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インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国 [監督:スティーブン・スピルバーグ] 映評前編

2008-07-04 19:07:56 | 映評 2006~2008
個人的評価:■■■□□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)

ぶっちゃけあんまり面白くなかったので、深読みで楽しむことにする。

倉庫でのKGBとのドタバタアクション、核実験からのありえねー脱出。なんか違うなーと思いつつも、大学内での赤狩りの暗い影、学生たちの反共デモ・・・と1957年という時代設定をダイジェストでテンポよく駆け抜ける前半部は悪くない。
その中で、大学のインディの研究室で、第一作、三作に登場したマーカス・ブロディ(故デンホルム・エリオット)と、父ヘンリー(ショーン・コネリー)の遺影が写される。
デンホルム・エリオットは他界しているのでマーカスの遺影や廊下に飾られた肖像画はリアルにスタッフからの追悼の意味が込められているのだろう。(マーカス銅像の首がもげて敵の車に当たるなど、亡くなってもなおいじられまくるデンホルム・エリオット。本当にスタッフから好かれていたんだなあ・・・)
しかしショーン・コネリーは引退はしたものの本人はまだ死んでいない。にも関わらず遺影を出す。

ショーン・コネリーの遺影は何を意味するか
インディが父となり、父から子へ、そしてまたその子へと受け継がれていく人間ドラマを描くためである。
インディを父親へと成長させるためには、インディの父親はいない方がいい。
しかしあえて無理を承知で深読みしてみる

「レイダース」の裏話。
スターウォーズの初日に、大コケを予想してハワイに逃げていたルーカス。その時、偶然ハワイで顔をあわせたと語るスピルバーグ(出典・・・レイダース公開時のパンフレット)。2人はビーチで遊んでいた。そこでスピルバーグは「ショーン・コネリーの007のような冒険活劇を前から撮りたいと思っていた」といい、ルーカスがそれならこんな企画を暖めてるんだけどどう?と持ちかけたのがインディアナ・ジョーンズの大冒険だった。(持ちかけた時点ではインディアナ・スミスという名前だったそうだが)
後にルーカスから正式に「レイダース失われた聖櫃」の監督依頼がきてスピルバーグは二つ返事で引き受け、「007なんかに負けるもんか」と興奮したという。(出典「インディ・ジョーンズ魔宮の伝説」公開時パンフレット、および「レイダース失われた聖櫃」のサントラの解説)
第三作でインディの父を出すことになったとき、スピルバーグは「絶対ショーン・コネリー」と譲らなかったという(出典・・・「最後の聖戦」公開時の何かの書籍(曖昧))
ショーン・コネリー007への対抗心が根底にあったインディシリーズ。ショーン・コネリー・ボンドはスピルバーグにとってインディのインスピレーションの源であり、インディの父役はショーン・コネリー以外ありえなかったのだろう(もちろん、当時コネリーは「アンタッチャブル」でのアカデミー助演男優賞受賞でボンド時代よりも人気があったころで、集客力の面からも彼を起用するメリットは大きかったと思われる)

そんな背景と、オープニングのなんか違うなーというアクションシーンから、物語の序盤に提示される「ショーン・コネリーの遺影」に、深い意味があるように思えてきた。
あの遺影はショーン・コネリー・ボンドとの決別を意味しているのではないだろうか。
さらにはコネリー・ボンドのまさに息子のような存在だった旧三部作からの決別をも意味しているともとれる。

何言ってんだ、マリオンだって出てくるし、過去作品のパロディ的なシーンも沢山あるぞと思われるかもしれない。
そうした前シリーズとのつながりはファンサービスとして、演出があきらかに前三部作とは異なっていたように感じる。
とにかく全編通じてど派手CGショーであった。
前三部作も当時の最新技術を用いていたとはいえ、基本アナログな作りであった。スタントマンと本物の車やバイク、それらにミニチュアとマットペイントを組み合わせてリアリティのあるアクションシーンを作っていた。
本作は核爆発、それで吹っ飛ぶ冷蔵庫、レールの上でも走るように揺れないバイク、未開のジャングルを舗装道路のように爆走する車両、ターザンのようにつる草を伝い猛スピードの車に都合よくスポンと飛び込むマット・・・などなど見た目には派手だが、全三部作ではそこまでやらなかった荒唐無稽のオンパレード。
ラスボスの死に方も、第一作の顔溶け&顔爆発、第二作の壁面ゴチゴチ当たりながら落下あげくワニに喰われる、第三作のおぞましい高速肉体腐乱老化・・・といった残酷ショーではなく光につつまれて消滅なんぞというヤワな表現に落ち着く。
中でも前シリーズのパターンを踏襲しながらも決定的に違っていたのが、軍隊アリの大群だった。これについては映評後編にて記す。
ともかくアナログ作りはやめて、CGバリバリ、「理にかなったピンチからの脱出」などやめて派手に派手に。
なにやらピアース・ブロスナン時代の007を見ているような気分になった。

さて、旧007の直系としての前シリーズと決別し、演出の方向性を変えるのはいいとして(スピルバーグが気乗りしない仕事をCG処理でさっさと片付けようとししているようにしか見えないのだが)、それではNewインディでスピルバーグは何を目指したのか。
ラストの宇宙人。アホくさ・・・と言えばそれまでだが、「未知との遭遇」の宇宙人によく似た容姿。もっと皺が入ればE.T.っぽくもある。大昔から地下に埋まっていた宇宙人のマシンといえば「宇宙戦争」を彷彿させもする。
あの宇宙人は「スピルバーグ」を象徴している。
スピルバーグの子供インディは、前シリーズの束縛から解放され、そしてスピルバーグ自身を発掘するのである。

もう少し深読みする。
インディのキャラ創作やシリーズ構成についてはルーカスの方がイニシアチブをとっていただろう。
ラストの宇宙人はその「未知との遭遇」なビジュアルからスピルバーグの象徴と捉えたいところだが、「宇宙」という広いくくりで考えれば、ミスター・スター・ウォーズのルーカスをも象徴しているととれる。
ここでインディの「007」以外の影響を考える。ルーカスが目指したのはスピルバーグとは違いサイレント期の連続活劇の復活であった。
映画草創期のようなヒーローを現代に蘇らせようとして創作したのがインディである。
オーバーな言い方をすると映画=神、神の子=インディとなろうか。
映画(神)の子がルーカス、スピルバーグを発見する。
時代設定は1957年。ルーカス1944年生まれ、スピルバーグ1946年生まれ。
前シリーズの1935~38年には見つけようもなかった二人を、1957年にインディがついに”発見”する。


馬鹿馬鹿しいCG祭りの中で、サイレント期の連続活劇、60年代の007、70~80年代のルーカス、スピルバーグといった映画史(少なくとも娯楽映画史)をめぐるロマンを展開させてみたのが、本作「クリスタル・スカルの王国」なのではないかと、苦しい考察をしてみた。

他にグタグダと感想を、映評後編にて記します↓
映評後編はこちら

********
■■■■■■ レイダース 失われた聖櫃 おさらいレビュー
■■■■■■ インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説 おさらいレビュー
■■■□□□ インディ・ジョーンズ 最後の聖戦 おさらいレビュー

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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBありがとうございます (ryoko)
2008-07-04 23:24:47
非常にユニークな考察、楽しく拝見しました
007とそんな深い関係があるとは知りませんでした。
ルーカスとスピルバーグを「発見」したインディーは今後どうなっていくのでしょう?
後編、楽しみにしていま~す。

映画祭「最優秀賞受賞」おめでとうございます
どんな作品なんでしょう?
返信する
ショーンコネリーを卒業! (kossy)
2008-07-05 00:11:24
そうですよね。
新たな親子関係というか、冒険者のDNAを継承する上で決別しなければならない存在のコネリー。
決別しすぎて、前三作のワクワク感まで欠けてしまったのでしょうか・・・まぁお祭りみたいなものですから、それなりには楽しめましたが。

映画祭最優秀賞の記事を見逃していましたぁ~~すみません。そして、おめでとうございます!遠くの地からこっそりと声援を送っていたのに、ついつい日々の忙しさのせいでTB記事しか読んでませんでした(汗)

返信する
TBありがとうございました (sakurai)
2008-07-05 08:43:00
スピルバーグにそんな深い考えがあったとは思いませんが、後半を楽しみにして待っております。
返信する
コメントありがとうございます (しん)
2008-07-05 10:43:50
>ryokoさま
インディはあの後取り憑かれたようにデビルズタワーの模型を作ってマリオンに捨てられ、最後はトリュフォーにあなたが羨ましいとか言われてピカピカ光る宇宙船に入ってくと思います。
ちなみにシャイアは地底から現れた三本足のメカから逃げ回ることになると思います。

最優秀賞に気付いていただきありがとうございます。
インディと同じくらい面白い映画です。うそです。

>kossyさま
声援ありがとうございます。
山崎監督から企画進行中の新作の話も聞けたのですよ。

>sakuraiさま
私もないと思います。
ただインディに本気でない彼の気持ちは痛いほど伝わってきましたので、深読みしたくなったのです。ほほほ
返信する
Unknown (イエローストーン)
2008-07-06 17:03:11
こんにちは。

大変興味深く拝読させていただきました。

後編も楽しみにしております。

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