二十代はずっとバンド活動をしていた。
メインはR&B、ソウル、ファンクといったジャンルだった。
三十歳になる頃は、いくつかのバンドをかけもちしていた。
あるスカバンドのライブメンバーとしてお手伝いして、
レコーディングも参加していた。
しかし、メジャーデビュー前後の頃に、戦力外通告を受けた。
ちょうどその頃、何年か付き合っていた女性との
別れのぬかるみに足を取られていた。
公私ともども認めてもらえていない感じ。
きっちりと精神的な沼にはまった。
一年後くらいに、バンド活動を再開しようと思ったが、
右手が腱鞘炎になった。
トロンボーンを吹く上で、右手の損傷はさほどの痛手ではない。
しかし、利き手の腱鞘炎というのは、何もできない。
字も書けない、ラーメンも食えない、パンツも引き上げられない。
気持ちがまた下がってしまった。
そうやってバンド業界から離れている時間が長くなるほど、
復帰は難しくなる。
気付けば時間が経っている。
そんな中、出身高校のオーケストラの指導にはずっと通っていた。
自分の音楽活動の中心としてやっていた。
そこではチューバを担当して演奏に参加していた。
そして、トロンボーンを吹く場を持たずに過ごしていた。
その後、ウツ状態から立ち直った経験や、
腱鞘炎を治療してくれた様々な治療家との出会いなどから、
鍼灸を志した。
オーケストラ通いも週に1回以下に減らし、
良さげなバンドのお誘いも断って、
3年間は勉強に集中した。
卒業後、ムズムズと音楽の虫が騒いだが、
既にトロンボーンから離れ過ぎていた。
※
そんな折、ムカシのバンド仲間の一人が死んだ。
葬儀の場で、大勢の旧知の者たちに会った。
みんないる。
みんなバンドを続けている。
私は何をやっているんだろう。
この頃にSNSを始めた。
また、この再会がきっかけで、
旧知のバンド仲間が、自分たちのライブが有ると
知らせてくれるようになった。
しかし、私は行きたくなかった。
自分が演奏する側でないことに、我慢がならなかった。
悔しくてたまらなかった。
悔しさをバネに練習するという方向にはいけず、
私はただ妬ましかった。
何もしなかったわけではなかった。
まずとにかく毎日吹くようにしたり、
セッションに出向いたりもした。
しかし、離れ過ぎていたので、うまくできない。
しかも、できていた時の自分のイメージが有る。
過去の自分のイメージのまま吹こうとしたって、それはできない。
元々人見知りだが、バンド活動をしていた頃は
お客さんでも演奏者でも、初対面の人でもそこそこ話せるようにはなっていた。
しかし、そういう世界からしばらく離れていると、
また人見知りがぶり返している。
セッションの場に行っても、なかなか自分から声を掛けたり、
発案したり、行動に移したりといったことができない。
できないことばかりが重なって、
楽器をやることがつらくさえなった。
※
また、コンビで演奏していたやまちゃんとの関係も悪くなった。
やまちゃんは「もうベースは弾かない」と言った。
こうなったら、一人で何かしなきゃと思い、
弾き語りをyou tubeにアップすることを始めた。
それが9年くらい前のことだ。
ベーシストを探そうとも考えてみたが、
どう考えても、私はやまちゃんと演奏したいだけで、
他の人を探すことに懸命になれなかった。
※
その頃、オーケストラの後輩と再会して、
アンサンブルをやろうということになった。
3人から始めて、少しずつ仲間が増えた。
やまちゃんもホルンを吹きに来た。
※
ある時、やまちゃんにベースを頼んでみた。
タイミングも良かったのか、OKを得た。
活動再開である。
しかし、やまちゃんは他にも
オーケストラでホルンを吹いたり、サークルで和太鼓を叩いたりしていて、
忙しい。
二人のバンドの優先順位は、低かった。
※
そこへ来て、コロナ禍である。
様々な音楽活動が、停止した。
私は変わらず続けた。
世の中に出ずにやっていたので、変わらず続けられた。
やまちゃんの他の活動が無くなったので、
一緒にできる機会が増えた。
※
2020年には8曲をyou tubeにアップした。
2021年は何曲だったか数えていないが、
活動が安定化した。
2020年が終わる頃、私は
自分がムカシのバンド仲間たちの活動を
もう気にしていないことに気付いた。
妬んでいないのだ。
自分の活動ができるようになって、
他人のことが気にならなくなった。
やれやれ。
やっと抜け出たか。
※
そして先日、更に心境が変わった。
トロンボーンが思うように吹けないのは、
「単なる練習不足だ」と。
以前はあんな音も出せた、こんなこともできた、
という事実は変わり無いのだが、
今できないのは「単なる練習不足だ」から。
という当たり前の気持ちになったのだ。
すると、練習が苦にならなくなった。
楽器を吹くのがつらくなくなった。
トロンボーンが楽しくなってきた。
はー。スッキリ!
20年の長い時間、どんよりしていたもんだ。
※
というわけで、
なんだかこれから自分は伸びる気がしている次第です。
どうなるか分からんけど、
もうちょっとやってみます。
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