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ラストレター 【監督:岩井俊二】 あの日の自分に会ってしまった小っ恥ずかしさ

2020-01-26 19:42:00 | 映評 2013~
ラストレターを観る
岩井俊二監督作品との出会いは大学の頃観た「ラブレター」だった。
その年の映研の本に寄稿したベスト5にも入れている。ちなみにその年の私的ベストワンは耳をすませば、2位ガメラ、ラブレターが3位で、4位東京兄妹、5位はなんだったか忘れたが「特捜ロボジャンパーソン劇場版」か「午後の遺言状」のどちらかだったと思う。
→(追記)今調べてみたら「ひめゆりの塔(神山征二郎)」が5位、6位が「遥かな時代の階段を」7位が「午後の遺言状」だった。ジャンパーソンは年度違いだった。

しかし今、自分の中で「ラブレター」評価は低い。別にキライでもツマンナイでもないが、その後に観た岩井俊二映画の方が自分には遥かに魅力的で、「ラブレター」のことなど忘れてしまった。
いや、ラブレターを好きだった自分が何か恥ずかしいような思いにすら囚われている。

前述のラブレターと同年の自分のベスト作品はどれもこれも今でも自分評価がほぼ変わらないどころか、上がってるような作品ばかりなのに

でも私は岩井俊二映画が好きだ。
短編の「フライドドラゴンフィッシュ」とか、オシャレアート臭漂う「UNDO」も「PiCNiC」も好きだし、どう考えても失敗作な「スワロウテイル」すら愛さずにはいられない何かがある。
「四月物語」以降の作品はどれも私の心の大切な一部分となっている。

その割に

岩井俊二映画を年間ベストに入れなかったり、00年代べストに入れなかったりしてきた。

この20数年「まだ最高傑作撮ってない人」をずっと維持してきた人だった。

そして「ラストレター」

この文脈なら「遂に来た!最高傑作!」という紹介になりそうなもんだが…違う

え?!
これは双六でいう「ふりだしにもどる」だと思った。
かつて好きだった想いを甘酸っぱい思い出として封印したあの日の自分を見たようだった。
これは「レター」つながりで、その作品から発する匂いが「ラブレター」と同じだった。

四月
リリすべ
花アリ
リッ花

ではなかった。
心の闇へと掘り下げを進めていった岩井俊二は、突如として20数年前のあの日の岩井俊二映画に戻った。

ラストレター劇中で、あの日の未咲と裕里そっくりな2人に出会った乙坂のように、急にあの日が帰ってきたのだ。
(この映画はこれが一番やりたかったんだと思う)

そしてあの日「ラブレター」で主演だった中山美穂と豊川悦司が、人生大失敗のようなネガキャラとして登場する。
そこに写るトヨエツは、あの日の私の成れの果てかと思った。

そんな個人的感情はさておいても
使いすぎで効果を薄めたドローン撮影とか
使いすぎで感動押し付けで耳障りな音楽とか
こうすればいい感じで感動できるんだろう的な演出放棄にすら思えた
特に音楽は、演技と映像に自信がないかのような使い方だった。

あんま言いたくはないのだが、福山雅治というキャスティングも良くなかったのではないか?
広瀬すず、神木隆之介というキャスティングにもなんか製作会社の意向が感じられなくもないが、まあ若い子の頑張りはどんな事情も帳消しにする力がある。
でも、福山雅治は、ダメな人間を演じてる感がすごく鼻につく
この種の役では、まだイケてる勘違いっぷりの絶妙なオダギリジョーの足元にも及ばない(これはこれでオダギリジョーをバカにしてるみたいで申し訳ないですが)。

全般的に語り口のうまさはあるし、それなりに感動していい気分にはなれるし、満たされない想いを飲み込んで生きていくというストーリーは岩井俊二的でやっぱり好きなんだけど。
このあまりに泣かせへと持っていこうとする姿勢も問題だけど、物語的に着地点が最初から見えすぎていて、全てが予想の範疇に収まってしまうのはやはり欠点ではないか。
でも、この映画、大学時代の私がみてたら多分その年のベストに入れてしまうようなところが見えるのが個人的に居心地悪い

それこそ昔のラブレターを見つかった男の小っ恥ずかしさ。
しかし、まさにそれと同じ状況に置かれた福山雅治があまり恥ずかしがってるように見えないのもなんか違う気がした。
彼をこういう役に使っちゃダメなんだ。完璧で天才の役とか、歴史上の偉人とかならまだしも。

キャストの中で文句なしで素晴らしかったのは松たか子だった。
急に現れた乙坂にスッピンだやばいってオロオロするところとか素晴らしかった。
コミカルで、なんなら往年のエマ・トンプソンのような良さがあった。
四月物語の松たか子は先輩が好きで東京の大学を受けた女の子だったが、あれから20年経ち、やはり先輩大好き女子を演じていて、四月物語のキャラクターの後日談のような感じもあった。

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ところでこの映画は、鑑賞前に小説版の方を先に読んでいた。
小説版にも上で書いたような物語的な不満はあったけど、語り口の良さのおかげで物語に没頭できた。
裕里が、未咲と間違われるくだりも、間違われたままスピーチするくだりも、それをみた乙坂が裕里と知りながら自分も未咲と間違えたフリして話しかけるところも、映画だとしっくりこなかった。
唯一の小説「未咲」を一章ずつ手紙にして送っていたところも、映画だとよくわかんなかった。
小説と映画の違いで一番面白かったのは、学生時代の部活の設定だった。
小説版の乙坂はサッカー部
映画版では生物部だった。

どう考えても絶対に文系マインドな岩井俊二にとって、サッカー部という設定は、文章にはできても、映像にはできなかったのではないか。

「ラストレター」
2020年1月
池袋ヒューマックスシネマにて鑑賞

監督・脚本 岩井俊二
撮影 神戸千木
音楽 小林武史
出演 福山雅治、松たか子、広瀬すず、森七菜、神木隆之介、庵野秀明

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