ウィリアム・アイリシュもノワール作家なんだってね。ネヴィンズと言う人が書いたアイリッシュの伝記にもそうある(1988年)。訳者の定義、理解によるとノワール小説というのは「出口も入口もない物語」だそうだ。これは定義ではない。無意味な言明だ。
この伝記の作者は銀行員でアイリッシュ(ウールリッチ)の遺産管理を行っている。小説も書くらしいが。そのせいで、何年にどういう作品をどこに売って小切手で200ドル稼いだとかやたらに詳しい。映像化やラジオ化に関する契約なども詳しい。勿論作品解説もあるが、書評や売れ行きの紹介のほうが多い。
したがって、多数の短編についての評価もある。これが面白い。訳者もあとがきで書いているが彼の鑑識眼はあまり上等とはいえない。なかでも滑稽なのは「ヨシワラ殺人事件」を口をきわめてほめそやしていることだ。
これはあまりと言えばあまりなことであります。しかし、アメリカではこの作品の評判がいいらしい。何回も映像化されているという。21世紀に入ってから出版されたアンソロジーにはしっかりとヨシワラ殺人事件が入っている。
勿論妥当な評価をされている作品もあるにはあるのだが。