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映像作品とクラシック音楽 第74回 『銀河英雄伝説』後編 〜宇宙に響くベートーベン!ドボルザーク!〜

2022-11-05 01:39:00 | 映像作品とクラシック音楽
クラシック音楽の印象的な映像作品を紹介するこのシリーズ。前回に引き続き80~90年代のSFアニメ『銀河英雄伝説』を取り上げます。
はるか未来、銀河全域に進出した人類は、銀河帝国と自由惑星同盟がほぼ勢力拮抗状態で銀河を二分していました。その二つの勢力を経済力で影から支配するフェザーン自治政府もからんで、銀河の覇権をかけた戦争が行われけております。
銀河帝国のラインハルト・ローエングラムは若くして帝国の艦隊司令にまで上り詰めましたが、内心では皇帝を倒して帝国を我が物にしようという野心を燃やしております。戦争の天才とも評されるラインハルトが唯一恐れるのが、自由惑星同盟で若くして提督にまで昇進したヤン・ウェンリーであります。彼は野心はまるでなく、戦争を嫌っていますが、同時に戦術にかけてはラインハルトも一目置くような天才指揮官なのです。

そんなこんななこの作品、劇伴音楽としてクラシックの名曲の数々がこれでもかと使われます。
前回はマーラーの交響曲の使用箇所について解説しましたが、今回はベートーベンとドボルザークの使用箇所について熱く解説してみたいと思います

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【ベートーベン第5番第1楽章】
ベートーベンの第5番の第一楽章、いわゆる運命ですが、この曲はもはや劇伴BGMとして使うのは困難ではないかと思うわけです。有名すぎて。
ベートーベンの生涯を描いた映画とかベートーベンの音楽に挑戦するオーケストラの映画とかならいざ知らず、映画の雰囲気を盛り上げるために使うことなどできるのか?と疑問に思うのです。かろうじて使えるのとするならコメディ的な場面でギャグとして使うことではないか…などと思っていましたが、さすがは銀英伝、運命をこうも堂々と使うとは…
運命が高らかになるのは、第9話。
銀河帝国の首都惑星で、おちぶれた貴族のクロプシュテット伯爵が皇帝暗殺を目論み舞踏会の会場を爆破しようとします。皇帝はたまたま体調を崩して現地には現れず、爆弾が仕掛けられた忘れ物の杖も偶然ですがラインハルトが別の場所に移動させてしまい、犠牲は少なくて済みました。
ラインハルトの親友で腹心のキルヒアイスがクロプシュテットの不振な動きを察していたこともありクロプシュテット伯をテロの容疑者として逮捕すべく帝国軍が向かいます。伯爵は暗殺失敗を知り潔く自決し屋敷にも火を放ちます。この伯爵の屋敷が燃える場面で第5番第一楽章がかかるのです。さすがに冒頭部は使いませんが、焼け落ちる屋敷の描写にあわせてドラマチックに響く第一楽章、そしてラストシーン、引きの画で燃え盛る屋敷の全景をとらえた時に
ジャッジャッジャッジャーーーン

意外と心が燃え上がりました

【ベートーベン第7番第4楽章】
これもまた人気曲ベートーベンの第7番の第4楽章が鳴り響くのは、艦隊戦の場面です
第21話。軍事クーデターが起こった自由惑星同盟領内。クーデター一派に大義なしと断じたヤン・ウェンリーはイゼルローン要塞に駐留する艦隊の総力をもってクーデター鎮圧に向かいます。
ドーリア星域会戦と呼ばれる戦いで、ヤンの艦隊とクーデター軍の艦隊が激突するわけですが、ミラクル・ヤンに対抗できるほどの指揮官がクーデター側にいるはずもなく、ヤン艦隊の圧勝となるわけです。
そんな余裕しゃくしゃくの戦いを軽快な第7番の第4楽章が盛り上げます。曲の感じからして危なげなく戦いは進むんだろうな…と思っていたらやっぱりその通りでした。曲で先読みできてしまうのはもしかしてこの作品の欠点かもしれませんが、クラシック好きからしたらそれも楽しさの一つです

【ドボルザーク第9番「新世界より」】
有名曲ドボルザークの新世界よりが、銀英伝第一シーズンで最も印象的かつ効果的につかわれた楽曲ではないかと思います。
使われるのは第14~16話。「同盟軍の帝国領侵攻編」とでも言えるエピソードです。

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ヤン・ウェンリーは奇策を用いて帝国の難攻不落のイゼルローン要塞をほぼ無傷で陥落させました。
これにより帝国と同盟の軍事バランスの均衡が破れ、ヤンとしてはそれをもって帝国との和平を薦めたかったのですが…要塞陥落でイケイケになった議会の右派勢力は今こそ帝国に侵攻のチャンス!!と史上最大規模の侵攻作戦を議会で通してしまいます。
ヤンたち軍内の穏健派はその決定に納得はできませんが、そこは軍人の悲しさで、政治の決定には逆らえず帝国領内に攻め込むことになります。
帝国の同盟軍迎撃を指揮するのはラインハルトです。彼は同盟軍との境界線に近い星域からさらに奥の方の星域まで、軍隊を引き揚げ、ついでに物資と言う物資をすべて持ち去っていきます。
さしたる反撃をうけない同盟軍は帝国領内にどんどん侵入していきますが、物資がないため自分たちの補給もままならない中、占領地の住民たちへの食糧供給もしなくてはなりません。
大規模な補給部隊が占領地に送られるのですが、待ってましたとばかりに待ち構えていた帝国艦隊が補給部隊だけを攻撃するのです。
同盟軍は占領した星に対しては、帝国の圧政からの解放者を謳っていました。最初は歓迎していた住民たちですが、補給部隊が狙われてから状況が変わります。
同盟軍上層部は自軍の食糧や物資を現地で調達するよう指示します。
いつしか解放軍はただの略奪者となっていきます。住民たちは反乱を起こします。
解放を謳っておきながら結局は簒奪者にすぎなくなっていく・・・という地球の歴史でいくたびも繰り返されてきたことがはるか未来の宇宙でも同じように起こってしまう。人間の愚かさが描かれています。

この簒奪者と化してしまった同盟軍と占領地住民の衝突に、「新世界より」の第一楽章が劇伴曲として使われます。イゼルローン要塞のために100年近く足を踏むことのなかった帝国領は、同盟軍にとってのまさに新世界です。新世界が希望と創造の地ではなく、破壊と憎悪の地獄に変わっていく様を第一楽章がぴったりと描写します。

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さて補給もなく伸びきった同盟軍、住民からの信頼も失い、士気はダダ下がり。その絶妙なタイミングを見計らってラインハルトは総攻撃を仕掛けます。
これが第15話で、エピソード開始早々から新世界よりの第4楽章の冒頭部が奏でられ、そのまま超有名なあの旋律が鳴り響く中、帝国艦隊の総攻撃をうけ同盟軍艦隊はなすすべもなく次々と撃破されていきます。
第4楽章がまるでこの作品のために作曲された映画音楽かと思うくらい映像にドンピシャなのです。
アニメは実写と違ってあとから曲に合わせて編集というのは難しいものです。シーンごとの長さがコマ単位で決まっていてそれに合わせて画が作られているわけですから。
だから選曲担当者がすでに作られた映像にあわせて「新世界より」の中からピタリあう部分を選んでいるのだと思います。それはそれで曲のことをよく知っていないとできないことですし、大変な苦労だったことと思います。
新世界よりの第4楽章で、絶望的なまでに同盟軍艦隊が敗れていく様が、銀英伝第一シーズンの音楽的な意味でのクライマックスではないかと思います

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そして第16話。ラインハルトは帝国内の同盟軍残存艦隊も完膚なきまでに叩き潰して完璧な勝利を得ようとしますが、そう簡単にはそれを許さない男がいるわけです。そうです。ヤン・ウェンリーです。
現地の同盟軍は上層部の決定に反してイゼルローン要塞までの撤退を進めます。そしてヤン・ウェンリーは自らしんがりを務めて撤退を助けるのです。
ラインハルトは今度こそヤン・ウェンリーを叩き潰そうと燃えるのですが、艦隊の指揮に関してはヤンの方に軍配があがるのです。ヤンは帝国軍で功を焦って突出してきた艦隊に打撃を与え、帝国の包囲網に一か所、薄いところを作ります。そして隙をみてその弱くなった部分に全艦隊密集して突撃し包囲網を突破するのです。
このヤンの包囲網突破の時にかかるのが「新世界より」の第三楽章スケルツォになります。ここもまたにくいくらい映像にピタリはまってまして、ヤン艦隊の突撃開始と同時に3楽章の冒頭部が始まり、激しいスケルツォにのって砲撃戦が描かれ、包囲網を突破すると曲も穏やかな部分に移行しているという…

「新世界より」が大好きな私としては、あちこち興奮しっぱなしの第14~16話でした!!

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といった感じで『銀河英雄伝説』はクラシック好きなら楽しめること間違いなしのある意味音楽映画です。
私の知らないクラシックの名曲もあちこち使われているに違いなく、クラシック好きなほど楽しめる作品になっていると思いますので、ぜひぜひご覧あれ

私はいまのとこ第27話まで視聴しました。
第一シーズンといってよいのが第26話までです。この第一シーズンでラインハルトもヤン・ウェンリーもお互いにとって最も大切といえる人を失います。
この悲しみがきっと次のシーズンでのドラマにつながっていくのでしょう。エンディング映像からなんとなくこの後の展開が見える気はしますが、とにかくつづきが楽しみなのですが全110話。まだ当分楽しみは続きそうです。

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【余談】
クラシック音楽と全く関係ない話ですが…
本作は80年代末に制作されたアニメでして、あの頃の声優たちの声が次々と聞こえてきまして、そっちの方でも耳に楽しい作品でした。

まずヤン・ウェンリーが古代進でしょ。
帝国から亡命した将軍の声が沖田艦長なので、ヤンとの作戦会議はまるでヤマトです。
沖田艦長といえは銭形警部でもあるわけですが、フェザーン自治政府の指導者の声は次元だったりします。
同盟軍にはもう一人帝国から亡命してきた将校がおりまして、その声はアニメじゃないのですが、『特攻野郎Aチーム』のハンニバル・スミスの声でして、古代進といえばAチームのモンキーでもあるわけで、この二人の台詞のやり取りも目を閉じるとAチームみたいなのです。
そしてガンダム組は、アムロ、シャア、ブライト、カイ、マ・クベ、キシリア、ララァなどかなりそろっております。ゼータガンダムのハマーン・カーンもいます。
アムロの声は珍しく悪役というか頭イカレ役での登場です。(アムロもけっこうイカレてた気もしますが)
キシリア様と言えばアラレちゃんでもあるのですが、そういえば同盟軍の司令官は千兵衛博士だったりします。
かと思えば、同盟軍の一癖ある将校のお声は、キン肉マンというかケンシロウというかシティハンターというかのあの方じゃないですか。
ロクな人材のいない同盟軍ですが、声だけは歴戦の強者が揃っています。
ジャンプ組もけっこうそろっているなと思って考えてみればラインハルトはベジータでした。
聞くところによると『銀河英雄伝説』はファンから「銀河声優伝説」とも呼ばれているそうです。

というわけで好きなクラシック音楽で楽しみつつ、あの頃の声優たちの演技も堪能できる、耳に楽しい『銀河英雄伝説』でした!!

それでは今回はこんなところで!!
また素晴らしい音楽と映像作品でお会いしましょう!!


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