# デカルトをめぐる二人の女(レディー)
強引なストーカーであったクリスティナ女王のほかにデカルトをめぐる女として名を残しているのは、欧州の没落した小国の王女エリザベートである。彼女との往復書簡と言うのが残されており、日本語にも訳されている。
もっとも、ファンと言うべき女性はほかの哲学者にもいたようだ。ライプニッツの書簡集の中にもそういう女性がいた様な「記憶」がある。
一つ補足訂正がある。「情念論」はデカルトがスウェーデン滞在中に出版されたが、執筆のきっかけはエリザベートの質問に答えるものであったらしい。すなわち心身二元論でいくと、両者の関係はどうなるのかと、彼女の「鋭い」質問に答えようとしたのだという。
ところで日本語では誰も「情念:論」と訳しているようだ。この情念と言う言葉には昔から違和感がある。情念と言うのは「激しい感情」というニュアンスがあるが、本の内容にそぐわない。情念=感情論と理解する向きもあるようだが、これも的を外している。
私の訳は『たましいの受動』である。英訳では「Passions of Soul」が普通のようだ。原題は「Les Passions de L’ame」である。Ameとはこころ、たましい、霊魂と辞書にある。英語のSoulも大体同じものだ(つまり精神や理性や知性ではない)。外界や自分の身体(延長と言う実体)からの能動(働きかけ、刺激)をたましい(心)が受動(passion)して反応する仕方を腑分けしている(つもり)なのがこの論文のテーマである。