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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

映像作品とクラシック音楽 第47回 『東京ゴッドファーザーズ』

2021-12-16 23:20:00 | 映像作品とクラシック音楽
クラシック音楽が印象的な映像作品について語るシリーズ。今回は、季節柄、我が国の奇習に従って、ベートーベンの「第九」を扱った作品を取り上げます。
2003年の今敏(コン・サトシ)監督作品の長編アニメーション映画『東京ゴッドファーザーズ』です。

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ゼロ年代(2000〜2009年)は、日本映画のアニメが抜群に面白かった年代でした。
90年代もアニメは面白かったですが、しかし振り返れば90年代の面白いアニメ映画と言えばほとんどジブリだけでした(いや、パトレイバーもあったし、エヴァンゲリオンもあったろと怒られそうですが)
そしてゼロ年代。ジブリは相変わらず千尋、ハウル、ポニョと興行面ではリードしていましたが、ハウルくらいから正直あんま面白くないな…と思うようになりました。そのかわりに、ジブリ以外のアニメ映画が質的な面で牽引するようになり、特に3人の監督が、素晴らしかったのです。
原恵一監督(『クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』『河童のクゥと夏休み』)
細田守監督(『時をかける少女』『サマーウォーズ』)
そして今敏監督です。
今監督がゼロ年代に発表した三作品は私は日本アニメ映画史に残る大傑作だと思っています。『千年女優(2001)』『東京ゴッドファーザーズ(2003)』『パプリカ(2006)』
の三作品です。
原監督、細田監督、今監督の3人が10年代のアニメ映画も引っ張っていってくれるに違いない!!とゼロ年代の終わり頃は素晴らしい次の10年を思い描いていました。
しかし、なんと悲しいことでしょうか。今敏監督は2010年に46歳の若さで亡くなってしまいました。
10年代は10年代で、原監督と細田監督に加えて、新海誠監督、片渕須直監督、湯浅政明監督らが出てきて、やっぱりアニメが面白かったわけですが、ここに、今敏監督の新作があれば…とそんな喪失感にさいなまれます。

今敏監督の最高傑作は『パプリカ』だと思います。夢が現実に溢れ出してくるという奇想天外な物語を、今敏監督がもてる技術の全てを尽くしてイマジネーション溢れる表現で描きました。絵コンテ集も持っているのですが、緻密に書き込まれた膨大な量の絵コンテは芸術作品でありながら精密機械のようでもあり、今敏監督の天才ぶりがよくわかります。

しかし、私が一番好きな今敏作品はと言われたら、『東京ゴッドファーザーズ』をあげます。
こちらは実写でも表現可能な物語…(のように見えて実はアニメだからこその映画なのですが、その辺は後述します)…アニメの面白さを堪能…とはいかないのですが、単純にそのストーリーに、演出に、キャラクターに、引き込まれ、何度見返しても面白さは少しも損なわれません。

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『東京ゴッドファーザーズ』のストーリー

東京の誰もが見ようとしない街の裏側で、クリスマスから大晦日にかけて、3人のホームレスに訪れた小さな奇跡の物語。
ギャンブルのため家族を捨てた過去を持つギンちゃん、かつてオカマバーに大迷惑をかけて居場所を失ったオカマのハナさん、そして家出少女のミユキの3人は、ゴミ置き場の中で捨てられた赤ん坊を拾う。
神様の贈り物と喜び育てようとするハナさんだが、他の2人に当然反対されて警察に届けようとするが、どうしても諦めきれないハナさんは捨てた親を探し出してなぜ捨てたのか聞きたいと言い出す。
頑として聞かないハナさんに付き合って母親探しが始まる。赤ん坊とともに捨てられていたコインロッカーのキーを手がかりに探し始めるが、やがて嘘みたいな偶然の大事件が重なり、ヤクザの構想に巻き込まれてミユキが赤ん坊共々ヒットマンに連れ去られたり、3人ともかつての因縁の人物や、かつての家族にばったり出会ったり…
やがて赤ん坊の母親についに行き着くも、その女にもただならぬ事情があって、物語は急加速してなんならアクション映画のようにもなりながら3人のはホームレスは赤ん坊を守るため必死で年末の東京の街を走り回る

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本作は、後に是枝裕和監督が『万引き家族』で描いたような、そこにあるのに誰も見ようとしない現実、を扱っています。是枝監督は「貧困」を、今敏監督は「ホームレス」を。

『東京ゴッドファーザーズ』の中で3人のホームレスが電車(総武線かな?)に乗っていると、周りの乗客が3人と距離をとって鼻をつまんでいたりします。くせーな、という罵声を吐く者もいます。そういえばポン・ジュノ監督の『パラサイト』でも「貧困の臭い」への言及がありました。
「普通」の市民は彼らを「臭い」とか「汚い」とかを理由に近づきません。理解しようともしないし、なんならいなくなってほしいとも思っています。
映画の話じゃないですが最近でも台風や地震の時の避難所にホームレスがいるのは困るとクレームをつける者がいたなんて残念なニュースがありました。

本作を実写でも描ける内容…と最初に書きましたが、確かに物語的にもビジュアル的にもアニメである必然性は、一見するとあまりないように思います。
しかし、これを実写で表現した場合、果たして観客は感情移入ができるでしょうか?
総武線のお客たちのように鼻を摘んで近づこうとしない「普通」の市民が、実写でリアルに表現されたホームレス達や彼らの生活を直視するでしょうか。
感情移入を容易にするために有名俳優を使うという手もあります。例えばギンちゃんを役所広司、ハナさんを草彅剛、ミユキを乃木坂の齋藤飛鳥なんかが演じれば、それなりに面白い映画にはなるでしょうが、嘘くささ、しらじらしさは否めなくなるでしょう。
だからアニメでした。アニメならばホームレスの生活もアニメに置き換えられたビジュアルとなり、リアリティーはあってもリアルではなくなるのです。
「普通」の人たち映画のギンちゃんたちへの感情移入が可能になると思うのです。

などと書きながら、当然の疑問というか欺瞞?も感じます。
アニメによって表現をソフトにするのと、有名俳優を使って親しみやすくするのと何が違うのだろう?と。結局私たちが目を背けていることに変わりはないのではないか?
結局、映画にすることで、フィクションとして扱うことで、私たちはホームレスの方々や、貧困に苦しむ方々の生き苦しさを、エンターテインメントのネタにして消費しているだけなのかもしれない、とそんなことを考えてしまうのです。
いや、そもそもホームレスの方々は映画館はもちろんのことレンタルや配信でも映画を観れないでしょう。

しかし、だからといって、ならばホームレスを描くにはドキュメンタリーじゃなきゃダメってことになるから物語にすることをやめる…となっては、いよいよ本格的に目を背けることになるわけです。

多分、今敏監督もホームレスを主人公にした映画を撮ることのジレンマを抱えながらそれでもアニメ作家として、自分が描きうる唯一の方法で、この物語を映画にしたのです。

そんな映画と社会の問題を考えさせながらもこの映画は、物語のあまりの面白さに、我を忘れ、身を乗り出して劇中の人物達に喝采を贈りたくなるのです。

そして気がつくのです。
少なくとも映画を見れる程度に「普通」の暮らしを営む私たちは、ホームレスの方々や貧困に苦しむ方がいるという現実は認識しなくてはいけないし、彼らもまた私たちと同じ人間であるということに。

それこそ映画の力じゃないかと思います。


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などと演説してしまいましたが、肝心の音楽のことを語ってませんでした。

今敏監督の作品の多くは平沢進の音楽と歌がハマりにハマって圧倒的な迫力で鳴り響きます。
今敏×平沢進の相性の良さは、宮崎駿×久石譲、押井守×川井憲次よりも上ではないかと思うほどです。逆に個性の強すぎる平沢進の音楽が、今敏以外の作家の作品に合うとはとても思えないくらいです。
ですが、『東京ゴッドファーザーズ』は例外的に音楽が平沢進ではありません。
『座頭市』以降の北野武映画の音楽を多数手がけている鈴木慶一が担当しています。
ジャンル的にはロックの方なのでしょうか?本作では、小気味良いリズムで電子音中心の劇伴音楽を提供していますが、そこはかとなく醸し出されるオシャレ感が、本作をより魅力的にしています。
鈴木慶一が主宰するムーンライダーズによる主題歌「No.9」は、ベートーヴェンの第九のいわゆる「歓喜の歌」の替え歌で、誰もがホッコリするラストの赤ん坊の笑顔に続けて演奏されて、年末感とともに、ちょっとしたハッピー感を演出して、物語の余韻に浸らせてくれます。

替え歌でない、ベートーヴェンの「歓喜の歌」もまた劇中で聞こえます。劇伴ではなく、ラジオから聴こえてくる現実音としても二度聞こえます。
一つはギンちゃんが成り行きで最期を見とることになる仙人みたいな風貌のホームレスのジイさんの段ボールハウスの中で。
もう一回は、ネタバレしないように書きますがギンちゃんが病院である人物とばったり出くわす場面で。
特に後者の場面では、なけなしのお金をハナさんの治療費のために出そうと苦渋の決断を強いられているところで「歓喜の歌」の前のわりと激しめの部分が流れていて、ふとギンちゃんが顔を上げて目の前の人物に気付いたところで、歓喜の歌の前のゆったりした序奏部がかかりまさかの再会に対するギンちゃんの戸惑いを表し、そしてギンちゃんがその人の名を呟き、カメラがロングショットになったところで、ようやく事態を飲み込めたギンちゃんの心を表現するように「歓喜の歌」が鳴り響く…といった具合で、ギンちゃんの心の動きとピタリシンクロしていて、短い時間ですがものすごく使い方が上手いです。後付けの音楽ではなくて、最初から狙った音楽演出だと思います。

どちらの場面もギンちゃんがらみのシーンで使われます。今敏監督の映画はいつも、加齢臭漂ってきそうなオッサンキャラへの愛を強く感じます。私自身、そんなオッサン世代になってしまいましたが、今は亡き今監督が残したオッサンが活躍するアニメの良さはオッサンだからこそわかるのかもしれないなどと思ったりします。
全国の若くもない皆様、是非とも今敏監督の『東京ゴッドファーザーズ』で、寂しい年末のちょっとしたハッピーを味わって癒されてください。


そんなところで今回はこの辺で
実はこの年末の慌ただしい時期に引っ越しをすることになりまして、しばらくバタバタしそうなので、「映像作品とクラシック音楽」シリーズの次回投稿は年明けになるかと思います。
クラシック音楽好きの皆様、映画好きの皆様、良いお年を!
来年もよろしくお願いします


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2 コメント

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Unknown (1938goo)
2021-12-17 22:16:00
「千年女優」は何度も観ましたが、他の二作は観ていませんでした。観てみます。映画を観られる幸せをあらためて思います。

お引越し、大変だと思いますが頑張って下さい。良いお年をお迎え下さい。
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Unknown (studioyunfat)
2021-12-19 10:46:17
@1938goo 1938goo様
コメントありがとうございます
千年女優も傑作ですよね
今更思ったのですが、松本零士の千年女王へのオマージュのタイトルだったんですかね?
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