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ホルスト惑星前夜

2022年09月23日 | 梵語入門

[あらまし] 数年前にサンスクリットを学習し始め、ひととおり文法を見た後、
宮廷詩人カーリダーサの『雲の使者』を読もうとして挫折した。
しかし今年は、まさにその作品をオンライン講座で読むことができている。
先生がいるって、楽。

サンスクリットのタイトルを、मेघदूत(メーガドゥータ)という。
英訳は、'The cloud messenger'。

主人公の夜叉は、仕事をサボったせいで、一年間、インド中部に飛ばされる。
半年ほど経った頃、残してきた妻に自分の無事を知らせるために、
雲にメッセンジャーを依頼する。
モンスーンが北上していくインドの雨雲の恵みに
ロマンスを掛け合わせた美麗な詩なんである。



インターネット上で、古典のテキストを読むことができる。
https://archive.org/details/meghadutammallinathatika/mode/2up

主に、英国統治下のインドで、盛んに出版された頃のものだ。
デーヴァナーガリーという、今でもインドの言語で使われている文字で印刷されている。
日本ではお墓の卒塔婆に書いてある梵字は、これが元になっている。

ただし、サンスクリットは元々は文字を持っていなかった。
ひたすら、口授で伝えられたのである。
とにかく暗唱する文化で、今でもええとこのお子たちは
意味も分からんうちから古典を暗唱するそうだ。



you tubeには、祈りの詩節を朗誦する動画がたくさん有る。
メーガドゥータのような文学作品も有るだろう、と思って、
検索してみた。

すると、サンスクリットの詩節を歌う動画に混じって、
ちょいと違うThe cloud messengerが見付かった。

ホルスト作曲だという。



『惑星』は、日本でも最もポップなクラシックの一曲だろう。
あの『惑星』を作曲したホルストが、メーガドゥータを題材に曲を書いているのだ。
知らなかった。

『惑星』の発表は1914年で、
『雲の使者』の完成は1910年。

聴いていただければ分かるが、大作、力作である。
https://youtu.be/d1jg94zWGoE
オーケストラの上で合唱が歌ってそりゃもう壮大である。
調性から離れて自在に動く音は、雲が風に運ばれて夜叉の情熱を届ける様子を思わせる。

ホルストはいとこへの手紙で、翻訳から始めて7年もかかった、と書いている。

もっと評価されても良い作品なんじゃなかろうか。



ホルストは1893年から王立音楽院で勉強を始めているが、
そのわりとすぐ後に、サンスクリットを学び始めたそうだ。
初期の作品に、交響詩『インドラ』、オペラ『シーター』、『サーヴィトリー』、
リグ・ヴェーダをもとにした沢山の歌曲を作っているという。
あーら全然知らんかった。

インド占星術では天王星海王星は用いないけれど、
『惑星』には含まれている。
西洋占星術っぽい。
サンスクリット文学への興味から、
インドの古典的な科学の一つである占星術に繋がったものかと思ったが、
そこまで明確ではないようだ。



19世紀末のイギリスで、サンスクリット研究が盛んだった。
https://blog.goo.ne.jp/su-san43/e/0c9bf3d65074cb8839f4e9e15616f1f8



ちなみに『惑星』の後には『日本組曲』を書いている。
東洋的なものへの興味が強かったんだろう。

おっと、『雲の使者』と『惑星』の間には、東洋組曲『ベニ・モラ』を書いている。
https://www.youtube.com/watch?v=VA5CImEv7UI
私も、オーケストラにいた頃、演奏したことが有る。



中学生の頃、オーケストラで『惑星』を演奏した。
全曲ではなかった。
「火星」の中で、ユーフォニウムのソロが有るが、
私がトロンボーンで吹いた。

今、『惑星』を調べてみると、
ホルストはあれこれと禁止していたことを知る。
「抜粋演奏をしちゃダメ」とか
「楽器の編成は譜面に忠実にしろ」とか。

しかしその禁則には、「ただしアマチュアオーケストラはその限りではない」
と付け加えられているそうだ。
私の経験は、まったくホルストが想定したとおりだったわけだ。



とびきり有名な『惑星』という作品の前に、
インドから発想した作品がいくつも有ることをあらためて知った。
私はもう演奏する機会は無いだろうけど、
せめて聴いてみよう。


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