スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

三四郎&第二部定理一二まとめ②

2013-02-16 18:52:13 | 歌・小説
 性的無垢ドストエフスキーが子どもを神の似姿とみる際の,理由の一因をなすというのが僕の考え方です。それでは夏目漱石の小説に登場する人物のうちで,最も性的な意味において無垢な存在であるといえるのがだれであるかといえば,僕は『三四郎』の主人公である小川三四郎ではないかと思います。
                         
 三四郎は福岡出身。熊本で高等学校を卒業し,大学入学のために上京します。上京する汽車の中で三四郎は見知らぬ女と出会い,成り行き上,名古屋の宿屋で同泊します。女は三四郎が浸かっている風呂に入ってくるなど,わりと大胆な行動を取ります。しかし三四郎はすぐに湯船を飛び出してしまいますし,寝る段になっても言い訳をしてふたりの布団の間にわざわざ仕切りを拵え,女には何の手出しもしません。翌朝,名古屋の駅で女との別れ際に,度胸のない人だと笑われます。
 このプロットというのは,明らかに三四郎が性的に無垢な男である,有体にいうなら童貞であるということを示唆していると僕は解します。『三四郎』の全体のストーリーの展開とすれば,この部分は存在せず,三四郎が東京に到着してから物語が始まったとしても,別に差し支えなかったように僕には思えます。それなのに漱石が小説のほぼ冒頭といえる部分に,このプロットを挿入しているということは,三四郎が童貞であるということを,漱石は明らかにしておきたかったのだとしか僕には考えられません。
 ただし,ドストエフスキーにとって,性的に無垢であるということが,神=キリストに関連付けられるべき記号であったのに対して,漱石の場合にはそのように考えることはできません。たとえばそこに三四郎がきわめて純朴な青年であったという意味を見出すことはできるでしょうが,何かそれ以上の意味を見つけるということが僕にはできないのです。
 漱石が,三四郎は童貞であるということに何らかの意味を託していたということだけは間違いありません。また,物語の中で三四郎が性的体験をしたとは思われず,おそらく小説の中ではずっとそうであったのでしょう。でも,なぜ漱石がそこに固執したかというのは,『三四郎』の僕にとっての謎のひとつなのです。

 第二部定理一二を,第二部定理一二の新しい意味で解釈するようになると,それまでと似てはいるのだけれども,それまでにはなかった新たな課題というものが浮上してきます。それはこの定理Propositioをこのように解するとすれば,人間は自分の身体corpusの中に起こる事柄を悉く知覚するpercipere,知覚と概念を厳密に分類した上で知覚するということになるのですが,これをいうことが現実的に不条理であるとはいえないかというものです。これを意識と無意識に分節し,知覚するということを無意識の領域に措定し,それらのすべてが人間の精神mens humanaによって意識されるわけではないと理解するのは,この課題を解決し得るひとつの方法でしょう。しかし,実際にそれが可能であるのかどうかは別としても,スピノザの哲学理論においては,人間は自分の無意識の領域にあるすべての事柄を意識することが可能であるということになっています。したがって少なくとも論理的には,この方法ではこの課題は解決されていないということになります。
 しかし,スピノザが最初から不条理であると考えられる事柄を敢然と主張するということは,常識的にいって考えにくいことです。したがって,スピノザは何らかの確信をもって,人間は自分の身体の中に起こることのすべてを知覚すると主張したのだと推測することができます。よって他面からみるならばこの課題は,人間が自分の身体の中に生じるすべての事柄を知覚するということを,いかに不条理に陥ることなく解釈することが可能であるかという課題なのだといえるでしょう。
                         
 このときに僕にとって大きなヒントになったのが,田島正樹が『スピノザという暗号』と「スピノザ的スピノザ」で展開している,これを現象学の概念notioを利用して理解する方法でした。僕はそこに,スピノザの哲学における身体の認識cognitioは,身体の中に起こることを通して生じるということを見出しました。すなわち,身体の中に起こることとは何かを問うときに,まず身体があり,その中に何かが起こるというように前提するのは,この場合にはあまり相応しくないのです。むしろまず,この場合における身体とはいかなるものであるのかということこそ,問われなければならないのです。
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