第1話:切れそうで切れない「テニスラケットのガット」
私は20年以上のテニス愛好家でした。今は卒業しましたがテニスラケットはいっぱい
持っています。そして、捨てることができずに、押し入れの奥に今も仕舞いこんであり
ます。
私はスピンをかけたショットを打つのでよくガットが切れました。そのたびに張り直す
のですが、ガット代金がばかになりませんでした。ある試合会場での出来事です。
ラリーを続けている時、少しずつ打球音が変化していることに気が付きました。
ガットを爪でずらして見ると交差する点のガットが削れて細くなっていました。普通
なら予備のラケットと交換するのですが、この半分削れガットのラケットでボールを
打つと、相手のコートに着地後、微妙な変化をするようで、相手が打ちかえにくそう
に感じました。
「よし、このガットが切れるまでやってみよう」と考え、そのまま勝負に挑みました。
その後、溝は広がり一打毎にガットのズレも大きくなりましたが、相手のミスショット
も大きくなり私は優位になりました。
私は「このまま行け!切れるなよ!」と祈る気持ちで打ちました。サーブはスライスで
打つのですが、この変化も大きくなり、エースがとれるようになりました。
この日、切れそうで切れないガットは最後まで切れずに私は勝利しました。そして試合
終了後、相手の選手と握手した時です。「プツ、プツ」と複数回の音が聞こえました。
複数カ所が一度に切れたようです。
試合中に切れなかった幸運に感謝しました。今でもあの時の事を覚えています。
私を勝たせてくれた「切れそうで切れないガット」でした。そのままにしておくと、
ラケットがゆがむので、急いでガットの張り替えを依頼しました。
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第2話:切れそうで切れない「山頂の雲」
私は車でふもとまで行くお手軽山歩きによく行きます。特に上高地はお気に入りで、
乗合バスに乗り大正池で下りて、河童橋までのハイキングは起伏もなく山野草を観賞
しつつ、山のさわやかな風を受けて歩けるので、皆さんにお勧めです。
ある年、大正池で下りた私たち家族はあいにくの雨中ハイキングとなりました。強い
雨ではありませんでしたが、間断なく降り、天気予報も一日雨の予報でした。
でもカッパを着て、傘をさして歩き始めてしばらくしたら雨が小降りになり、河童橋
までの中間点にある田代池ではすっかり上がってくれました。
河童橋からの穂高連邦の眺めに期待を持たせる天候になったのです。梓川沿いに歩い
て行くと、穂高連邦の山並みが迎えてくれますが、山頂は雲で見ることができません。
でも雲の流れが速かったので、河童橋での青空の期待感は膨らみました。
しかし、河童橋に到着しても雲は山頂部分だけ残ってどいてくれません。雲の流れはあ
るので雲の切れ目があるだろうとカメラを構えてシャッターチャンスを待ちました。
雲の流れを読む目と自由奔放な雲の流れとの真剣勝負です。「雲が切れそうだ!」
「アッ。ダメだ!」の壮絶バトルの始まりです。
「切れそうで切れない山頂の雲」との闘は2時間を超えましたが、時間切れで私の完敗
でした。一度も山頂を見ることなく帰ることになったのです。
雲が切れそうな、思わせぶりな瞬間は多々あったのですが残念でした。
長い闘いの成果として山頂に雲がかかった写真が約100枚私の手元に残りました。
私は雲に遊ばれたのでしょうね。