犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

ゲゲゲの調布発信
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ニホンオオカミ・・・

2012年12月01日 | 毎月馬鹿
数年前、犬を連れて奥秩父の山へ登った時のことである。

両神山というその山は、古くからの信仰の山だ。
かつては女人禁制だった山の中には、ところどころに
道標のように石仏がいる。

周辺の山から見ると、ギザギザの山稜が連なるその姿はひときわ目を引く。
木々に覆われた低山が続く中、岩のそそり立つ所もある、魅力的な山だ。
その厳しい姿から、信仰を呼んだのだろうか。

両神の名の由来は諸説有る。
その神社にイザナギ・イザナミの二神を祀っているからだとか、
日本武尊(ヤマトタケル)が東征した時、この辺りを通って8日間見えていたから
「八日見」が訛ってりょうかみになったとか。
また、役小角(えんのおづぬ)が開山したとか。

登山口には両神神社の下社、頂上近くには上社が有る。
この神社には、狛犬ではなく、山犬、つまり狼がすわっている。

イヌのご先祖のオオカミが守る山ならば、信仰の山とは言え
犬を連れて行ってもいいかな、と不埒に考えて、
2匹飼ううちの雄犬と一緒に山に入った。

道は険しい箇所も有り、犬には乗り越えにくいことも有ったが、
なんとか山頂に迫った。
そう、もうあと30分ほどで山頂という辺りで、
道に迷ってしまった。

気付けば道は消えている。

常に数メートル先まで道を確認しながら進んでいるのに、
さっきまではそこが道だとはっきり見えていたのに、
ある時、森の中で、前後左右を見渡しても
どちらへ行ったものか、どちらもひらたく森が続くばかりとなる。

犬を呼び寄せる。
迂闊に離れると、突然の岩場で落ちかねない。
犬は、道が有ればそれを辿る。
しかし、無ければ無いでずんずん森へ入って行くので、
犬について行っても道が有るわけではない。

たぶん、ある時点から、道だと思っていたものは獣道だったのだろう。

標高を変えずに横ばいするように進むと、大きな岩に突き当たる。
数十メートルは落ちる岩場に、背筋がぞっとする。
犬は繋いで進む。

犬は案外、自分が踏ん張れるかどうかの判断を誤る。
以前飼っていた犬も、くんくん地面を嗅いで進み、
岩の上を踏ん張りきれず、気の毒な表情を浮かべて滑り落ちて行った。

藪の奥で「どぼん」と渓流に落ちる音がした。
名前を繰り返し呼びながら、下流へ走ると、
ガサガサと音がして、ズブ濡れの犬がまっすぐ私の方へ上って来た。

あの程度なら良いが、この岩場はそうは行かない。
落ちたら今生の別れだ。
私も助けに行けない。

そんな不安もあるが、とにかく道に戻りたい。
山で道に迷ったら、掟が有る。

山を下って里に出る。

これは間違い。
更なる困難が待ち受けている。
沢にはまり込むとか、里に出ない谷筋に降りてしまうとか、
寒いとか暗いとか更に迷うとか…。

上って尾根に出る。これが正解。

なのだが。
迷ったあげくに、たいへんな急斜面の下に来ており、
尾根に出られるような状況ではない。

途方に暮れて座り込んでいると、隣に立つ犬がピンと耳を立てて顔を上げる。
視線の先を見てみるが、何も見えない。
空をしきりに嗅いでいる。
無論、私には何もにおわない。

犬は低く小さくうなったかと思うと、ひと声吠えて立ち上がった。
私は引き綱をしっかり握り直し、一緒に立った。
犬の背の毛は逆立ち、全身に緊張がみなぎっているのが分かる。
私も緊張する。

と、犬の見ている方向、今いる所より少し下に、何かが動く気配があった。

人、ならひと安心なのだが、違うようだ。
鹿ではない、いや仔鹿か?
黒っぽい。
カモシカ?

藪の中を動く音が聞こえた。
低い笹藪に隠れる程度の大きさ。
また音。

ついに犬がひと声、吠えた。
その途端、影が動いた。
藪から藪へ。

何?

犬はしきりに鼻を動かしている。
もううなってはいない。

影がまた動いた。
こちらから離れて行く。
犬はまだ緊張して、目と鼻と耳で跡を追う。

と、突然、影が走った。
犬は追って駆け出した。
あまり不意のことで、引き綱が手から離れてしまった。

私は慌てて後を追う。
しかし、山の中で四足のものにはかなわない。
犬は何かを追いかけてどんどん離れて行く。
私は犬の名前を呼びながら、斜面を追う。

しかし犬も、そう楽ではなさそうだ。
時に斜面を滑り落ちながら進んでいる。
一方、影は身軽に走って行く。
少し犬を引き離すと、余裕ある様子で止まってこちらの様子を見ている。
急いで逃げる必要もない、という感じだ。

それは犬と同じ大きさくらいで、黒ずんでいる。
カモシカかとも思ったが、シカの類の走り方ではない。
藪から藪へと姿を消しては瞬時現れるので、
どうにも見極められない。

そんなことをどれくらい続けていたのか。
これでは元にいた所にすら戻れなくなってしまう、と
不安も募った頃、とうとう、その生き物さえ見失ってしまった。

犬は地面を嗅ぎ回っているが、どちらへ行ったものか、分からないようだ。

と、犬の嗅ぐ辺りを見ると、石が整った形をしている。
近付いて、その横の岩を見ると、なんと倒れた石仏だった。
苔むした石仏は、荒れた山の中で倒れ、肩が欠けていた。
起こそうとしてみたが、到底起こせるような重さではなかった。

しかし、人工の物だ。
山の中で人の手になる物を見るとこんなに安心するのか。
今までの道沿いにも石仏が有ったところから見ると、ここは過去に
道であったのだろう。
そう思って周囲を見ると、なんとなくコースが見えてくるようだ。

石仏を見失わないように、少しずつ範囲を広げながら探すと、
ようやく道らしきものが見付かった。
そして、その筋を辿ると、10分後には登山道に戻ることができた。

山頂近い神社にたどり着き、思わず座り込む。
と、遠く小さく、犬の遠吠えのような鳴き声が聞こえたような気がした。


※※※

長々と読んでくださってありがとうございますね。
途中から、つくりばなしです。
嘘じゃありません。法螺ですよ。ね。
山は危ないので道から逸れてはいけません。
ではでは

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2 コメント

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ん・・・? (リクK)
2012-12-01 13:39:20
途中から え、おや?と思ってましたが
面白かったので、よろしかったです。

我が家の犬でしたら、
残念ながらそのような活躍は望めないと思います。
返信する
ほほ (す~さん)
2012-12-02 08:07:49
毎月一日は法螺を吹こうか、と思いまして。
ニホンオオカミは絶滅して100年は経つようですね。

ウチの犬もビビリ虫で、実際は抱いて降りた箇所もありました。
14kgも有るのに!
返信する

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