スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

自由のヒント&苦痛

2021-09-11 19:23:48 | 哲学
 認識の裁量が人間にはないということは,人間の精神mens humanaにおける意志の発生は必然的なものであって,自由なものではないということです。したがって,人間について自由libertasを語る場合,すなわち思想の自由と良心の自由のような自由を語る場合には,それを意志voluntasと関連付けて語ることはできません。他面からいえば,もしも意志と関連付けて自由について語ろうとすれば,人間には自由はないといわなければならなくなります。よってその場合には思想の自由や良心の自由について語ること自体に意味がないということになるでしょう。なお,僕はここでは人間について語っていますから,このことは人間に妥当するということが分かれば十分ですが,意志と自由を結び付けて考えることはできないということは,スピノザの哲学では一般的なことです。よって神Deusについて語る場合にも,意志と自由とを関連させて考えることはできません。このことは第一部定理三二,および第一部定理三二系一から明らかです。
                                   
 それでは人間についていわれる自由,すなわち人間的自由とは具体的に何を意味するのでしょうか。スピノザは第一部定義七で自由の何たるかを定義していますが,この意味での自由は神にのみ成立するのであって,人間には成立しません。これは人間が自身の本性の必然性のみによって存在することはないということから明白です。自己の本性の必然性のみによって存在するものは,第一部定義一によって自己原因causam suiといわれますから,この意味で自由であるのは自己原因であるものだけです。これは第一部定理一七系二がいわんとしていることです。
 ただし,自由の定義Definitioが,人間的自由を明らかにするヒントとなっていることは間違いありません。そこでは同時に,自己の本性のみによって行動に決定されるものは自由であるともいわれているからです。第四部定理四系により,このことも人間には成立しないのですが,自己の本性のみによって行動に決定されること自体は,人間にもあるからです。他面からいえば,自身が十全な原因causa adaequataとなってある行動をなすということは,人間にもあり得るからです。

 近藤はこのことについては何も語っていないですが,第三種の認識cognitio tertii generisで答えが出せることを,第二種の認識cognitio secundi generisで説明することには,ある種の苦痛を感じることもあったのではないかと僕は推測します。僕は現在,三浦九段に関連する出来事について,かつて第三種の認識で認識した事柄を,第二種の認識に基づいて説明することを不定期で連載していますが,やはりそのことは大変だという思いをもっています。もちろん僕の場合は,確たる目的をもってそうしたことをしているので,それが苦痛であるとは感じませんが,もしもそういう目的が皆無であるなら,これをやることを苦痛に感じてもおかしくないと思うのです。たとえばなぜそうした答えが出るのかということをだれかに説明するのであれば,それはそれ自体が目的になるのですから,苦痛に感じることはないでしょう。ですがテストの解答については,苦痛に感じてもおかしくありません。そもそも数学のような学問というのは,正しい答えを導くことができさえすればよいのですから,第三種の認識でそれを導き出すことができれば十分です。それをわざわざそれとは別の,第二種の認識で説明しなければならないというのであれば,それは少なくとも近藤にとって面倒なことでしょうし,面倒であるがゆえにそれを苦痛と感じてもおかしくないのです。
 この種の苦痛が生じ得るということは,スピノザが第一種の認識cognitio primi generis,第二種の認識,第三種の認識のそれぞれについて説明している部分からある程度は理解することができます。これは第二部定理四〇備考二です。
 ここでスピノザが例として出しているのは,3つの数が与えられていて,第二の数が第一の数に対して有している関係と同じ関係を,第三の数に対して有する第四の数を求めるというものです。要するにA:Bという関係があって,さらにCがあるとき,C:XがA:Bと同じ関係になるXを求めよという問題だと解してください。数学の問題ですからここで説明するのにもちょうどいいでしょう。
 スピノザはこの問題に対して,商人は躊躇なく第二の数と第三の数を掛けて,その結果を第一の数で割るといっています。つまりB×C÷Aということです。
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