スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

書簡六十二&特有

2023-04-03 19:41:53 | 哲学
 書簡六十八は書簡六十二に対する返信です。これはオルデンブルクHeinrich Ordenburgからスピノザに宛てられたもので,書簡六十八にも書かれている通り,1675年7月22日付となっています。遺稿集Opera Posthumaに掲載されました。
                                        
 スピノザとオルデンブルクの間での文通はしばらく途絶えていました。『スピノザ往復書簡集Epistolae』に掲載されているものでは,1665年12月8日付のオルデンブルクからの書簡三十三で途絶え,次が1675年6月8日付のオルデンブルクからの書簡六十一です。すべてが遺稿集に掲載されたわけではないのですが,途絶えていたのは間違いありません。これはオルデンブルクとロバート・ボイルRobert Boyleが,スピノザの思想に不信を抱いたことが一因です。ただこの少し前にロンドンを訪れたチルンハウスEhrenfried Walther von Tschirnhausが仲介したので,また文通が再開されました。
 書簡六十一にはスピノザからの返信があったと書簡六十二に書かれています。その中でスピノザは『エチカ』の出版の意志をオルデンブルクに伝えました。そこでオルデンブルクはそれに対する忠告を与えています。それは,宗教的本務の実践を危うくするように思えるどのようなこともその中に取り入れるなということでした。オルデンブルクは『神学・政治論Tractatus Theologico-Politicus』は読んでいました。そしてオルデンブルクはキリスト教徒でしたから,その内容については疑問を抱いたのです。その疑問は誤解であったという主旨のことを書簡六十一の方ではいっているのですが,それはおそらくチルンハウスの説得の一時的な効果だったのであり,本心ではオルデンブルクはスピノザに対する不信を抱き続けていたのでしょう。それでこのような忠告をしたものと思われます。
 出版されたら『エチカ』を受け取ることには異存はないけれども,オルデンブルクが受け取ったとは分からないようにしてほしいという主旨のことを最後にいっています。この時点でオルデンブルクは,自身がスピノザと関係しているということを知られることが好ましくないと思っていたことが分かります。

 共通概念notiones communesといわれるときの共通の意味は,たとえばXはAとBに共通するという意味ではありません。AとBが関係を有することによって,Aの中にもBの中にもあるXがAの精神mensのうちに共通概念として発生することをもって,XはAにもBにも共通であるといわれるのです。なのでこのことは,第二部定理三八にだけ適用されるわけではありません。第二部定理三九も共通概念についての定理Propositioですから,この定理の中で共通といわれている部分も,これと同じように解さなければなりません。とくにこちらの定理は,すべての物体corpusに共通であることについて示されているわけでなく,人間の身体humanum corpusといくつかの物体に共通であるものについて言及されていますから,なおのことそのような意味に解する必要があると僕は考えます。たとえばXはAという人間の身体とBという外部の物体には含まれていても,Cという外部の物体には含まれていないとしたら,Xの共通概念はAがBと関係を有する限りにおいてはAの精神のうちに発生するでしょうが,AがCと接触する限りではAの精神のうちには発生しません。このときAが,Bとは共通であるけれどもCとは共通しないということを知るのは,AがBともCとも関係を有する限りにおいてなのであって,AがBとだけ関係をするならCとは共通しないということを知る余地はありませんし,Cとだけ関係を有する場合にはBと共通するXの観念idea自体がAの精神のうちに発生しないのですから,共通するとか共通しないということ自体がAに知られ得ないからです。
 第二部定理三九は,単に共通するとだけいわれているのではなく,共通でかつ特有であるものといわれています。この場合の特有もまた共通と同じ意味で解されなければなりません。XがAとBには特有であるけれどもCには特有ではないということは,やはりAがBおよびCの両方と関係する限りでAに知られることになるのであって,一方とだけ関係をもつ場合にそれは知られ得ないということは,共通であることについて説明したのと同じ仕方で論証できますし,BともCとも関係をもたない場合には,特有とされるものの観念がAの精神のうちには発生しません。

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