以下は、昨日発売された月刊誌Hanadaに掲載されている堤曉氏と久保紘之氏の名物コラムからである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
以下は前章の続きである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
以下は前章の続きである。
暗殺で世界情勢が変わる
堤
トランプ暗殺の可能性について云々したけど、これはトランプだけではなく、アメリカの行く末、ひいては日本の今後にもかかわってくる。
さきほどトランプのマッキンリー評に触れたけど、マッキンリー暗殺の真相はいまだに謎だけど、彼の暗殺によって大統領に昇格したのが副大統領のセオドア・ルーズベルトだ。
セオドアは「テディ・べア(熊)」の愛称で知られる。
このベアは日露戦争の講和を仲介した。
日本は日本海海戦でも奉天会戦でも勝利した。
通常、戦争の始末は負けたほうが領土割譲や賠償金を支払う。
ロシアは南満州の権益、南樺太と千島列島の割譲には応じたけど、賠償金の支払いには応じない。
ために怒った日本国民が、日比谷の焼き討ちや国民新聞社襲撃事件を引き起こす。
実は、ロシアが賠償金を支払わないように仕向けたのはテディ・ベアだ。
それだけではない。
この熊は、ほどなく17隻の艦隊を白く塗りたくったホワイト・フリート(白い艦隊)を横浜沖に差し向け、示威行為に及んでいる。
日本が勢威を増すのを警戒したんだ。
マッキンリーもテデイ・ベアも、アルフレッド・マハンの信奉者だ。
マハンは『海上権力史論』を著し、早くからハワイを併合しろと説いた。
1898年、スペイン領キューバで米軍艦メイン号が原因不明の爆発で沈没、 二百数十人の死者を出した。
原因不明とされるが、米側のヤラセだったとする説もある。
これを機に、マッキンリーはスペインに宣戦布告、連戦連勝でカリブ海をアメリカの湖にする。
のみならず、スペインからフイリピンを掠め取り、太平洋をアメリカの湖にする足がかりとする。
この米西戦争でテデイ・ベアは義勇軍を組織して参戦し、その功が認められてマッキンリーの副大統領となる。
セオドアの弟・エリオットの娘・エレノアを妻にしたのが、フランクリン・ルーズベルト(FDR)だ。
FDRが1937年10月、シカゴで、有名な「隔離演説」(quarantine speech)をする。
暗にドイツ、イタリア、日本を黴(ばい)菌に譬え、これを隔離せよと説き、防疫演説とも呼ばれる。
その後、FDRはこれでもかと日本に経済制裁を加え、「大事なことは、日本に先に一発を撃たせることだ」とするスティムソン陸軍長官の献言を入れ、石油全面禁輸で真珠湾攻撃に誘導する。
隔離演説から4年後の1941年12月のこと。
アメリカは世界一の経済力と軍事力を併せ持つ。
その大統領が誰になるかで世界情勢は変わる。
現に、トランプが大統領に返り咲いて1ヵ月あまりで世界情勢は大きく変わりつつある。
世界一の権力者、その自覚の有無が、トランプとバイデンの違いだ。
久保
付け加えるなら、僕はUSスチールの問題もそういう点に注意が必要だから、岸田の訪米以来、何度も言及しているんです。
アメリカ人の根っこには、白人の黄色人種に対する優越・蔑視感情がある。
日本は日露戦争までは欧米で評価が高かったのに、カリフォルニアの一地方新聞の報道を機に、あっという間に日本人排除が吹き荒れ、いわゆるイェローペリル(黄禍論)の嵐に巻き込まれてしまうのです。
理由は、日本がアメリカにとって脅威となってきたから。
実際に、アメリカの大手鉄鋼メーカー「クリーブランド・クリフス」が別の鉄鋼メーカーと協力してUSスチールを買収する可能性があると報じられた際に、クリーブランド・クリフスの社長が「中国は悪だ。しかし、日本はもっと悪い」「日本よ、気をつけろ。1945年から何も学んでいない」などと、リメンバー・パールハーバーを蒸し返そうと躍起になっている。
もちろん、日本人の好感度も日本文化の浸透も当時とは比較になら’ないけど、アメリカ社会は人種が入りまじった分断と差別と嫉妬の坩堝。
小さな火種が、いつ燎原の火のように全米に燃え広がるかわかったものではない。
だから僕は、日鉄の無神経な対応を批判しているんですよ。
トランプの主張は常識的
堤
トランプはよく言う。
「アメリカでモノを売りたかったら、アメリカで作れ。私はアメリカに製造業を復活させたい」
彼が関税をかけまくるのはそのためだ。
製造業の復活を加速させたい。
だけど、おかしなもんだよ。
そもそも米中国交回復をやったニクソン以来、歴代の大統領はせっせと中国を「世界の工場」に育ててきた。
中国が貧困から脱すれば共産主義をやめて民主主義の国になる、と淡い期待を抱いてね。
ところが、一向にそうはならない。
それどころか、どんどん逆に強固な権威主義的、専制独裁国家になってゆく。挙句、アメリカの覇権を脅かす存在になってゆく。
そんな中国について、晩年のニクソンは言った。
「どうやら俺たちはフランケンシュタインを生んでしまったようだ」
しっかりモノを作って、しっかり売ることを産業資本主義というなら、それをアメリカは中国に教え込んだ。
一方、アメリカはカネにカネを生ませる金融資本主義にどんどん傾斜していく。
ビル・クリントン以来、ロクでもない大統領が続いたけど、トランプは違う。彼が製造業の復活を目指すのは、これによって雇用を確保したいからだ。
国の経済は株価、GDP、失業率の三つの指標によって評価される。
日銀総裁は「物価の番人」と呼ばれ、物価の上下を注視する。
対して、欧米の中央銀行総裁が注視するのは失業率だ。
これが上がれば「お前はクビだ」となる。
政治の要諦も失業率にあるのではないか。
トランプはそれをよく知っている。
編集部
トランプ大統領は就任式で、「アメリカの完全な復興と『常識の革命』を始める」「アメリカの黄金時代がいまから始まる」と宣言しました。
堤
トランプは一見、奇想天外なことをやっているように見えて、その実、極めて常識的な主張も多い。
「これからのジェンダーは男と女の二つしかない」なんていうのも、「常識の復権」かな。
アメリカ第一主義だって、どこの国の首相だって、まともな奴なら「わが国第一主義」だよ。
それにしても、石破を見ていると、安倍晋三がいかにトランプをうまく扱っていたか、よくわかるね。
久保
トランプのディールのおもしろいところは、チキングームであること。
距離を隔てて向き合った二台の車が猛スピードで近づき、どちらが先に道を譲るか、度胸試しをする。
若者向きのアメリカ映画でおなじみのヤツです。
最後まで譲らなければ二台は自滅、核戦争の場合は世界が消滅する。
だから、トランプには”止め男”が必要なのです。
激しくティールをしている最中に、相応に「まあまあ」と言って仲裁してくれる存在で、まさに安倍は打つてつけの”止め男”だった。
たとえば、メルケルとトランプがやり合っている時に間に入っだのは、いまでも国際外交の語り草になっています。
トランプにとっても、振り上げた拳を下げられるから有難い。
そうやって有利なディールのポジションを確保するわけです。
安倍はトランプのいい相棒だった。
実際、トランプは石破との会談の冒頭で「シンソーは偉大な友人だった。あれほど悲しかったことはない」と悼(いた)んでいました。
共同記者会見でも、日本の防衛費増に関し、「私はシンゾーと一所懸命取り組んだ」と振り返ったり、約40分間で5回も安倍の名前を口にしていた。
要するに、「安倍は俺の相棒だった」と言っているわけです。
安倍の成功は俺の成功で、俺の成功は安倍の成功。二人三脚でやってきたんだと。
逆に、安倍政治の否定はトランプ政治の否定。
「安倍をけなすことは俺をけなすことだ」とね。
これは明らかに石破への忠告、というより警告のようなものでしょう。
堤
トランプにしてみれば、当然、石破の情報は入っていて、会った時には「こいつか、シンゾーが一番嫌ったという男は」と思っただろうね。
久保
なのに、タフだなんだという言葉に舞い上がっているんだから、石破はよくよくおめでたい男だよ。
この稿続く。