こんにちは
クラシック音楽が印象的な映画についてあーだこーだ語るシリーズを書いている齋藤新です。
またクラシック音楽じゃないじゃん…というご批判を気にせず書いてみたいと思います。いつもですけど
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『タワーリング・インフェルノ』は大スターがずらずら並んだ1974年のパニックスペクタクル大作です。
サンフランシスコに建設された世界一の高さのビルの完成記念パーティーの真っ最中、手抜き工事が原因でビルのあちこちで火災が発生。屋上に残された大勢の人々(だいたいセレブ)の運命は・・・的な映画。
低予算ロケ中心のアメリカンニューシネマ(って何?って人は第17回を参照ください)の反動で、1970年代前半にやたら豪華感を見せつける超大作パニック映画ブームが起こりその最高峰的作品。そのブームにのっかるように、『ポセイドン・アドベンチャー』『大地震』そして本作とパニック映画に次々登板して名を挙げたのがジョン・ウィリアムズでありました。
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オープニングのメインタイトルバックの音楽が好きです。これから始まる悲惨な大事故などまるで予感させない、軽快で華々しい曲をバックにポール・ニューマンをのせたヘリコプターがサンフランシスコの上空を飛びます。
飛行するヘリをさらに空撮で撮る躍動感溢れる映像に、ニューマン、マックィーン、フェイ・ダナウェイ、ウィリアム・ホールデン、フレッド・アステアなどなど大スターの名前がこれでもかと紹介されるというのに暗く重い曲なんかかけるはずがありません。
けれども監督名がクレジットされた後「自らの命を顧みず火事と戦う消防士たちにこの映画を捧げる」みたいなテロップが出る時だけ、軽快感がプツっと途切れてホルンが荘厳なメロディを奏でます。こうした緩急の付け方がうまいんですよね。ウィリアムズは。
しかし音楽はすぐにまた明るさを取り戻し、シスコの高層ビル群を飛ぶヘリに並走し、超高層ビルをアクターズスタジオ仕込みの思い入れたっぷりの表情を浮かべて見つめるポール・ニューマンの上がりっ放しのテンションを表現します。
そしてヘリが屋上に降り立ち、ビルの設計士であるニューマンを、ビルのオーナーであるホールデンが出迎えてメインタイトル曲は終わります。
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次の聴かせどころは、ニューマンとダナウェイのラブシーンでしょうか。ことが終わった後でベッドでくつろぐ2人みたいなシーンですが、このころのウィリアムズが得意としていたトランペットのソロをフィーチャーしたジャズ調のラブテーマです。こうした曲は「大地震」でも使われてました。70年代のウィリアムズはけっこうジャズっぽい曲を書いていたんですよね。なんつってもヘンリー・マンシーニの愛弟子ですからね。
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さてまあ、話はすっ飛ばしてビル火災が発生です。2人のオフィスラブカップルが犠牲になる場面が、映画の最初の見所であり、音楽の聴かせどころでしょう。
本作ではラブテーマが3曲も作られます。一曲は前述のフェイ・ダナウェイがらみのラブシーンで使われる曲。もう一曲がフレッド・アステアがらみで使われる曲。そしてもう一曲がアカデミー賞で歌曲賞(主題歌賞と記載されることも)をとった「タワーリング・インフェルノ 愛のテーマ」なのですが、ところがこの3曲目の作曲は実はウィリアムズではありません。歌曲賞をとったと言ってもパーティ会場のステージで歌手が歌っている程度の使われ方にすぎませんが、ダナウェイでもアステアでもないカップルを描くためにウィリアムズがアレンジした(やっぱりちょっとジャズ調に)曲が奏でられます。ところが2人のオフィスに火が回ります。
助けを呼ぶため女を部屋に残し「救助隊を連れて戻ってくるよ」などと言って一人で炎の中に駆け出していく男ですが、炎に包まれあっさり絶命。さらに一人残った女のベッドルームも炎に包まれ窓ガラスを割って火から逃げるように飛び降りる女性。もちろんそこは、うん10階の高さの部屋。助かるはずもなく燃えながら落ちていく女を表現するミニチュアワークでその場面は終わりです。でこの一連のシーンでウィリアムズは待ってましたとばかりにフルオーケストラで悲壮感漂う曲をこれでもかこれでもかと奏でまくります。最後に女が落下してカメラが引きの画になったところで♪ドゥーーーーンと重低音に切り替え、重い余韻を残して次の場面に進むところがいいです。
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話をめっちゃはしょって、クライマックス。爆弾を持ったスティーブ・マックイーンがヘリで出動するところから、その爆弾が爆発するところまでの時間にして多分10分くらいある長い場面をウィリアムズの音楽は休むことなく駆け抜けます。
マックィーンがヘリから見た138階建てだかのビルが炎の塔と化しているところを映す俯瞰ショットで音楽は悲壮感溢れる盛り上がりを見せ、その後屋上で合流したニューマンとともに爆弾を屋上の巨大貯水タンクに仕掛ける場面は、火もなく喧噪もないタンク施設の静けさを表現する必要から音楽は控えめに、しかし勇ましく流れつづけます。
そんで爆弾を仕掛け終わったマックィーンとニューマンがパーティルームに戻ってきて、猛烈な水流に備えるため体をその辺のものに縛り付けます。
そしてカメラはまだパーティルームに残っている面々を一人ずつじっくりとズームしていき、その合間合間に爆弾の時限装置のカットを挿入していきます。
アステア→爆弾→ホールデン→爆弾→ニューマン→爆弾→マックィーン
…とだんだんと音楽も盛り上がっていき最高潮に盛り上がったところでドッカーーン。
その後の爆発と水流地獄の場面は音楽無し。
そしてやっぱり一番の名曲はラストシーンからエンドロールへと続く曲ではないでしょうか。
たしかアステアが思いを寄せていたご婦人(ジェニファー・ジョーンズ)の名を叫ぶ当たりから曲がスタートです。
生き残った詐欺師のアステアは愛を誓ったジェニファー・ジョーンズを探していますが、彼女と一緒にエレベーターにのった消防士を見つけて声をかけます。ところが消防士は「お気の毒です」と語ります。
ここからアステアがらみのラブテーマがゆっくりと奏でられます。悲嘆にくれて婦人の名を叫ぶアステアにビルの警備主任のO.J.シンプソン(!)が近づいてきてご婦人の飼い猫をアステアに渡します。今度は叫ばずに猫を抱きしめて声を押し殺すように嗚咽を漏らすアステア。いい芝居です。
実を言えばオスカーをとったことのないフレッド・アステアは本作でアカデミー助演賞候補になり最有力とも目されていたらしいのですが残念ながら受賞はなりませんでした。
ともかく音楽は流れ続けます。アステアの愛のテーマの後は、オープニングなどでも使われた本作で希望が持てそうな場面でよく使われたテーマ。それにのってマックィーンが登場し、破れた水道管から吹き出す水で自分のヘルメットを洗います。ふと見ると毛布のかかった消防士たちの遺体の数々・・・。もちろん音楽は悲しみをたたえたような曲調にかわり遺体の列といつも苦々しい顔のマックイーンとのモンタージュを意味のあるものに仕立てます。
ビルのエントランスではフェイ・ダナウェイを抱きながらポール・ニューマンが例のアクターズスタジオ仕込みの思い入れたっぷりの芝居で自分が建てたビルを見上げています。「ここは取り壊さないで記念碑にすべきかな。人類の思い上がりの象徴として・・・」などと語ります。
思い上がってたのはアメリカ人だろ、人類で括るな・・という批判をどこかで読んだ気はしますが、そういうのはほっといて音楽は流れ続けています。
マックィーンが2人の側に歩いてきます。ちょっと友情チックなメロディのなかラストの2人の会話です。
スティマク「犠牲者は200人だった。意外と少なかった。だがいつかこんな火事で一度に1万人も死ぬだろう。それでも俺は火事と戦い続ける。誰かがビルの建て方を訊きにくるまでな」
ポルニュー「わかったよ。今訊こう」
スティマク「(フッとかっこよく笑って)電話しろ」
(会話内容、とくに使っている数値はかなりうろ覚えです。しかし今にして聞くとマックィーンの台詞は9.11の消防士たちを予感させるなぁ・・・)
顔アップによる上記の会話のあと、カメラは全身ショットでマックィーンを映し、あわせて音楽は消防隊のテーマとでも言うのか、前出の爆弾セットの場面をはじめ主に火災と戦う人たちを彩ったテーマに移ります。
歩くマックィーンをパンして追うカメラ。そのまま消防隊の指令車に乗り込むマックィーン。カメラは俯瞰のロングショットになり夜の街に走り去っていくマックイーンの車を写し、音楽は映像の広がりとシンクロするように感動的なファンファーレへと引き継ぎます。
しかしここで音楽は途切れず、ファンファーレの余韻を残したままエンドタイトルテーマに移行します。
ここからはラブテーマ主体の組曲となり全てのテーマがフルオーケストラで奏でられていきます。そして最後に映画全体のテーマとして希望の曲がが高らかに奏でられ最高に盛り上がった後、余韻を残しつつ徐々に静かになっていって映画は終わります。
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書きながら名曲の数々が記憶に蘇ってきましたが、音楽や楽器の知識がないので何一つ言葉にできていないのがもどかしいです。
そしてこの映画、名曲ぎっしりとなるはずなのにサントラが売られてませんでした…
…実はこの原稿ですが、2014年にブログに書いた内容の焼き直しなのですが、その時はサントラはたしかに未発売でした。(正確に言うと公開当時にLPでは発売されてたようですが、私がサントラ好きになった80年代後半にはとっくに廃盤でそれからしばらくCD化はされてませんでした)
ところが!なんと!2019年になって『タワーリング・インフェルノ』のサントラが発売されるという大ニュースがサントラ好き界隈を駆け抜けたのです。しかも『ポセイドン・アドベンチャー』と『大地震』もセットの豪華4枚組として!
中学のころ、ついに発見と思って買ったらクソみたいなアレンジが施された意味わかんないアルバムで、即座に中古レコード屋に売ったり、結局ビデオからラジカセに録音して聴きまくったり、映画自体もビデオテープがすり切れるくらい何10回と見て、だいぶ後年になって比較的原曲に忠実なカバー版が出たので買ったり…
こんなに公式サントラがない中であの手この手で耐え抜いた映画なんてほかに『ブレードランナー』くらいですよ!
そんなタワーリングインフェルノの「本物」のサントラがついに!ってわけで、バカ高かったですが即予約して買っちゃいましたよ!2年も前の話ですが
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まだ『ジョーズ』も『スター・ウォーズ』もやる前のかけ出しペーペーなころのウィリアムズですが、音楽のよさ、スケール感など、この頃から際立っていました。
ぺーぺーとは言いましたが、このころ既に『屋根の上のバイオリン弾き』でアカデミー賞受賞済みです(編曲賞)。それに『ポセイドン・アドベンチャー』でもオスカー候補になっているし、本作でもオスカー候補でした。もしスピルバーグやルーカスとの出会いが無くても充分に現代アメリカを代表する作曲家になったことでしょう。
けどスピルバーグ、ルーカスとの出会いが彼らを、ウィリアムズ自身も、そしてアメリカ映画全体を大きく飛躍させたのです。
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ところで『タワーリング・インフェルノ』の監督ジョン・ギラーミンは本作で大成功した割りにはウィリアムズとのコラボが続くわけではなく、『ナイル殺人事件』ではニーノ・ロータを、『キング・コング』ではジョン・バリーを起用。大物作曲家を使い散らしました。
しかし『タワーリング・インフェルノ』はむしろ制作およびアクション監督としてクレジットされているアーウィン・アレンの映画と見るべきかもしれません。アレンは『ポセイドン・アドベンチャー』も制作しているし、ウィリアムズがテーマ曲を作曲したテレビシリーズ『宇宙家族ロビンソン』も制作しています。
というわけで初期ウィリアムズに活躍の場を提供したアーウィン・アレンの功績は大きいということにしておきましょう。
というわけでまた、素晴らしい映画とクラシック音楽と映画音楽でお会いしましょう!次回こそ!
公開時にLPでは発売されていたようですね
記事を少し修正しました