢れている。第九はたちまち激しい頭痛に見舞われた。おなじ群衆でも週日にはそんなに顕著に影響が出ることは無い。もっとも雑踏するラッシュアワーは避けているからでもある。何よりも休日は家族連れ、アベック(いまこんな言葉を使うのかな、若いカップル、恋人同士とでもいうのか)、まあ何でもいいや。

  それでも結婚前は土日も外出していたのである。もっぱら競馬場に通った。そのころは中央競馬でもそんなに観客はいなかった。それが年々人が競馬場に蝟集するようになり、彼は日曜日の午前中しか行かなくなった。午前中はのんびりと観戦できたからである。ところがやがて午前中から芋の子を洗うような状態になった。彼は土曜日にしか競馬場に行かなくなった。しかし土曜日もメーンレースがある午後には満員電車みたいになった。とうとう彼は土曜日の1レースから3レースぐらいにしか行かなくなった。現在では土曜日も早朝から込み合うからもう競馬場にはいかない。

 痛む頭をさすりながら彼は早々に新宿の雑踏から抜け出して、近くの学生街の一角のビルにあるスタッグ・カフェに向かった。エレベータを出るとどこかの店で喧嘩をしているような怒鳴り声が全フロアに鳴り響いている。なんと怒鳴り声は彼が時々いくカフェの中でしていた。

  怒鳴っているのは悪質なクレイマーだろう。いつも静かな店内であまりたちの良くない客はいないのだが、どうしたのだろうとレジ前まで来た。レジには誰もいない。いつもは新客にアテンドして席まで案内してくれる女の子もいない。みんな店の奥で客に怒鳴られている。そのクレイマーは服装からすると女性である。怒鳴り声からすると男のようでもある。店員の女の子たちは襲い掛かられるのを恐れるようにその客から三メートルほど離れて団子のように固まっている。

  相手が手を出せば集団で抵抗しようと身構えているようだ。女は、あるいは女装の男はまん丸い顔をして黒縁の眼鏡をかけている。髪は短いざんぎりで紫色に染めている。テレビによく出てくるフェミニストの論客に似ている。顎の鰓は左右に張り出している。

  第九はしばらく見物していたが、これでは頭痛が余計ひどくなりそうだと判断して帰りかけたが、店の奥に禿頭の老人がいるのを見つけて店に入り老人の横に座った。