[あらすじ] 同居母86歳要介護2パーキンソン病認知症状少々、
2月28日に満87歳の誕生日を迎えた。
その一ヶ月ほども前から、「うな重が食べたい」というリクエストが有った。
食にまつわる欲求が強い。
小柄で年寄りで歩きも不自由なわりには、
よく食べる。
「一度に少ししか食べられなくなった。」と言うけれど、
カップ麺一個は一食で食べきれる。
おやつもよく食べるし、お湯を注ぐだけのコーンスープなどもよく飲む。
そしてアイスクリームも有れば毎日食べるイキオイだ。
且つ、合間には飴を舐めている。
※
糖分を摂ることで、すぐに血糖値が上がる。
ただ、すぐに上がったものは下がり方も激しい。
糖分がちな食生活は血糖値の乱高下をもたらす。
それは心身を蝕む。
なんてな説明を十年以上前から何度も話してきたが、
母"は食生活を変えはしなかった。
若い頃から「ひだる病」と自称していたが、
それは血糖値が急激に下がる感覚だったのだろう。
※
「おうちでごはんがつくりたい」というリクエストも有る。
あれこれ危険やら困難やらが伴うので、何年かかけて少しずつ減らしてきたが、
やりたい気持ちは収まらない。
※
そんな願いを叶えてあげよう。
年に一度のお誕生日だものね。
※
心当たりの鰻料理屋に電話をしてみた。
素人が生きた鰻を手に入れるのは難しいだろう。
誕生日は分かっているのだから、日付を伝えて
その日に一尾分けてもらおうと考えた。
「あいにくだけど」
と言われ、断られると思った。
店主は続けた。
「その日は定休日だから。
その前日に取りに来てくれるんなら、分けてあげるよ。」
と言うのだ。
「何、バケツん中に入れときゃいいよ。
あ、バケツは持って来てね。」
なんと気安く活鰻は手に入ることか。
※
ーてっきり怒られるかと思ってましたよ。
持参のバケツに鰻を入れてもらいながら、私は店主に礼を述べた。
ー「串打ち三年、割き八年、焼きは一生」って言って追い払われるかと。
店主は笑いながら、
「当ったり前だ。無理だと分かってるからこっちも冗談でくれてやるんだ。」
ははあ。おそれいりました。
※
棚の奥にしまった大きな俎板を出した。
家に有る一番太い錐を持ってきた。
母に軍手をさせて、
ーはい、どうぞ。思う存分、料理して。
私は今のうちに炭火を起こしておくから。
※
庭の隅に炭を置き、バーナーで火を起こした。
バーナーを使うととても簡単で楽で速い。
赤くなった炭を火箸でつまんで鍋に入れた。
台所に戻ると、思いもかけない光景になっていた。
※
私が見た状態から説明する。
台所の床に、3尾の鰻がのたうち回っていた。
と、見えた。
しかし、どうもおかしい細い、と思って近付くと、
それは三枚に下ろされた鰻だったのだ。
つまり、右半身と左半身と骨がうねっていたのである。
その横で飼い犬ジーロくん14歳半が怯えつつも興味を持ちつつも近寄れずに戸惑っていた。
※
何がどうしてこうもうまく鰻を三枚に下ろすことができたのか。
しゃべれる者は母しかいないので、母の言うことを信用するしか無い。
「私が鰻を掴もうとしたら、もちろん掴めるわけなんて無いんだけど、
すぐにジーロが来て、危ないからあっち行ってなさいって言ったんだけど、
私、錐を落としちゃって、危ない!って叫んだらジーロが驚いて、
ピョンと跳ねたら包丁が落ちて、鰻もほぼ同時に落ちて、
ここに元々置いてあったもう一本の包丁も落ちて、
ビックリして避けてたからジーロは無事で、本当に良かった。
犬が無事で本当に良かったが、
なんだろう、
奇跡?
私は骨から離れて動きを止めた身を切って、串を通し、
焼くのはどうぞ、と母に渡した。
※
なぜだかうまくいってしまった。
母がこれに味をしめて余計に料理したがるようになってしまやしないか。
と思ったら、
「おいしかった。
でも濃厚だからかしら、お寿司みたいに毎日食べたいとは思わないわね。
明日はお寿司が握りたい。」
ああ。
「握り寿司が食べたい。」ではなく、
「お寿司が握りたい。」になってしまったか。
2月28日に満87歳の誕生日を迎えた。
その一ヶ月ほども前から、「うな重が食べたい」というリクエストが有った。
食にまつわる欲求が強い。
小柄で年寄りで歩きも不自由なわりには、
よく食べる。
「一度に少ししか食べられなくなった。」と言うけれど、
カップ麺一個は一食で食べきれる。
おやつもよく食べるし、お湯を注ぐだけのコーンスープなどもよく飲む。
そしてアイスクリームも有れば毎日食べるイキオイだ。
且つ、合間には飴を舐めている。
※
糖分を摂ることで、すぐに血糖値が上がる。
ただ、すぐに上がったものは下がり方も激しい。
糖分がちな食生活は血糖値の乱高下をもたらす。
それは心身を蝕む。
なんてな説明を十年以上前から何度も話してきたが、
母"は食生活を変えはしなかった。
若い頃から「ひだる病」と自称していたが、
それは血糖値が急激に下がる感覚だったのだろう。
※
「おうちでごはんがつくりたい」というリクエストも有る。
あれこれ危険やら困難やらが伴うので、何年かかけて少しずつ減らしてきたが、
やりたい気持ちは収まらない。
※
そんな願いを叶えてあげよう。
年に一度のお誕生日だものね。
※
心当たりの鰻料理屋に電話をしてみた。
素人が生きた鰻を手に入れるのは難しいだろう。
誕生日は分かっているのだから、日付を伝えて
その日に一尾分けてもらおうと考えた。
「あいにくだけど」
と言われ、断られると思った。
店主は続けた。
「その日は定休日だから。
その前日に取りに来てくれるんなら、分けてあげるよ。」
と言うのだ。
「何、バケツん中に入れときゃいいよ。
あ、バケツは持って来てね。」
なんと気安く活鰻は手に入ることか。
※
ーてっきり怒られるかと思ってましたよ。
持参のバケツに鰻を入れてもらいながら、私は店主に礼を述べた。
ー「串打ち三年、割き八年、焼きは一生」って言って追い払われるかと。
店主は笑いながら、
「当ったり前だ。無理だと分かってるからこっちも冗談でくれてやるんだ。」
ははあ。おそれいりました。
※
棚の奥にしまった大きな俎板を出した。
家に有る一番太い錐を持ってきた。
母に軍手をさせて、
ーはい、どうぞ。思う存分、料理して。
私は今のうちに炭火を起こしておくから。
※
庭の隅に炭を置き、バーナーで火を起こした。
バーナーを使うととても簡単で楽で速い。
赤くなった炭を火箸でつまんで鍋に入れた。
台所に戻ると、思いもかけない光景になっていた。
※
私が見た状態から説明する。
台所の床に、3尾の鰻がのたうち回っていた。
と、見えた。
しかし、どうもおかしい細い、と思って近付くと、
それは三枚に下ろされた鰻だったのだ。
つまり、右半身と左半身と骨がうねっていたのである。
その横で飼い犬ジーロくん14歳半が怯えつつも興味を持ちつつも近寄れずに戸惑っていた。
※
何がどうしてこうもうまく鰻を三枚に下ろすことができたのか。
しゃべれる者は母しかいないので、母の言うことを信用するしか無い。
「私が鰻を掴もうとしたら、もちろん掴めるわけなんて無いんだけど、
すぐにジーロが来て、危ないからあっち行ってなさいって言ったんだけど、
私、錐を落としちゃって、危ない!って叫んだらジーロが驚いて、
ピョンと跳ねたら包丁が落ちて、鰻もほぼ同時に落ちて、
ここに元々置いてあったもう一本の包丁も落ちて、
ビックリして避けてたからジーロは無事で、本当に良かった。
犬が無事で本当に良かったが、
なんだろう、
奇跡?
私は骨から離れて動きを止めた身を切って、串を通し、
焼くのはどうぞ、と母に渡した。
※
なぜだかうまくいってしまった。
母がこれに味をしめて余計に料理したがるようになってしまやしないか。
と思ったら、
「おいしかった。
でも濃厚だからかしら、お寿司みたいに毎日食べたいとは思わないわね。
明日はお寿司が握りたい。」
ああ。
「握り寿司が食べたい。」ではなく、
「お寿司が握りたい。」になってしまったか。
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