あやめの里便り

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「花いちもんめ」

2008-09-21 21:47:13 | 舞台・映画(観るのも演るのも)
Project麗舞10周年特別公演

一人芝居「花いちもんめ」

感想ですが、あらすじも含みます。















セミの鳴き声が聞こえて来ます。
鮮やかな緑の木々。

そこへ、後ろを気にしながらお遍路姿の女性が登場。
何か見えないモノに追われている、と言いながら。

暑い夏。
彼女は笠を取り、冷たい水で絞った手拭いで汗を拭きます。
そして、客席側にいるのであろう相手に身の上話を始めます・・。

戦時中の異国の地、中国の暮らし。
農民として、自分の土地を耕す人間らしい生活。
しかし敗戦でその生活は一変、着の身着のままで、命からがら逃げる。
その後の生活が豊かな筈がなく・・。
死にそうな息子を助ける為に、娘を預ける(売る)。
「二度と娘に会わない」「他の人に売らない」を互いの条件として。



未だに染み付いている戦争の記憶。
お遍路は菩提を弔う為。
持ち物である笠やカバンには(読み違えていなければ)「同行二人」と書かれています。
それは、亡くなった二人と共に歩く・・という事なのでしょうか?

語られるひとつひとつ。
実際に自分自身が経験した事だとしたら、私はいったいどうしていたんだろう。

子供二人を抱えて必死に生きようとする母。
それでも現実はどうしようもなく迫って来る。


私はついこの間TVで紹介された本を思い出していました。
「私の娘を買って下さい」
飢餓が続く中、市場で小さな娘を売っていた女性の話です。
ある人がわずかなお金で娘を買うと、女性は市場内に駆け出して行きます。
(そんなに飢えていたのか)と私が思いかけたところに、女性は帰って来ました。
手にパンを持って。
娘の所に駆け戻り、その口にパンを押し込みます。
そして、また娘の元から走り去って行くのです。
何か言葉を残して。
それは「許して」だったか・・。



泣いて別れたのなら、また会えた時に泣いて、寂しかった事をを訴えて来る。
泣いて、そうした事の全てを許してくれる。
・・そう思えるのです。

でも「花いちもんめ」の主人公は娘の泣き声を聞いていません。
何故なら娘が泣いていなかったから。
娘は全てを感づいていたのです。
思わず声をかけてしまった母親に気付きながら、振向きもせず、娘は健気に自分の居場所に立っていようとします。
5歳の子が。
息子もまた、母のした事を知っています。
3歳の子が。

どうして「許して」と言えるでしょう。

未だに染み付いている戦争の記憶。
それは現代にも続いているのです。
巡礼の道で出会った人にではあっても、語って語って語って・・それでも語れない事がある。

語る事も巡礼の道のようです。




最後まで観て、最後のひと言で「ああ」と思う、そんなお芝居でした。






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