スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ALSOK杯王将戦&対決の理由

2022-02-14 19:28:00 | 将棋
 11日と12日に立川市で指された第71期王将戦七番勝負第四局。
 渡辺明王将の先手で矢倉。後手の藤井聡太竜王が急戦を含みに雁木という戦型。先手に研究があったようで,1日目からハイペースで進み,戦いに突入しました。
 岐路になったのは75手目に☗8八銀と引いた手。囲碁将棋チャンネルのAIは数値の変動が大きい上に,不自然な変動をすることがあるので,そのまま参考にすることはできないのですが,この局面を迎えた当初は☗7六銀という手を推奨していました。これに対して☖4四銀は☗7五歩なので☖7六同飛と取るでしょうが,たとえばそこから☗7七歩☖7四飛☗2二とと引いて,銀を捨てる代わりに金を取りにいくことになります。
                                         
 これが最善であるかは別として,この局面はこの順が読みの主軸となっているかいないかが,大きな分かれ目になりました。
 ここは☗8六銀もあるところ。後手はふたつの手段がありますが,そのうちのひとつの☖8五歩は☗同銀☖7五飛☗7六銀☖同飛☗7七歩☖7四飛☗2二とで第1図と似た展開にすることが先手は可能です。
                                         
 第1図と第2図は,第2図の方が先手が一歩を得しています。後に後手が8筋に歩を打つ手が好手になるという可能性があるので,それが本当に先手の得かどうかは分かりませんが,この局面だけで考えれば先手の得になっています。なので☗7六銀が読みの主軸なら,☖8五歩はほとんど読む必要はありません。よってもうひとつの後手の手段である,☖7七銀を時間をかけて深く読むことができます。しかし実際は☗7六銀が読みの主軸ではなかったために,どちらの順にも成算をもつだけの読みができず,☗8八銀の選択となりました。
 後で金を取りにいくとはいえ,瞬間的には銀をタダで捨ててしまう手を読みの主軸とするのは難しかったかもしれません。ただ,この将棋は62手目に後手が☖7六歩と打つと,☗同銀と取ってしまって先手が有利になるという順があり,これは先手の研究の範囲内だったと思われます。なので一概に難しかったですませることはできないようにも思います。
                                         
 藤井竜王が4連勝で王将を奪取。王将は初の獲得です。

 真の観念idea veraは第一部公理六から分かるように,個別の真理veritasを意味します。よって,知性intellectusが追究する真理は,個別の真理でなければなりません。だから,たとえば青野の例でいえば,左脳である第二種の認識cognitio secundi generisはその局面で駒を得するための真理を追究し,右脳である第三種の認識cognitio tertii generisは,その局面で将棋の本筋とされる真理を追究していると解釈するのが妥当です。とはいえそれらは共に将棋のセオリーではあるのであり,それがセオリーであるということは,一局の将棋に勝つための手段であるとはいえます。だから指している青野の知性が,そのふたつを自身が勝つための真理を追究していると認識するcognoscereことには,理由がないわけではありません。真理は個別の真理でしかないので,本来はこのような見方をすることは無意味ですが,ここではその両者が青野が勝つための真理を追究しているのだという,おそらく青野自身の知性のうちにあった判断に適合させて考察します。すると,青野が右脳と左脳が対決していると感じることの理由が変わってきます。追究している真理が異なるということから,青野の知性が有限finitumであるということに変化するのです。
                                        
 青野がなしている作業は,第1図で右脳で認識した☗1七桂という手が,その局面での最善手であるかどうかを左脳で確認することであったといえます。それは,☗1七桂に対する応手として☖3一歩を発見し,その手があるなら☗1七桂は最善手ではないのではないかと青野が認識したことから明白です。なので左脳は,☗1七桂に代わる最善手を探すという思惟作用に入ります。そして発見されるのが☗6五桂という手なのです。
                                        
 青野は第1図での☗6五桂を発見した後,第2図まで読みを進めて,この手が最善手であると判断しました。ですが実際には第2図は先手が大変な局面です。もしも青野が第2図からさらに読みを進めて,☖1五歩☗1九飛☖7六香という手を発見していたら,第2図は自身にとって大変な局面であり,したがって第1図での☗6五桂は最善手ではないという判断に至ったでしょう。そしてもしも青野がその判断に至っていれば,右脳と左脳が対決しているというように感じることもなかった筈です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする