穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

ハメット「ガラスの鍵」共通点、光文社文庫を中心に

2010-09-30 09:20:06 | ミステリー書評

ガラスの鍵はチャンドラーの「長いお別れ」にあたる。なぜ

a 最後から二作目である。

チャンドラー プレーバック < ロンググッドバイ

ハメット    Thin Man < ガラスの鍵

b 両作ともに初めて家庭を描いている。勿論クライアントとして家庭の描写は出てくるが、これほどまじかに家庭が描かれているのは両作家とも初めて。だいたい、ハードボイルドでは家庭は描かれない。

長いお別れでは、依頼人でもあるウェイドという夫妻がかなりまじかに描かれている。その後のプレーバックではまた、家庭は描かれなくなる。

ハメットの最後の作品では引退した探偵夫婦という形で家庭描写が定着する。

c ラストの出来が両者作品で最善、自然、しゃれている。

& d 忘れてた。テーマが同じだ。友情。もっともマルタの鷹のラストは友情物、いや違うな、同僚物とでもいうべきか。職業倫理ものだ。友情じゃないな。そうするとハメットの長編で唯一の友情物だ。

チャンドラーのマーロウものでも、ロンググッドバイだけじゃないのかな。友情物は。飲んだくれの元俳優、もとホームレスのテリーとの濃厚辟易するほどの友情がテーマだ。

大いなる眠りに始まって高い窓、かわいい女、湖中の女、さらば愛しき女よ、すべて友情とは関係がなかった。ふたりとも唯一の友情ものを晩年、作品が衰えてくる前の絶頂期に書いているのも妙だね。

ガラスの鍵のほうが相当早く出ているわけだが、チャンドラーもなにか参考にするところがあったのか。人気という点では長いお別れのほうがはるかに上回ったがね。