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サンスクリットのいろは

2021年10月27日 | 梵語入門
[あらまし] 5年くらい前からサンスクリットを独習し始め、
今は東大仏教青年会のオンライン講座で中級を受講している。

初級は一年間で、教科書に載っている文法をザーッと見る。
精一杯の一年間が過ぎ去る。
しかしそれで文法が全部分かるようなサンスクリットじゃない。

なんせ、世界の文法学の初めがサンスクリットの文法だったという。
言葉の法則を観察して法則をまとめる、ということを
初めてやったのがサンスクリット文法だったというのだ。

文法家パーニニは、紀元前4世紀頃の人だという。



パーニニの文法は他のインド古典文献同様、
口授で伝えられ、現在では文字でも書かれている。
初学者がその本を読んでみたって、チンプンカンプンである。

一つの項目は、ほんのいくつかの単語でできている、
文とも言えないような短い文言である。
それが8章続く。

全部で4000近い数の、オマジナイが並ぶ。
それが、太古の文法書なのだ。



冒頭は音韻論から始まる。

そうだ。
現代の外国語のテキストだって、
まずは、その言語で使う音と文字の説明から始まる。

言葉は文法である前にまず音なのだ。
音と言っても、人間が発する声なのだ。
ここんとこはとっても重要だ。



パーニニは、サンスクリットで用いる音について
シヴァ神から教えを受けたとされている。

シヴァ神が現れて、太鼓を叩く。
すると、サンスクリットで使う音が表される。
シヴァは太鼓を14回叩いたのだという。

へー。

表にすると、こんなことになっている。

अ इ उ ण् |
ऋ ऌ क् |
ए ओ ङ् |
ऐ औ च् |
ह य व र ट् |
ल ण् |
ञ म ङ ण न म् |
झ भ ञ् |
घ ढ ध ष् |
ज ब ग ड द श् |
ख फ छ ठ थ च ट त व् |
क प य् |
श ष स र् |
ह ल् |

ローマ字で書くと、こう。

a i u Ṇ
ṛ ḷ K
e o Ṅ
ai au C
ha ya va ra Ṭ
la Ṇ
ña ma ṅa ṇa na M
jha bha Ñ
gha ḍha dha Ṣ
ja ba ga ḍa da Ś
kha pha cha ṭha tha ca ṭa ta V
ka pa Y
śa ṣa sa R
ha L

大文字で書いてあるのは、発音のための文字ではなく、
一種の合図のようなものである。
こいつの機能がすごい。

たとえば「aṆ」と言うと、表の一行目のことを指し、
つまり「aiu」の音を意味する。
その調子で、「aC」と言えば「全ての母音」という意味になるし、
「khaR」なら「無声音」を指す。

シヴァ神が太鼓を一発叩く毎に、
サンスクリットの音が整理された形で示された、というわけだ。

なんかそんな話がお大師様に無かったっけか、
と思う。

さてお気付きか。
「aiu」だの「eo」だの「yavara」だの
なんだか現代日本人には見慣れた音の並びが見える。

五十音図はサンスクリットの音韻論を一つの土台にして作られたからだ。

さっきお大師様なんてなことを連想したが、
五十音のできる前に日本人が音の順序のたよりにしていたのは
「いろは」だ。
そう言えば、いろは歌を作ったのは弘法大師ということになっている。



そのシヴァを讃える歌について書こうと思っていたのだが、
それはまた、明日。
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