Vintage Hammettという本がある。ハメットの短編のいくつかと長編の抜粋で構成されている。それを拾い読みしている。「赤い収穫」の最初の二章が掲載されているが、最初の章で作品の狙いというか意図が要領よく印象的に書かれていて、改めて全体を読み直そうと思っている。
前にも書いたがチカチカドンドンの漫画というかウェスタンという印象しかなかったので、出だしの章の記憶がまったく強くなかった。読み直して記憶は蘇ったが印象はほとんどなかったわけである。
要するに田舎の炭鉱町を牛耳る街の資本家が第一次世界大戦のブームが終わり、事業規模を縮小するさいに、強力な組合の抵抗にあい、ギャングたちを使って切り抜けるわけだが、労働争議を叩き潰したあとで、組合つぶしに雇ったやくざ達に街を乗っ取られたというわけだ。これが第一章に書いてあるからテーマは極めて明瞭である。ちょっと、面白そうだ。
こういう話は汎用性というとおかしいが、一般性があって日本の現実でも多い。組合対策に使った連中(例えば組合を分裂させるために雇った)第二組合の連中にすっかり経営権という母屋を乗っ取られた会社というのは結構ある。いま話題の日産なんかもその例である。組合対策に使った活動家がすっかりと経営権を握ってしまって、とうとう会社がおかしくなった。塩路とかいう組合の委員長が長期にわたり経営権をほしいままにしていた。労働貴族然として豪華なクルーザーを湘南沖に浮かべて実際の経営を壟断したらしい。どうにもならなくなって反対派がルノーからゴーンを読んできたわけだ。独裁には独裁というわけでゴーンの独裁が「毒をもって毒を制する」わけである。
似たようなケースは旧日本航空でも起こった。塩路の真似をして豪華クルーザーを第二組合の連中が乗り回した。その結果経営がおかしくなり、日航は倒産した。京セラの稲森会長の下でどうやら経営を立て直している。
創元社から「新訳決定版」というのが出たから読んでみよう。前に読んだのは印象が薄かったが、今度のはどうかな。
結末は、記憶によると全員共倒れということだったと思うが、うまく処理できているだろうか。あんまりメリハリの利いた起伏はなかったような気がする。