自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ

映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

映像作品とクラシック音楽 第34回『忠臣蔵外伝 四谷怪談』

2021-09-17 08:55:00 | 映像作品とクラシック音楽
映像作品におけるクラシック音楽の使い方とかについてグダグダ語ってみるシリーズといいつつ、こないだまで連続3回でクラシック音楽じゃないスター・ウォーズについて語りました。
第34回の今回は、昔々遥かかなたの銀河系から、だいぶ最近の時代まで近づいて、元禄時代の物語です。
深作欣二監督の1994年作品の『忠臣蔵外伝 四谷怪談』になります。
この作品では、カール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」より「おお、運命の女神よ」と、マーラー交響曲第一番第三楽章が印象的に使われておりました。

まず、松竹の富士山の画とともにテロップで「松竹100周年記念作品」と出るところで、「おお、運命の女神よ」の冒頭部分が高らかに鳴り響きます。そしてやや速いテンポの演奏で「おお、運命の女神よ」をフルサイズで演奏し、メインキャスト、スタッフをクレジットしていきます。
忠臣蔵を見に来たのに、時代劇を見に来たのに、あるいはお岩さんの恨み節を楽しみに来たのに、めちゃくちゃ西洋音楽ののカンタータで幕を開けるなんていったい何が始まるってんだ!!?と度肝抜かされます。
そして「おお、運命の女神よ」のコーダが高らかに歌い上げられて、音楽が最高潮に盛り上がったところで、マンガなら「ズドーーーーン」と擬音でもつきそうな迫力で、浅野家の墓がドアップで写され、赤穂藩士たちが切腹した浅野内匠頭の一周忌に集まっています。

ここで使われているカルミナブラーナですが、エンドクレジットによると、小澤征爾さん指揮ベルリンフィルの演奏によるものです。
なぜ数多あるカルミナ音源から小澤版を選んだのでしょうか?
日本人贔屓もあるかもしれませんが、きっとそれだけではなく先にも書きましたが小澤さんの速いテンポによる演奏を深作監督が気に入ったのではないでしょうか。殺陣シーンではなくても、よく喋り、よく動き、とにかく叫んで忙しい深作映画の独特のスピード感に小澤さんの演奏がはまったのではないでしょうか。しかもオープニングタイトルでフルサイズで演奏されるから、ゆったりした演奏だと観客が飽きちゃうかもしれません。さっさと物語に入りたくて、いい感じに高速演奏する小澤版を使ったのでしょう。

というか、そもそもどうして忠臣蔵にカルミナ・ブラーナなのでしょうか?

それは歌詞が、ネタバレになるので詳しくは言いませんが、クライマックスのお岩さんの「活躍」を想起させるものがあるからかもしれません

-------
運命は健やかさも力強さも奪い 私を渇望と失望のとりこにする
今こそ時をおかず弦をかき鳴らせ 運命は強者をも打倒するのだから
皆の者 我と共に嘆こう!
-------(ベルリン・フィル、ジルヴェスターコンサート(1989)NHK放送用字幕より引用)-----


ただ、だからと言って日本語で歌うわけでもなく、歌詞の意味など二の次かもしれません。やっぱりインパクト勝負なんでしょうね

深作監督の作品群を見渡すと、全部ではないですが、多くの作品から「権力に抵抗する心」がうかがえます。そして既存の権威に対する反発心もうかがえます。「軍旗はためく下に」「いつかギラギラする日」「バトルロワイアル」なんかはもちろんですが、「宇宙からのメッセージ」だって反乱の物語だし、「魔界転生」だって天草四郎の恨みつらみだし、「蒲田行進曲」だって名もなきスタントマンが映画を支えるところに草の根の誇りを感じます。「仁義なき戦い」にしたってそれまで主流だった任侠美学的なヤクザ映画をぶっ壊しにかかった映画でしたよね。
その意味で考えれば忠臣蔵ってのは旧態依然とした価値観の映画にすぎず、幕府=権力への反発はあれど、精神においては保守的といいますか、古臭い企画です。(実際深作監督は78年に『赤穂城断絶』というオーソドックスな忠臣蔵映画を撮っていますが内容的には深作監督としては不本意なものになったようです)
そもそも忠臣蔵ってのはどんなに奇をてらっても想定内の面白さにしかなりえないような手あかのつきまくった企画にすぎないのですが、そこに「四谷怪談」をミックスして情愛とホラー風味まで足した本作は、忠臣蔵映画としては破格の想定外作品となりました。本作で深作監督が挑んだのは、「忠臣蔵」という古臭い精神に対する挑戦です(78年作品へのリベンジだったかもしれません)。
だったら、和風テイストな音楽でエキゾチック感出すのもいいけど、実際佐藤浩市に琵琶ベベンベンベンと弾かせて、かなり和風な劇伴音楽でもありますが、絶対にない組み合わせで忠臣蔵×カルミナ・ブラーナでしょ!!という、深作監督のロック魂といいますか、やんちゃ心の表れだと思うのです。

そして、本作ではもう一曲、クラシック音楽が印象的に使われます
マーラー交響曲第一番「巨人」の第三楽章です。
伊右衛門とお岩が出会う場面で、お岩のその後の悲劇を想起させるように、奏でられます。
そしてラストシーンで、亡霊となったお岩と伊右衛門があの世に旅立つ姿を象徴するように、そしてじきにまとめて冥土に旅立つ四十七士への挽歌としても、第一番の第三楽章が奏でられるのです。
ここ、結構長く使われます。ラストシーンからエンドクレジットまで流れ続けるので、フルサイズとはいきませんが、結構な尺でマーラーを楽しめます。しかもエンドクレジット前は、佐藤浩市の弾く琵琶の音もかぶさるので、マーラーのメロディに琵琶のソロが入るかのような楽しみ方もできます。
(ちなみに琵琶監修としてクレジットされているのは、小澤さん×サイトウキネンによる武満徹「ノベンバーステップ」のアルバムで琵琶のソリストを務めた鶴田綿史さんでした)
ただしその曲はエンドクレジットの途中でフェードアウトして、そしてそのあとをやっぱりカルミナ・プラーナの「おお、運命の女神よ」が割り込んできて、バンバンに盛り上げて終わるのです。

劇中のマーラーの演奏は、エンドクレジットでは誰の指揮によるものか判然としません。やっぱり小澤さんかな?

それにしましても、ナチスに賞賛されたオルフの音楽と、ナチスに忌み嫌われたマーラーの音楽をセットで使うのは、何か意図があってやっているのでしょうか。
その辺の音楽の使い方の真意はわかりませんが、忠臣蔵×四谷怪談という企画の特殊性にひっかけて、オルフ×マーラーという普通は一緒にしないものの掛け合わせをしてみたのかもしれませんね

てなところで、また素晴らしい音楽と映像作品でお会いしましょう


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。