銀座平野屋には普段お客様の目にはふれないけれど、
素敵なものが数々ございます。
それは江戸からの粋を伝えるものであったり、
先人の技や美を伝えるものであったり様々です。
その中で銀座平野屋には、職人の技が光る逸品がございます。
『小さな美術館ー帯留ー(その1)』で銀座平野屋に伝わる刀装具からの帯留めを、
『小さな美術館ー帯留ー(その2)』、『小さな美術館ー帯留ー(その3)』で
銀座平野屋に伝わる色々な素材で作られた帯留を紹介させて頂きましたが、
今回は銀座平野屋にございます現代の職人さんの素晴らしい作品をご紹介させて頂きます。
「帯留・茄子」サイズ:横5cm 材質:象牙
主に8月~9月上旬や縁起物として新年に使用されることが多い帯留めです。
茄子はインド原産といわれ、日本に伝わってきたのは奈良時代。
古くから日本各地で栽培され、さまざまな種類が生み出されました。
夏が暑いほど美味しいものができるという茄子の語源は「夏(なつ)実(み)」で、
それが「なすび」に変化したという説からするとまさに夏の恵み。
8月から9月の旬であるこの季節だけでなく「初夢」にかけてお正月に用いても、
茄子は「事を成す」に通じることから縁起がよいとされるモチーフ。
「千に一つも徒花なし」(咲いた花がすべて実を結ぶ)とも言われ、子孫繁栄の象徴でもあります。
帯留に季節感を表すモチーフは多いですが、野菜はユーモラスな趣をそえますね。
「帯留・あじさい」サイズ 横:5cm 材質:象牙・ダイヤ
おだやかな白が映える。梅雨のころにあうぜいたくで洒落たモチーフ。
花芯にはダイヤが埋め込まれている。
季節は5月下旬~7月上旬。梅雨時の、薄暗い地表にほんわりと光を点すような紫陽花。
薄紫から白、紅藤色へ移ろう花の色は幻想的で、雨に濡れる姿はどこか健気ささえ感じさせる風情です。
その繊細な美しさを象牙の帯留で表現しています。
「帯留・千鳥」サイズ 横:4cm 材質:象牙・瑪瑙
目に瑪瑙(めのう)が埋め込まれた千鳥。素材を生かした匠の技が光ります。
季節は7月~8月、12月。
小さな鳥が群れをなして飛ぶ様子から「千鳥」とよばれます。
大胆にデフォルメされたふくよかなシルエットが愛くるしく、古くから好まれた意匠です。
俳句の季語としては冬ですが、波と組み合わせたり浜辺の風景に描かれたりと、
涼を呼ぶモチーフとして夏によく使われます。
「帯留・胡蝶」サイズ 横:4cm 材質:象牙・ダイヤ
緑に彩色した象牙に彫りをほどこした『撥鏤(ばちる)』の技法で作成されたものです。
胡蝶の羽に金の彩色やダイヤがあしらわれた逸品です。
胡蝶=蝶はその成長過程から呪術的神秘性と不老不死の象徴として描かれるモチーフですが、
春の訪れを告げる使者としてもつかわれることが多いです。
「帯留・乱菊」サイズ 横:5cm 材質:象牙
象牙の色味を生かし、花芯には金箔が施され、花びらが動きだしそうな美しい乱菊です。
季節は8月下旬~11月。
旧歴9月9日は「重陽の節句(ちょうようのせっく)」。
菊にかぶせてひと晩おいて露を吸った「着せ綿(きせわた)」でこの日に肌をぬぐうと若返るとされていました。
秋草の一つでもあり、「残菊」「寒菊」として長く楽しめるモチーフです。
今回ご紹介の作品の全て、大変上質の象牙を彫刻し、彩色が難しいとされる象牙に鮮やかな着色がなされています。
本当に繊細で見事な出来栄えで、職人の作品にかける高い技量・情熱が伝わってくる秀逸品です。
この度、このブログで銀座平野屋の様々な素材や時代の帯留をご紹介させて頂き、
あらためて私も帯留めの歴史や職人の技術の高さを再確認できました。
昔の日本で使用された装飾から始まり、
素材に新たな変化をつけながら現在も使われ続ける
生きた美術館としての価値ある『帯留』が、
日本の装飾文化として後の世まで残ることを願ってやみません。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます