スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

書簡二&欺かれるもの

2019-12-13 19:14:06 | 哲学
 オルデンブルクHeinrich Ordenburgの書簡一に対するスピノザの返信が書簡二です。日付は書かれていませんが,1661年9月27日付でオルデンブルクからこの手紙を読んだ上での書簡が送られていて,書簡一は同年8月のものですから,同年9月前半から半ばに書かれたものでしょう。遺稿集Opera Posthumaに収録されました。
                                        
 書簡の冒頭はオルデンブルクに対する謝意の表明になっています。その後で,書簡一での質問に答えています。
 まず神Deusについてで,ここでは各々が自己の類において無限infinitumで最高完全な無限数の属性attributumからなる実有ensといわれています。第一部定義六と文言は異なりますが,齟齬はないといえるでしょう。さらにみっつのことをつけ加えています。第一に自然のうちには本性essentiaが異ならないふたつの実体substantiaは存在しないということです。第二に実体は産出され得ず,存在することが実体の本性に属するということです。第三に,すべての実体は自己の類において無限で最高に完全summe perfectumであるということです。第一の部分は第一部定理五,第二の部分は第一部定理六第一部定理七,第三の部分は第一部定理八に対応しているといえるでしょう。
 最後に,デカルトRené DescartesおよびベーコンFrancis Baconの哲学に含まれる誤謬errorへの言及があります。誤謬はみっつあり,第一に万物の第一原因causa primaについて真の認識cognitioをもたなかったこと,第二は人間の精神mens humanaの本性naturaの真の認識をもたなかったこと,第三に誤謬の真の原因を把握しなかったこととされています。スピノザがそのようにいう妥当性についてはここでは言及しません。スピノザはこれらの誤謬の根源は,人間の意志voluntasは自由libertasであって知性intellectusより広く及ぶとみなしている点にあるとみています。これは第一部定理三二第二部定理四九および第二部定理四九系に対応しています。

 スピノザは第二部定理三五の証明Demonstratioの過程において,誤るとか錯誤するとかいわれるのは人間の精神mens humanaであって人間の身体humanum corpusではないという主旨のことをいっています。これに倣って,欺かれるのは人間の精神であって人間の身体ではないということも可能であると僕は思います。しかし,デカルトRené Descartesの哲学を説明するときにも,このことを適用していいのかどうかということには微妙な点が残るのも事実だと思います。というのは,デカルトは感覚とか情念といったものを一律に身体現象として解するので,たとえばある種の感覚によって人間が欺かれるということがあり得るということはできると僕は思うので,このような意味においては人間の身体が欺かれるといういい方も成立すると判断することもできると思うからです。よって,人間の本性natura humanaの創造主が人間を欺くことがあるか否かということが論旨になっている部分で,人間が欺かれるとすればそれは人間の精神が欺かれるのであるというように結論することは避けておきます。他面からいえば,人間の身体が欺かれるといういい方が,デカルトの哲学においては可能であると解しておきます。気を付けてほしいのは,僕がここでそのように解するというのは,考察の安全性の面からそういうのであって,デカルトはそのように解しているということを主張するものではないということです。
 ただし,確実性certitudoに関して欺かれるとすれば,それはやはり人間の精神が欺かれるのであって,人間の身体が欺かれるのではないと僕は考えます。というのは,確実性というのは人間が何事かを認識したときに,それが確実であると知ることができるということを意味するのであって,これを人間の身体の作用に還元するのは不可能だと考えるからです。何事かについて確実であると認識するcognoscereにせよ確実ではないと認識するにせよ,それは人間が思惟作用としてそう認識するのであって,これは人間の精神の作用についての言及です。ですからそのことについて人間が欺かれるとすれば,それは精神が欺かれるのであって,身体が欺かれるとはいえません。よって人間の本性の創造者というのは,この文脈では人間の精神の創造者と解するべきでしょう。
コメント
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